第16話 モジョ子は契約する
どうして私は土曜日の朝11時に原宿の、こんな人の多いラフォーレ前にいるのでしょうか。いつもなら家で朝10時にリルリルフェアリルみて癒された後に優雅にお菓子を食べているというのに!
そう言えばフェアリルもサ〇リオだったよね? レンッちの妹さんも見てるのかな?
「お待たせー」
比較的個性的なファッションな人がたくさんいる原宿の中でも、中島君の金髪は目立つ。ピンクのTシャツに、薄いベージュのズボンを、制服同様裾を少し折り、下は白いスニーカー。
ベルトが少し派手なものだったけれど、中島君にはよく似合っていた。
ってかピンク似合っててズボンのすそ折り曲げてるとか中島君はトド松だったの?
なんてことを考えている私を、上から下まで眺めて中島君が笑みを浮かべる。
「まぁ思ったよりはダサくないかな」
「!」
薄々気づいていたけど、中島君結構毒舌だよね?
まぁ服の中でも比較的マシなもの、無難なもの選んできたからね。アクセサリーは地雷になりそうだからあえてつけてこなかったし。中島君が想像していた私の服装についてぜひ聞いてみたいけれど、恐いのでやめておいた。
「んじゃ、行こっか」
「は、はい」
何の躊躇いもなく、中島君はラフォーレへと進んでいく。置いてきぼりにならないようについていかなくちゃと思ったけれど、そんな必要はなかったとすぐに気付いた。
歩みが遅い私に、さりげなく歩く速度を合わせてくれているのだ。
「こういうのとかは?」
「うーん……私に似合うでしょうか……」
「大丈夫だよ。試着してみなよ」
「ひぇっ!」
「ひぇ?」
「あ、いえなんでもないです!」
「そう? あ、店員さんだ。すいませーん」
悲しいコミュ力欠乏症の性が出てしまった。
何を隠そう、服屋でも飲食店でも店員さんと話しかけるのが本当に苦手。
もちろん話しかけられるのも苦手。途端に声が裏返りそうになる。
だから、気さくに、堂々と試着いいですかと尋ねられる中島君を見て羨ましいと思うし、小心者の自分が少し情けなく感じたりもする。
「おお! いいじゃんいいじゃん!」
「そ、そうかな……」
「うん、かわいいよ。夜野も、もっと朝倉さんのこと好きになっちゃうね」
「ちょっと! からかわないでください!」
「えー? ほんとに思ってるんだけどなー」
中島君が選んでくれたのは、普段なら絶対に着ないような半袖のボーダーのトップスと、腰のあたりがリボンになっているデニム生地のスカートだった。遠足という事を考慮しているのか、とても動きやすい。少し足元がスースーするけれど。
「これなら下がスニーカーでも合うから、動き回る遠足にもぴったりだね」
からかってくるかと思えば、色々考えて選んでくれたり中島君はよくわからない。
まぁでも、悪い人ではない……と思う。
「じゃ、お会計しておいでよ。次はアクセサリー見に行こう」
「アクセサリーも!?」
「だってせっかくの遠足だよ? 夜野に可愛さアピールしないと!」
「可愛さアピールって……」
そんなもん私にあるわけないじゃん、あははーと笑ってみせたものの、ふとレンっちの顔が浮かぶ。もし、もしも、しもしも! あ、違う。これじゃ平野ノラになっちゃう。
もし、レンっちに可愛いって言われたらそりゃ嬉しいし浮かれると思う。
でもさ……やっぱり怖いんだよ。
「朝倉さん?」
「私、やっぱり……」
おかしいよ、クラスでキモオタ呼ばわりされて、モジョ子なんてあだ名つけられてる私が気合入れてオシャレしてるなんて滑稽じゃないの。調子乗るなって思われるんじゃないの。
そう考えると怖くてたまらない。今のままで、ダサいままで……。
「じゃあこうしよう!」
「へ?」
「一年間、俺が朝倉さんのスタイリストになる」
「は?」
突然の提案に、私はぽかんと口が開いてしまう。
ん? スタイリスト? メダリストの親戚的な?
「うちの高校って遠足の他にも合宿とか、校外学習とか行事多いじゃん。そのたびに私服になる機会が多いと思うんだ」
「う、うん」
「だから、そのたびに俺が朝倉さんの私服を選ぶよ」
「は?」
「もちろん、夜野とのデートの服もね」
「ひぇっ!」
「はは、朝倉さんその叫び声好きだねー」
いえいえ好きじゃなくて自然と出ちゃうだけだから!
てか何この展開?!
「な、何でそこまでしてくれるの?」
「んー……なんか面白そうだから?」
「ひぇっ!」
「ってのもあるけど、俺さ、将来本気でスタイリストになりたいんだよね。だから、朝倉さんは練習台的な?」
今さらりと爆弾発言したのは気のせいだろうか?
「きょ、拒否権は?」
「あると思う?」
ニコニコーっと中島君が笑う。その笑顔の意味を、今の私なら知っている。
「よ、よろしくお願いします……」
「はいはーい。契約成立だね」
僕と契約して、(スタイリストの)練習台になってよ!
中島君がどうも某魔法少女アニメに出てくる白いアイツに見えて仕方なくなってしまった。
だ、大丈夫かな私……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます