第17話 魔法使いの効力

「桃子さん、かわいいですー!」

「まさに恋する乙女だな!」

「ちょ、葵君!」


遠足当日。中島君に見立ててもらった服を着て、アクセサリーを身に着けて現れた私を見て、二人がそれぞれの感想を言ってくれた。

恋する乙女って! 乙女なんて初めて言われたよオカメならあるけど!


「みんなおはよー」

「……」

「おはよう、中島君、藤原君」


ひらひらと手を振る中島君と、少し猫背気味の、無口な藤原君。

中島君は言わずもがな、藤原君の私服もかっこよかった。


「桃子さんの服見てください! すごくかわいくないですか!?」

「あ、ほんとだ。かわいいね」


私のほうを見て、中島君が笑う。

この人は……しれっとそんなことを。ノリちゃんに謝りやがれ!

などと言えるはずもなく。ありがとーっと返しておいた。

多分目が泳いでいただろうしかなりの棒読みだったと思うけど、誰も突っ込んでこないのでそのままにしておくことにした。


「では、一五時にもdう一度ここへ。解散!」


先生の言葉を合図に、生徒が各々の方向へと散っていく。今回の遠足は最近出来た遊園地だった。高校生で遊園地ってどうなの? と弟には言われたけど、こういう場所は何歳になっても楽しく思えるものだ。


「加藤さん達、何か乗りたいものある?」

「俺は絶叫系かなあ」

「わ、私はあの汽車のアトラクションがいいです」

「OK.場所を確認して効率よく回って行こう」


配られた地図を片手に、中島君がまとめ役を買って出てくれた。

頼りになるぅ! そりゃモテるよね。私にはたまに悪魔に見えるのは内緒。


「悪魔じゃないからね?」


……地獄耳じゃん!!怖いよ!

一瞬ぶるっと肩を震わせつつ、置いて行かれないように私もついていく。

出来たばかりという事で平日も関わらず、なかなかの混み具合だった。

私も、大学生とかになったらこうして平日に遊びに出たりするのかな。

……大学生になっても、ノリちゃんと葵君と友達でいられると良いな。


「お、ピーコちゃーん!」

「うわあああああ!」


油断していた。この広い敷地内ならそうそう出くわさないと思っていたのに。

ピーコちゃんと私を呼ぶのはこの世でたった一人だけ。

そう、レンっちだ。


「あ、夜野―!」


お洒落をした自分を見られるのが恥ずかしくて逃げようとする私をガシっとつかみ、中島君が代わりに返事をする。じたばたする私を見て、葵君は「おもろーw」と一昔前に流行ったフレーズを使い、ノリちゃんは「アニメでよく見る光景だわー」と感心し、藤原君に至ってはもはや見てない。向こう側に見えるお化け屋敷を眺めていた。

イコール、誰も助けてくれない。


「中島か! ピーコちゃんと同じ班なのか?」

「そうそう。俺ら余っちゃってさあ、入れてもらったんだ」

「なるほど!」


うむうむといつものように大きく頷く。というよりこの二人知り合いだったの?

ってことは藤原君も……


「俺ら三人、中学が同じ」


ぼそっと藤原君が呟いた。今日初めて声聞いたよずっと黙ってたもんね!?


「おお、藤原もいるじゃないか! 何だ二人は同じクラスか羨ましいな!」


あっはっはと豪快に笑うレンっちに同調して中島君はくすくす笑う。

いまだ! 油断しているうちに!


「ところで朝倉さんの私服どう?」


油断してなかった――。がしっと腕をつかんでレンっちの前に突き出されてしまった。素早い動きにも関わらず何となくふわっと移動させられたように感じたのは中島君の優しさなのかそれとも中島君の魔法なのか……。


「お、おはようレンッち」

「おはようピーコちゃん!」


意図せずおどおどした挨拶になってしまった私に対して、いつも通り元気にあいさつを返してくれる。じっと私の格好を見てレンっちはほう……とため息を吐いた。

だめ!? だめだった!? 服は可愛いけど中身は残念って!?

やだもう帰りたい! 遠足開始からまだ一時間も経ってないけど帰りたい!


「うむ、やっぱりピーコちゃんはかわいいな!」

「え……」


ほんとに? と聞き返す声と重なるように、レンっちの後ろから声が聞こえた。


「夜野早くー」

「置いてっちゃうよー」

「すまん今行く! じゃあピーコちゃん! 今日は楽しもう!」

「え? あ、うん」

「本当に似合ってるぞ! そのままデートに誘いたいくらいだ!」

「ええ!?」


ではな! と柳沢慎吾の「あばよ!」と同じイントネーションで、同じポーズを決めてレンっちは颯爽と自分の班へ帰っていった。

これは…この反応は……


「大成功だねー」


こっそり呟く中島君の声に、私は思わず手で口を覆った。

嬉しいなんてもんじゃない。めちゃくちゃ、嬉しい。嬉しすぎる。


「ありがとう、中島君」

「へ? あー、うん」


すっかり舞い上がった私に、中島君は少し戸惑っていた。

でもそんなのも気にならない。

だから、今の私を気に食わないと思ってる人がいるなんてこと全然気づけなかった。

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