第8話 真実の話
「そっか。」
それで彼女は記憶をなくしているのか。一通り話を聞いたところで納得する。この状態で友達がお見舞いに来ないのも、この子が彼女に会いに行かないのも説明が付く。
「いきなりこんな話してすみません。貴方には全く関係ないのに。」
「いや、良いんだよ。それに関係無いこともないし・・・。」
「え?」
「あの、実はちょっと嘘ついてた。ごめんね。」
「何をですか?」
「写真拾ったっていうの、嘘なんだ。」
「じゃあどこでこれを?」
「実は彼女から借りてるんだ。今、彼女記憶が無いんだよ。それでこの写真が何か手がかりになるんじゃないかって言って。でも彼女、ここに来るのはあまり気が乗らないみたいだったから僕が代わりに来たんだ。」
「・・・からかってるんですか?」
「え?これは本当のことだよ。」
「そんなはずあるわけ無いじゃないですか!」
「え?・・・どういうこと?」
僕の返答を聞いた百合は俯き、肩をふるわせていた。最初の芯の強そうな印象とは違いその姿はとても小さく見えた。そして急に美術室から走って飛び出してしまった。
「まって!」
僕の声は百合には届かず消えていった。どうして急に出て行ってしまったのか、この時は見当も付かなかった。百合が残したキャンバスの描きかけのひまわりだけが僕を見ている。とりあえず今日は帰ろうと思い、再び静寂に包まれた廊下を歩き出した。
「おい!何かあったのか?」
先ほどの顧問と出会う。どうやら様子を見に来ようとした途中だったらしい。走って行く彼女を見たのだろう、とても驚いた顔をしていた。
「あ、あの・・・はい。えっと・・・急に走って行っちゃって。」
「もしかして事故の話したのか?」
「あ、はい。」
「そうか、先に伝えておけば良かったな。彼女も大切な友達を失ったんだ、許してやってくれ。」
「いえ、僕が配慮に欠けたのがいけないので。・・・・・・・・・先生、今なんて言いました?」
「え?許してやってくれと。」
ちがうそこじゃ無い。そこはどうでも良い。
「その前です!」
「大切な友達を失った・・・かな。」
目の前が歪んだ。僕は自分の耳を疑った。信じることなんて出来なかった。
「失ったって、その子・・・・・・・・・亡くなったんですか?」
「ああ。もしかして知らなかったのか?」
ああ、どういうことだ。僕が見ていた彼女はいったい何なんだ。頭が回らない。きっとこれはこの蒸し暑い空気のせいだ。きっと僕は夢を見ているんだ。ちがう。これは違う。夢だ。悪い夢だ。違う。僕は知らないうちに走り出していた。無我夢中で。何も考えず、ただただ走っていた。夢から覚めることを願って、ただただ走っていた。
走り続けてたどり着いたのは、あの公園だった。彼女と話したあの公園。肩で息をしながら公園内を見ると、何故かそこには彼女が立っていた。ああ、やっぱり居るじゃないか。ちゃんとここにいる。僕には見えている。そう思い近づくと、彼女は佇んで涙を流していた。夕暮れ時の沈みかけた太陽の光を浴びながら。
「・・・どうしたの?」
「あら、貴方もここに来たのね。」
「どうして泣いているの?」
「貴方はきっと学校で真実を知ったのでしょう?」
「もしかして・・・。」
「ええ、思い出したの。全部。」
彼女がたまらなくか弱く見えて、放っておけなくて、僕は気づいたら彼女を抱き寄せていた。
「なんで・・・何で私は忘れていたのかしら。」
彼女の涙が僕の肩に降り注ぐ。
「何で私は・・・何で・・・何で・・・」
僕はただ震える彼女をただ抱きしめることしか出来なかった。
「私は・・・・・・・・・死んでしまっていたのね。」
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