香織

「まさか、異世界に召喚された……?」

 いきなり、いっくんがそんなことを言った。また、いつもの妄想が始まったのかな?あたしはそう思った。

「いっくん……」

 あたしが呼び掛けると、いっくんはゆっくりと振り返って、深刻そうな表情で呟いた。

「香織も、来てしまったのか……」

「何、言ってるの?」

 これは間違いない。だって、あたしがここにいるのなんて当たり前なんだから。今日、あたしたちはお母さんたちと一緒に旅行に来てる。

「香織、俺たちは異世界に来てしまったんだ……」

「え?あ、うん……」

 ここは、山の中で、自然が一杯で、あたしたちの住んでる街とは全然雰囲気が違う。だから、『異世界』なのかな?

「ここでは何が起きるかは分からない。価値観も、常識も何もかもが俺たちとは違うかもしれない」

「あ、あの、いっくん……?」

 何か、すごい語り始めそうだったから、あたしは止めた。

 でも、どうしようか……。あたしも、その、いっくんに付き合った方がいいのかな?いっくんは楽しそうだし、うん、乗ってあげよう。それで、もし、危ないことをするようだったら、あたしが止めればいいんだ。

「ん?何か問題でもあったか?」

「あの、そうじゃなくて、その……、と、とりあえず、あたしたちは何をしたらいいの?」

「それは……まずは、この世界のことを知る。そう、それだ。そのためには、この世界の住人と話をしなくてはならない」

「そっか。じゃぁ、行こ?」

 あたしはいっくんの手を取って、歩き始めた。

 この辺りって、何があるのかな?でも、お父さんに『あんまり遠くに行くなよ』って言われたから、あんまり遠くには行けないし……。

 でも、あたしはいっくんとこうして、普段と違う場所に来られただけで幸せだった。そう、ここが本当の異世界に感じるほどに。


 でも、あたしの好きなようなところはなかった。いっくんは、楽しんでる感じだった。あたしは、その姿を見てるだけで自分まで楽しくなってきた。

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