ヤネウラ 部屋

屋根裏から"ゴトンッ"という大きな音がしたので、何か崩れたか?と思い、屋根裏部屋へ入ったわけだが…


「………汚すぎて、逆に見事だ。」


念のためマスクをしていたが、降り積もった埃や蜘蛛の巣、干からびた何かの死骸らしきものを見て、自然と咳とくしゃみが出る。


「これは何がいつどうなってもおかしくないな…。」


独り言も次々と漏れる。


そういえば、この家へ住み始めて初めて入る気がするな。


大家からは、倉庫として使っているとは聞いていたが、ここまで放置しているとは聞いた覚えがない。



…実家を飛び出してから、もう十年程経つ。


別に親兄弟とうまくいってなかったわけではない。むしろ、とても大事にされていた。

ただ、このままぬくぬくと同じような日々を繰り返す人生に不満を感じ、思い切って一人立ちしようと決心し、家族へ話をしただけだ。


するとどうだろう、それまで和気藹々と食卓を囲っていた全員が、一斉に立ち上がった。



「お前は……自分の立場がわからないのか?!!」


「お願いだから考え直して…!!お願いよ……」


「お前は"此処"から出るべきじゃない!お前だけじゃどうにもできないだろう?」


「嘘でしょ?ほら、世の中危険だらけなんだよ?兄さん。歩いてるだけで殺される恐ろしい時代なんだ…だから…"此処"から出ちゃ駄目だ…」



執拗なくらい「皆がいる"此処"から出ちゃ駄目だ。一人じゃ何もできないだろう。」という家族に、正直何故そこまで言われるかわからないし、無理だ無理だと決めつけられて苛立ちを覚えた。



それからはもう、凄まじかった。



父は毎日二時間おきに電話をかけてきたり、帰宅しては俺が居るのを必ず確認しに来る。

母は毎日すがり付きながら「お願い、考え直して…」と泣く。

兄は毎日部屋に来ては、悩みを聞く、解決しよう。となんだかよくわからない気の使い方をするし、弟に至っては、毎日最近起きた人的に影響のあるニュースをレポートのようにまとめ、"一人"がどれだけ危険なのかをわざわざ説明しに来たし。


それは日を追うごとに悪化し、なんだか自由が無くなったような気分だった。

同時に、どれだけ自分はなめられているのか、ますます苛立ちを覚えたので、必要なものを旅行鞄に詰めれるだけ詰めて、そのままの勢いで家を出た。


もちろん、家を出てからも電話やメールなどの量も凄まじかったし、それ以外にも色々と家族からの説得があったが、やっと思いが伝わったのか、2年後に「勝手にしろ」と、遂に解放を得られた。



本物の自由を得た。



この時の喜びは、その場で飛び上がる程だった。


大体"此処"って、たかが実家なのに、なんで強調するんだろう…とか、ちょっと思い出しては疑問に思ったが、結局ただ単に家族離れしない人達だったんだな、と結論付けた。


最後に、父が「ただ、ヤネウラ部屋があるところには絶対に行くな」と言って電話を切ったことだけはずっと謎で、その理由もよくわからなかった。



皆は元気だろうか。


ふと思った。


そして何故今、それを思い出したのか。

それはさっき言った父の言葉"ヤネウラ部屋"にいるからだろう。





「ごめん、父さん。」





そして、皆が引き留めた意味が今、わかったからだろう。





「ごめん、皆……」
















「…あいつは、"あのとき"魅入られたんだ」


「覚えてないのも無理ないわ。だって……」


「それ以上言わないでくれ、母さん!!大丈夫、忠告はしたんだろ?父さん…」


「ああ」


「でもあの様子じゃ、兄さん。多分全部わかんないと思うよ……」


「やっぱり、言うべきだったのだろうか…全て……」



「一人で、アレがある場所だと、多分もう「やめろ!!!!!!!!!」















我が家には屋根裏部屋は無い。


"あいつ"のために、そういう家に引っ越したから。


でも、もし屋根裏部屋がある場所に行ったなら…………













電話はもう、繋がらなかった。







































ヤネウラ部屋 魅入ラレタ アノ子 ハ 知ラナイ トコロ 魅入ッタ モノ ト 一緒 





      ズット 一緒

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