2(途中)

「で?なんだ?おかしいことって?」

 と、コウジが聞いた。

 コウジは、ヤマミネ小学校四年一組の児童だ。本名は源浩次。特に小学校に制服があるわけでもないのに、赤茶色のスーツを毎日着てきていた。そして、同じ色のつば付き帽子を被っている。この帽子も毎日被って来ていて、入学式の時からずっと被っているという、お気に入りの帽子だ。

「ああ、そうだったな。うん、じゃあ話すぞ。」

 とユウキは答えた。

 ユウキも、浩次と同じ学校、同じクラスだ。本名は泉井勇樹。小一の時に同じクラスになって以来、仲が良く、お互いを信用できる親友だった。

 ユウキは、灰色フレームの眼鏡をかけていた。服も白っぽい無彩色が基本で、有彩色の服を着たことは今までに一度か二度くらいしかないだろう。

「それは満月の夜のことだ。」

ユウキは少し間をあけ、再び口を開いた。

「母さんが見たっていうんだ。家で料理をしてて、その料理を食べている狼がいたって。」

「えっ!?おおか」

 コウジはユウキに口を塞がれた。

「さらに、狼は俺の服を着ていたというんだ」

「つまり――」

「そう、俺が、満月の夜に狼になって食いもんを食い散らかしてることになる。しかしな、仮に俺が食べているとすると、俺にはその記憶がない。狼になっているのかさえ分からない。そもそも、なぜ満月の夜に俺が狼になる?」

 また少し間が開いた。

「これは、今話していることが夢なのか、または夢で起きたことを間違えて現実として捉えているのか。分からなくなってくる…。」

ユウキの表情は重苦しかった。

コウジは言った。

「ユウキ、俺は信じるぜ。その話。やっぱり親友として放っておけないんだ。」

「コウジ…。」

 ユウキは俯いていた顔をあげ、コウジのほうを向いた。

「ありがとう、コウジ…。元気が出たよ。」

「元気が出て何よりだ。人生俯いてちゃ楽しくないんだから、いつでも前を向いて楽しく生きようぜ?」

ユウキは、少し首を縦に振った。そのときだった。突然、外からザァーッという雨の音が聞こえてきた。しかい、ものすごく強い。

「えっ、マジか!?雨降りだしたぞ!しかも大雨!傘、無いよな?」

「う、ああ…持ってきてないな。」

 二人が話している間にも、雨はどんどん強くなっていく。

「これ、収まりそうにないぞ!走って帰ろう!」


 降りしきる雨の中、コウジとユウキはランドセルを頭の上に乗せて走っていた。

 コウジもユウキも足は遅い筈だが、今日は違った。ユウキがものすごく速いのだった。この速さなら、百メートル走のチャンピオンにも余裕で勝てるだろう。

「おいおい!?なんでそんなに速いんだよ!?」

 コウジが、ものすごいスピードで走り去っていくユウキに向かって叫んだ。すると、ユウキもそれに負けぬ声で返してきた。

「分からない!でも、最近走るのすげー速いんだ!」

「ちょ…。」


 コウジは疲れ切って走れなくなってしまった、しかし、ユウキはまだ走り続けていた。

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正義の少年 西山 市朗 @nishi_rou70

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