第2話「本当に綺麗な・・・・・・」

 僕は思わずその笑顔に見惚れてしまった。

 何というか心が暖かくなるような、そんな気持ちになれる。


 すると店員さんは首を傾げながら僕に声をかけてきた。

「どうかしましたか?」

「はっ? い、いえ、このお店にあるものがどれも綺麗でいいものだな、と思って」

 それも嘘じゃないけど。


「そうですか~ありがとうございます。このアクセサリーや造花は全部私が作ったんですよ~」

 店員さんはまた優しい笑みを浮かべてそれらを見ながら言った。

「ええ!?」

 マジかよ、これ全部一流の店に売っていてもおかしくないと思う出来だよ?

 あ、もしかしてこの人有名なデザイナーさんか何かかな?


 すると僕の呟きが聞こえたのか

「え? それってもしかして銀河旋風?」

「それはブラ◯ガー!!」

 僕は思わず素で突っ込んでしまった。すると


「わかってますよ~。あ、私別に有名じゃないですよ~」

 店員さんはケラケラ笑いながらそう言った。

 ああ、いい笑顔だな、本当に。

「あ、すみません。気に障っちゃいました?」

 店員さんは僕が黙ったままだったので不安になったようだ。

「あ、いえそんな事ないですよ。ただ」

「ただ?」

「……いえ、何でも。あ、そうだ。これ下さい」

 僕は近くにあった色鮮やかな薔薇の造花を指さした。

「はい、千円です~」

 僕はズボンのポケットから財布を取り出して五千円札を渡した。

「はい、五千万両でお釣り四千万両~(笑)」

「駄菓子屋のばあちゃんか!」

 って、なんでこんなに素で突っ込んでるんだろ。こんなの今まで。

 

 あったな、あの時は。


「あの~、もしよければポイントカード作られますか~?」

 店員さんがそんな事を言ってきた。

「はい? そんなのもやってるんですか?」

「ええ。他のお客さんがそういうのもやってみたら、って言ってくれたので」

 そう言って店員さんはカードを見せてくれた。そこにはエプロンと同じ葉っぱのイラストが書かれていた。

「へ~、これも手作りですか?」

「そうですよ~。あ、どうされますか~?」

「う~ん。あ、ポイント溜まったら何かあるんですか?」

「はい。7つ集めるとカードから竜の神様が出てきてどんな願いも」

 僕は思わずこの人の首絞めようか、という衝動に駆られてしまった。

「冗談ですよ~。割引サービスがあるんですよ」

「そうなんですか。じゃあ作ろうかな」

「ありがとうございます。それじゃここにお名前を」

 僕は店員さんが差し出したボールペンを受け取り、カードに名前を書いた。


「篠田健一さん、ですね。あ、そうだ。これ私の名刺です」

 差し出された名刺にも葉っぱのイラストがあって、こう書かれていた。


「フラワーショップリーフ店長 五十嵐美咲」

と。 

「いがらし、みさき?」

「そうですよ。あ、ごじゅうあらしじゃないですからね~」

 わーとるわ!

 どこの漫画だそれは!?

「って、今頃気づいたんですがこのお店の名前って『リーフ』なんですね」

「そうですよ~」

「リーフ、葉っぱか。だからマークが」

「ええ。あとここは祖母が最初に始めたんですよ~」

「へえ。お祖母さんが?」

「はい。でも十二年前に祖母が亡くなった時に一度お店やめちゃったんです」

 店員さん、いや五十嵐さんの顔から笑みが消えた。

「え? 誰も跡を継がなかったんですか?」

「ええ。父も母も他の仕事をしていて、花屋はできないって。それで一度はここを売ろうかと思ったそうです。けど」

「けど?」

「私は両親に『いつか私がおばあちゃんの跡を継ぐからお店売らないで!』って泣きながら必死で言ったんです。その後両親は考えなおしてくれて、ここをそのままにしてくれたんです」

「そうだったんですか、それで」

「はい。それから私は一生懸命勉強して、今年の四月にやっとこのお店を始めたんですよ」

 五十嵐さんはまた笑顔に戻った。


 本当に凄いなこの人。

 ただのボケねーちゃんじゃないんだな。

 ん?

「あの、五十嵐さんは当時おいくつだったんですか?」

 僕はふと思って尋ねた。

「えーと、小学五年生で十一歳」

「てことは、そこから十二足して、今は?」

 僕が指折り数えると

「あ、しまった。知られたからには、せめて苦しまないようにしてあげますね」

 五十嵐さんが突然無表情になったかと思ったら、近くに置いてた鉢植えを持ち上げた。

「ちょ、ちょっと何する気ですか!?」

 僕は慌てて後退った。すると

「……冗談ですよ~(笑)」

 五十嵐さんはその体勢のままケラケラ笑いだした。

「い、いや今のは本気に見えた」

「そうですか~。じゃあ私って役者の才能あるのかなあ~」

「そうなのか? てか僕より二歳下なんだしまだ気にする歳じゃないでしょ」

「え? じゃあお客さんは二十五歳ですね……しまった。知られたからには~(笑)」

 今度はニヤけながら僕に迫ってきた。なので

「キャ~ヤメテ~(笑)」

 僕はアホみたいに体をくねらせて甲高い声で言ってやった。

「なんですかそれ~(笑)」

 それを見た五十嵐さんはケラケラ大笑いしだした。


 しかし本当にいい笑顔だな。

 そして本当に心が綺麗で強い女性だと思った。

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