13-6
「さて、準備はこれで、整ったっと」
とはいえ、そうは言っても、それほど重装備というわけではないので、そんなには手間もかからない。持ってきたバッグから、いくつか小さな道具を取り出し、邪魔にならないように身につけただけなので、見た目的にも、大きな変化はないのである。
潜入任務だからといって、別に特殊部隊さながらの服装や、ぴちぴちの全身タイツみたいな格好に着替える必要なんて、まったくない。
この程度なら、普段着でも十分だ。
「さすがに、無数の小さな機械を全て……、というわけにはいきませんが、
ありがたいことに、可愛らしく力こぶを作って、やる気満々な
俺は俺のやるべきことを、やるだけだ。
『統斗様の様子は、こちらでモニターしていますから、ご安心ください』
『おおー! ここからでも、統斗の目線でバッチリ見えるぜー! すげー!』
『周囲の様子から~、統斗ちゃんのバイタルまで分かるから~、任せてね~』
この耳の裏に貼った超薄型の通信機からは、ヴァイスインペリアルの本部にて待機しているみんなの声が、聞こえてくるけれど、もちろん、その音が外に
そして、この目に入れたコンタクトレンズ型の超高性能カメラと通して、
俺としては、別に裸眼の時と、なにも変わらないので、まったく実感は
これならば、リアルタイムで、俺が見て得た情報を、共有することが可能だ。
「なにかあったら、この屋敷を吹き飛ばして助けてやるから、すぐに連絡しろ」
さらに
いやむしろ、彼女は心配してくれているのだと思い込むことによって、より一層の
だから、そんな
「どうか……、お気を付けて、統斗さま!」
「ええ、後は任せてください!」
こうして、準備を整えた俺は、ここまで持ってきたバッグを、竜姫さんに
うん、確かに高いは高いけど、まったく問題はなさそうだ。
それでは、さっさと始めましょうか!
「よっと!」
もちろん、周囲に人の気配がないことは、確認しているけれど、一応はそれなりに気を付けながら、俺は地面を蹴って、目の前の壁を、ひらりと飛び越える。
その瞬間、この身を竜姫さんが
どうやら、上手くいったようだ。
これは後で、竜姫さんにはちゃんと、お礼を言わないと。
「…………」
そして、俺はそのまま声も出さずに、音もなく壁の向こう側……、屋敷の敷地内へ飛び降りる。いや、正確には、この地面に足が下りる前に、小さな魔方陣を展開し、足場にしたので、最後まで飛び降りてはいない。微妙に浮いてる格好だ。
着地をする寸前に、足元に真っ白な
さすがに、いくら気を付けていても、こんな砂利を踏んでしまえば、どうしたって
「…………」
とはいえ、そのまま無言を貫き、素早く手近な
まあ、壁の外にいる時から、屋敷内における人の気配は調べていたし、なんなら、この目に
だからといって、気を抜くつもりは、微塵もないけれど。
『うーん……、やっぱり、この感じだと、屋敷の主はいないかな?』
装着した通信機から、千尋さんの声が聞こえたけれど、残念ながら、俺はそれに、答えることができない。彼女たちの声は、外に聞こえることはない。しかし、それに応答する俺の声までは消せないので、万全を
それが非常に
「…………」
だから、その分も、しっかり千尋さんの意見に耳を貸しながら、俺は素早く、次の安全な移動場所を探し、走り、身を
そう、俺は千尋さんの意見に、まったく同感だ。さすがに屋敷の中には、幾人かの人の気配がするけれど、その数は、決して厳重と呼べるレベルではない。少なくとも要人がいるのなら、もう少し気合が入った警備が
これはやっぱり、警備の専門家である千尋さんらしい、実にナイスな目の付け所といえる。神宮司本人を確保できないのは残念だけど、いないと分かっているのなら、それなりの対応が可能になるのだから。
つまり、それはそれで、動きやすいというわけだ。
『無事、屋敷の中に入れましたね。地下への入り口は、その廊下を曲がって……』
美しく整えられた広大な日本庭園を走り抜け、誰にも
当然ながら、いまだに細かく魔方陣を展開し、足場にしているので、例えば、この廊下が
こうなったら、俺も最後まで、全力を尽くす所存である。
『おっと! どうやら、そこみたいぜ!』
『しかし……、それらしい扉などは、ないようですね』
自らの気配を殺し、大きな屋敷の中に点在する人の気配は上手く避けつつ、まるで流れる水のように、するすると目的の場所までは到着できたので、千尋さんが歓声を上げてくれたけど、契さんの言う通り、そこにはないもない……、というか、廊下のドン詰まりだった。目の前どころか、左右にも動けない、まさしく袋小路だ。
しかし、そんな不自然な構造が、家の中にあること自体が、非常に怪しい。
『う~んとね~、統斗ちゃん~、ちょっと~、そこの柱を~、調べてみて~?』
どうやらマリーさんも、俺と同じようなことを考えていたらしく、周囲を調べて、気になる場所を見つけてくれたので、素直に従う。
そして、彼女に言われた通り、廊下の端っこに立っている、目立たない柱を調べてみたら、目線よりも少し下くらいの位置に、巧妙に隠された継ぎ目を発見したので、爪を引っかけて開けてみると、この日本家屋には不似合いな、数字を打ち込むためのパネルと、カードリーダーが搭載された金属製の小型コンソールが出てきた。
うん、なるほど。
『これはまた、なんとも古典的な……』
『おおっ! まるでスパイ屋敷だな!』
なんとも分かりやすい装置に、契さんは
だって、分かりにくいより、分かりやすい方が、いいに決まってるからね。
『それじゃ~、そこに~、例のアレをセットして~』
そして、さらに分かりやすいことに、こちらには、こういう機械関係に対しては、必殺の切り札があるのだから、もはや歓迎しない理由がない。
俺はマリーさんの指示に従い、ポケットから小さな……、よく冷蔵庫に貼ってあるマグネットのようなメカを取り出すと、そのまま磁石のように、目の前のコンソールへと貼りつける。これだけで、全ては解決だ。
ちなみに、この小型メカの背面には、デフォルメされたマリーさんが、キラリンとウインクしている絵が描かれていたりする。
いやはや、とっても可愛らしい。
『ちょちょいの~、ちょいと~……、は~い、オープンセサミ~!』
なんて、俺が気の抜けたことを考えていたら、マリーさんの掛け声と共に、廊下の壁が静かに開いて、下へと続く階段が現れた。
この間、
俺には、さっぱり分からないのだけれども、あの小さなマグネットみたいな機械を使って遠隔操作して、マリーさんがあれやこれしただけで、全ては解決したようだ。
うん、なにがどうなってるんだか、技術的なことは、まったく分からないけれど、本当に助かった! サンキュー、マリーさん!
というわけで、道は開けた。
『ついでに~、警報装置も解除したから~、安心よ~』
『よーし! 思いっきり突撃だ、統斗-!』
『まだなにがあるか分かりませんので、慎重に……』
そうして俺は、マリーさんから頼もしい支援を受け、千尋さんから元気に
そう、恐がる必要なんて、あるわけがない。
俺には、みんながいるのだから。
「…………」
しかし、まだなにも、終わってはいないのだから、気は抜けない。
俺は仲間たちへの感謝を、この胸の中に押し込めながら、沈黙と共に、神宮司家の深淵へと、用心深く、この足を踏み入れるのだった……。
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