13-5
そもそも、
年齢は、俺の親父よりも少し上くらいで、妻も子供もいない。特に苦労することもなく、防衛大学を首席で卒業し、難しい国家試験も次々にパスすると、まさに完璧なエリートとして、その階級を上げに上げ続けていたが、ある時からフツリと、歴史の表舞台からは、姿を消してしまう。
おそらく、そのタイミングから、
……ここまでが、俺たちが総力上げて調べ上げた奴の過去というわけだけど、誠に遺憾ながら、これ以上の情報は、まったく
つまり、神宮司権現が、なにを考え、どんな
そう、正直なところ、俺たちはなにも、分かっていない。
奴がまだ、なんの動きも見せないのは、正義の味方を倒されたことで、もう全てを
それすらも、分からない。
「うーん、それにしても、大きな屋敷だなぁ……」
というわけで、分からないことは、直接調べてしまえばいいだろうと、俺たちは、こうして連れ立って、神宮司家へとやって来た……、というわけである。
いやはや、それにしても、さすがは名家というべきか。ちょっぴり調べるだけで、さくっと住所が分かったのはいいのだけが、ここまで立派な日本家屋を前にすると、なんとなく思うところもあって、俺は思わず、ため息をこぼしてしまう。
なんとなく、懐かしいような気がするのは、俺にとっては幼少期から
とりあえず、まるで江戸時代の代官屋敷のような、しっかりと木製の扉が閉まった巨大な門を前にして、俺が思うのは、そのくらいのことである。
「なんだか、
「一応、それなりに歴史がある家らしいので、そのせいでしょう。古いだけです」
そして、小首をかしげる
やっぱり、古くから続いているという意味では、神宮司家よりも、さらに昔からの歴史がある
うんうん、実に頼もしい。
「さてと、とりあえず、お仕事お仕事っと……」
とはいえ、いつまでも他人の家の前でたむろしていると、不審に思われても仕方がない。ここは
情報収集をするのなら、隠密行動が基本というわけで、俺は手早く、先ほどと同じように、黒いバッグから小さな
この中身は当然、さっきの国会議事堂でも使ったナノサイズの偵察マシンであり、これを使えば、屋敷の内部情報を
「……あれ?」
しかし、なんだか思っていたのとは、違う結果になってしまったような気がして、俺は首をかしげながら、目の前にある大きな門の向こう側を
なんだろう……、ナノマシンが屋敷の敷地内へと侵入しようとした途端、一瞬だけ閃光が走ったかと思えば、全ての反応が消え失せてしまった。
どうやら、なんらかの防衛装置が働いて、こちらの用意した偵察マシンが、見事に破壊されてしまったようだ。
うーん、しまった、しまった。
「どうやら、龍脈を使った結界が、張られているようですね……」
「おお、なるほど」
とりあえず、この目を使って、失敗した原因を探ってはみたけれど、どうにもよく分からなかった俺に、竜姫さんが教えてくれる。
なんだか、モヤモヤとしたものが、この屋敷を包んでいる気はしたけれど、これがどうやら、龍脈の結界のようだ。
やっぱり、こういうことは、ちゃんと知識と経験を
うんうん、ありがとう、竜姫さん!
「しかし、龍脈の結果ってことは……」
「ああ、姫様以外に、こんな真似ができるのは、一人しかいないだろうな」
なんて、ふざけている場合ではない。あの結界が龍脈に関係するものである以上、必然的に導き出される答えは、決して見過ごすことはできず、どうやら、同じ結論に
そう、状況を考えれば、答えは簡単だ。
この屋敷に、結界を張ったのは……。
「
「はい。まず間違いないかと」
俺の
それだけ、俺たちはお互いに、この答えに確信を持っている。
少なくとも、この国で龍脈に関する力を操れるのは、ここにいる竜姫さんと……、あの謎すぎる老婆だけなのだから。
「どうしましょうか? 私の力で、結界を破ることもできますけれど」
「そうですね……」
さてさて、竜姫さんからの申し出に、俺はまず、考えを巡らせる。
別に特別なことなどなにもない、まったく普通な様子の竜姫さんを見る限りでは、特に無理をしているわけでもなさそうだし、彼女なら、この結界を打ち破ることが、それほど難しくないということは、疑う余地もなく分かっている。
しかし、だからといって、安易に決断を下すのは、危険かもしれない。
「結界って、やっぱり破ったら、結界を貼った本人には、分かるものなんですか?」
「おそらく……、いえ、あのお婆さまならば、まず確実に、気付くかと」
ふむ、竜姫さんが言うのなら、やっぱりそれを前提に動いた方が、いいだろう。
少なくとも、相手を無駄に舐めて、油断するようなことは、するべきではない。
「だったら、もうちょっと別の方法で、アプローチしたいところかな……」
もちろん、近いうちに八百比丘尼とは決着を付けるつもりだし、所在不明の相手を
しかし、今のところは、まだ情報を集めることを優先したいというのも、俺の本音だったりする。下手なことをして、こちらの動きに気付かれてしまうと、重要な情報を隠すため、処分されてしまう可能性が出てくるし、それは避けたい。
敵を倒すにも、それなりの準備が必要で、丁寧な下調べが、リスクを軽減することにもなるのだから、悩ましいところだ。
とりあえず、神宮司家の屋敷に、八百比丘尼の結界が張られているということは、あの二人の
これまで、状況証拠を積み重ねてきたけれど、これで奴らは協力し合っていると、はっきり確認できたことだし、それはそれで、大きな情報ではある。
さて、それでは、その情報を元に、次はどう動くべきか……。
「っと、本部から連絡か。もしもし?」
『あ~、
なんて、俺が優柔不断に考え込んでいたら、いきなり携帯電話が鳴り出したので、速攻で出てみたら、聞こえてきたのは、のんびりとしたマリーさんの声だった。
『ここまで予定通りでしたが、不可解な反応を検知しましたので、ご連絡をと』
『国会議事堂の方は、上手く稼働してるのに、なにかあったのかー?』
どうやら、こちらの様子がおかしいことに気が付いて、向こうから連絡してくれたらしく、さらに
こういうときは、素早く情報を共有できるようにした方が、手間がかからない。
「いえ、そんなに大きな問題じゃないんですけど、どうにも龍脈の結界が張られてるみたいで、ナノマシンの耐久力じゃ、侵入できないみたいなんですよ」
そして、準備が整ったところで、俺は素直に、今自分が、なにを悩んでいるのか、仲間たちへと打ち明けてしまう。
「とはいえ、竜姫さんなら解除できるんですけど、敵に感づかれるかもしれないし、どうしようかなって、対応に困ってまして」
こういう時には、自分だけで考え込んでいても、いい考えなんて、そうそう浮かばないし、時間の無駄になることだってある。
俺には、こんなにも頼りになる仲間たちがいるのだから、みんなには、どんどんと意見を求めるべきだろう。
なにも悪の総統だからといって、全てを一人で
『う~ん、なるほどね~……、なるほど~、これはね~……』
そんな俺の期待に
『なにか分からないかなって~、その屋敷のコンピュータネットワークを~、ざっと調べてみたけど~、かなり不自然というか~、なんだか~、秘密があるみたい~』
そして、結果はすぐに、
さすがマリーさんと言うべきか、時間にすると
『統斗様。どうやら、その屋敷には、ネットに繋がっていない、完全に独立した情報サーバーがあるようです。
とはいえ、契さんの言うように、それで分かるのは、あくまでも、電子の海の中に存在する情報だけなので、違和感を見つけても、その正体までは掴めないようだ。
『おっと、そこの屋敷の見取り図が、いま届いたけど、どうやら家の地下に、奇妙なスペースがあるみたいだな。かなり大きいぜ!』
しかし、直接は確認できないことも、千尋さんのように、別の側面から考えれば、その手がかりを見つけることは可能だ。
うん、状況証拠は、十分か。
『じゃあ~、そこに~、なにか秘密の~、専用サーバーがあるのかもね~』
マリーさんの意見に、俺も全力で同感である。
『でも~、これだと~、屋敷の中に入って~、その独立しちゃってるサーバーに~、直接~、端末をセットして~、ハッキングしないと~、中身は引き出せないわね~』
とはいえ、話はそれほど、簡単ではない。
マリーさんの言うように、その怪しいサーバーが、周囲と物理的に断絶しているのならば、電子的な手段での解決は、まず不可能と言い切ってもいいだろう。
つまり、物理的な問題は、物理的に解決する必要があるというわけだ。
「なるほど……、それはちょっと、気になりますね」
だけれども、それだけ厳重に隠されている情報とはなんなのか、非常に気になるというか、興味が
よし、俺の腹は、決まった。
「だったら、そっちを調べましょうか」
まずは、目の前にある問題を解決し、当初の目的通り、情報収集を優先させよう。八百比丘尼と接触するにしても、その後で十分だ。
そう、俺はゲームでも、ダンジョンの宝箱をしっかり取り切ってから、ボスに挑むタイプの人間なのである。
「しかし、調べると言っても、どうするつもりだ?」
「あっ! 分かりました! ふふっ、統斗さまったら、本当に悪い
とはいえ、これはゲームではなく、現実なのだから、問題の解決には、それなりの手段というやつが必要になる。
だから、朱天さんの疑問はもっともというか、大事なことではあるけれど、しかし今の状況と目的なら、やることは一つだ。
俺がこれから、なにをするつもりなのか、どうやら気が付いた様子の竜姫さんが、悪戯っぽく、微笑んでくれる。
「ええ、そうなんです。実は俺って、悪い男なんですよ」
だから俺も、そんな竜姫さんと同じような顔して、にっこりと笑い返す。
そう、俺は俺らしく、やるだけなのだ。
「さてと、それでは不法侵入と、
こうして俺は、悪の総統らしく、悪い手段に、手を染めることにしたのだった。
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