12-1


「正義の味方と、決着をつける」


 俺の静かな宣言は、ただ粛々しゅくしゅくと、皆が集まる会議室に染み渡った。


 そして広がるのは、わずかな動揺でも、少しの困惑でも、漠然ばくぜんとした不安でもなく、ただただ静かな、覚悟だけ。


 さあ、それでは、始めよう。




 六人目の追加戦士どころか、巨大なロボットまで持ち出してきたマーブルファイブとの激闘に勝利を収めてから一夜明け、決断を下した俺は、ヴァイスインペリアルの仲間たちを集めて、今後の方針を、悪の組織の行末ゆくすえを決めるための、意思表明を行うために、みんなの視線を受け止めながら、ひとりだけ立ち上がっていた。


 それはなんだか、緊張してしまうというか、重圧を感じてしまうようなところは、正直に言えば、確かにあるけれど、しかし、逃げるわけにはいかない。


 これは、いつまでも先延さきのばしにするわけにはいかない、避けては通れぬ問題だ。


「うむ、お前が決めたなら、当然ながら、ワシらに異論はない。しかし……」


 というわけで、俺の宣言を聞いた祖父ロボの顔にも、特に驚きは浮かんでいない。向こうは俺よりも、経験豊富な悪の総統なのだから、こちらが考えるようなことは、すでに思い付いていても不思議はないので、それは当然の反応ともいえるだろう。


 つまり、だからこそ。


「どこまでやるつもりなんじゃ?」


 続けてはっせられた、このヴァイスインペリアル先代悪の総統の質問に対して、俺はしっかりと、答える必要がある。


 曖昧あいまいな願望ではなく、明確な展望を示す。少なくともそれが、まだ新米とはいえ、みんなを率いる立場にいる俺の、責任というやつだろう。


「今回の目的は、あくまでも、正義の味方と決着をつけることにある」


 だから俺は、自分の考えを、その目的を、きちんと説明してみせる。


「そうして、この国家守護庁こっかしゅごちょうと俺たちの均衡きんこう状態をくずすことで……」


 やっぱり、こういうことは、目標意識の共有が大切なのだ。

 

「裏でコソコソたくらんでいる、神宮司じんぐうじ権現ごんげん八百比丘尼やおびくにを、表に引きずり出す」


 そう、それこそが、今回の作戦の目的。


 正義の味方の皆さんには悪いけど、今はもう、彼らを倒して全てが解決するような状況ではない。問題は山積やまづみで、その奥には、得体のしれない悪意がうごめいている。


 これが現状で、もっとも厄介やっかいだと考えられる問題に対する、次なる一手だ。


「なるほどの。しかしそれは、なかなかのリスクも、はらんでおるぞ」

「ああ、分かってる」


 とはいえ、まるでこちらを試すように、楽しそうな笑みを浮かべている祖父ロボの言いたいことも、十分に理解している。


 もしかしたら、こちらから下手に動けば、虎の尾を踏み、やぶから蛇が飛び出して、覆水盆ふくすいぼんかえらずなんて状況に、追い込まれるのかもしれない。


 これはそれだけ、重大な決断なのだ。


「けど、奴らの思惑おもわくが、目的が、そして、なにをしているのかすら分からない以上、ここでまごまごと、動かずにいれば、その悠長な時間を使って、好きに動かれるのは目に見えているし、そのすきに奴らの陰謀が進行したせいで、下手をすれば取り返しのつかない事態にも、なりかねない」


 とはいえ、俺は今さら、ひるむことも、恐れることも、揺れることもない。


 結局のところ、どうすれば正しいのかなんて、誰にも分からないのだ。ただじっと待つのがいいのか、それとも危険を承知で飛び込むのが正解なのか、全ては終わってからでないと、判断のしようがない。だったら、それはもう、自分がどうしたいのかという、好みの問題でしかないだろう。


 それなら、俺の答えは、やりたいことは、もう決まっている。


「だったら、ここは、前に進む」


 それが、俺の決断だ。


 国家守護庁を、この国を守る正義の味方を、打ち倒してしまえば、もはや状況は、後戻りのできないところにまで進んでしまうのは、目に見えている。


 しかし、それでも、この一歩は、踏み出さなければならない。


「ヴァイスインペリアルの立て直しも進んだし、他の悪の組織との連携も、良好だ。冷静に考えて、今の俺たちなら、攻勢に打って出ても、国家守護庁を打ち倒すくらいなら、それほど問題ないだろう」


 とはいえ、もちろんこれは、ばちになって、無謀な特攻を仕掛けるとか、そんな間の抜けた話じゃない。当然だ。


「少なくとも俺は、そう信じている」


 俺の中に、迷いはない。


 そこに勝算がなるからこそ、リスクにも飛び込める。


 自分たちならば、これから、なにが起ころうと問題ないと、どんな相手だろうと、余裕で打ち倒し、切り抜けることができると、傲慢ごうまんなほどに確信し、信じ抜く。


 それこそが、本当の意味での、俺の決断なのだから。


「うむ、よくぞ言うた! どこまでも上から目線で正義を叩き潰す! それでこそ、悪の総統じゃ! なーに、ワシらの手にかかれば、正義の味方共なんぞ、まさしく、あっという間に、殲滅せんめつしてくれようぞ! ふっふっふっ! 腕が鳴るわい!」


 どうやら、俺の答えに満足したらしい祖父ロボが、それこそ悪の総統らしい不敵な笑みを浮かべながら、高笑いを上げているが、その姿は頼もしい。


 そう、俺は決して、独りではないのだ。


「お任せください。統斗すみと様の御命令とあらば、いかなる敵であろうと、迅速に、かつ後腐れのないように、ちりより細かく粉砕してごらんに入れましょう」


 いつもとなにも変わらない、静かな瞳のけいさんは、まるで俺の全てを受け入れて、そっと包み込んでくれるような、優しい微笑みを浮かべている。


 まあ、言ってることは物騒というか、一応は、俺なりに考えてることもあるので、本当に正義の味方を粉微塵にされると、困ってしまうのだけれども、その気持ちは、とても嬉しいものだった。


「はっはっはっー! 久しぶりに、大暴れできそうな感じだな! よっし! ここはオレも張りきっちゃうぜー! やるぜやるぜ! やってやるぜー!」


 これから訪れる困難を前に、太陽みたいに笑っている千尋ちひろさんは、全身にやる気をみなぎらせ、心の底から楽しそうに飛び跳ねている。


 本当に彼女を見ていると、なにが起きても大丈夫だという安心感と、自分も全力をくそうという決意がいてきて、俺の中に潜む弱い心がふるつ。


「ワタシも~、色々と~、仕事の目途めどは立ったし~、久々に~、身体を動かして~、ストレスを発散しようかしら~。うふふ~、楽しみ~。ね~、統斗ちゃん~?」


 そして、不敵な笑顔のマリーさんときたら、まったく、その頼りになるっぷりは、折り紙付きすぎて、むしろ彼女がやりすぎないように、注意するべきかもしれない。


 とはいえ、そんな心配ができるほどに、余裕があるということが、本当の意味で、なによりも頼もしいと、喜ぶべきことなのだった。


「ええ、もちろんみんなで、大暴れしてやりましょう!」


 だから俺は、胸を張って、愛する仲間たちに、笑顔でうなずく。


 そう、俺たちは、悪の組織なのだ。


 だったら、悪の組織らしく、正義の味方を相手に、大立ち回りを演じてやろう。


「私たちも、頑張るよ! この戦いを、早く終わらせよう!」

「ああ! そろそろ学校の方も、恋しくなってきたことだし!」


 避けられぬ決戦に向けて、可愛らしく気合を入れている桃花ももかと一緒に、俺は自分を鼓舞こぶするために、この拳を突き上げる。


「確かに、ちょっと長い休みになっちゃってるし、そろそろ決着つけよっか!」

「そろそろ進級の時期ですし、その前に、面倒事は解決しておきましょう」


 火凜かりんあおいさんも、俺に同意するように、お互いの顔を見合わせ、頷き合う。


 やっぱり、こういう目標を持つということは、大切なのである。


「そうね。私も卒業式には、ちゃんと出たいかしら」

「そうだそうだ! 先輩のためにも、面倒事は、さっさと片付けよー!」


 樹里じゅり先輩を思うひかりの気持ちに、俺もまったく同感だ。


 それでは早急に、目の前の問題を、さっさと片付けてしまおう。


 俺たちの日常を、取り戻すために。


「よーっし! アタシたちも、全力で統斗ちゃんのお役に立つわよん!」

「うっス! 全身全霊で挑むっスよー! やってやるっスよー!」

「……まさに、命け……、ひひひっ、た、楽しみ……」


 今の俺には、ローズさんにサブさん、そしてバディさんという、頼りになる怪人のみんなを筆頭に、ヴァイスインペリアルの戦闘員たちも付いている。


「……それでは、とりあえずマインドリーダーの二人と、連絡をみつにしておくか」

「そうね。あの子たちにも、しっかりと働いてもらいましょう」


 俺の親父と母さんだって、全力でサポートしてくれている。


 だったら、負けるはずがない。


「それでは、みんなで、やりますか!」

「ジーク・ヴァイス!」


 大きな決断を下した俺に、みんなが続く。それだけで、どんな難局だろうと、乗り越えることができると強く信じて、前へと進む。



 こうして俺たちは、一世一代の大勝負へと、乗り出したのだった。


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