11-4


「う~ん! 大黒だいこくさんのたこ焼きは、いつ食べても絶品ですね!」

「がはははははっ! おおきに、おおきに! そない美味そうに食べてもらえたら、こちらとしても、作り甲斐がいがあるってもんやで!」


 というわけで、絶賛仕事中の俺は、こうして大黒さんの移動たこ焼き店の店先で、彼の作ってくれた至高の一品に舌鼓を打っていた。うん、最高に美味しいぞ!


 なんといっても、このカリカリの表面と、とろとろな中身のバランスが見事すぎる上に、たこ焼き本体とソースの味が最高の相性でからい。もはや、この熱さすらも美味しさのスパイスとなって……!



 ……いや、本当に、仕事中なんですよ?



 竜姫たつきさんたちとの楽しい昼食を終えてから、俺はこうして大黒さんの街を訪れて、彼の案内で、色々と辺りを見て回っていた。


 もちろん、この辺りの近況に関しては、逐一ちくいち情報が上がっているし、地方のまとめ役である大黒さんにも俺たちの本部まで来てもらい、報告をしてもらったりしているけれど、こうしで自分の目で、直接確認するというのも、大切な仕事なのだ。


 それは、同盟を組んでいる悪の組織に対して、トップがちゃんと見ているぞというアピールであると同時に、映像や文章からだけでは分からない、その場の空気というものを感じることで、より正確な状況を把握するという……。


 いやまあ、簡単に言ってしまえば、まさしくただの視察なんだけどね。


「でも本当に、この街も、もうすっかり活気が戻っていて、よかったですよ」

「少し叩かれたくらいじゃ、へこむどころか、やる気を出すのが、ここら辺の人間のええところやさかいな! いやむしろ、前以上に盛り上がってみせるで!」


 豪快な大黒さんの言う通り、ついこの間、かなりの被害を受けた街並みも、今ではすっかりとは言わないまでも、かなり元に戻っているし、そこにいる人たちは笑顔と元気であふれている。


 本当に、こういう様子を見れるというのが、なにより嬉しい視察の成果だ。


「はい、お水よ。歩き回って、疲れたでしょ?」

「あっ、ありがとうございます!」


 エプロン姿の摩妃まきさんからコップを受け取り、熱々のたこ焼きを楽しんだ口内に、冷たい水を流し込みながら、俺はこの、のんびりとした時間を満喫する。


 ただ今の時刻は、もうすぐ丁度、おやつ時。


 ヴァイスインペリアルの本部から、遠く離れたこの地までやって来て、その上で、

大黒さんと一緒に、ぐるりと街を回ったというのに、まだまだこんな余裕のある時間なのは、当然だが、我らがヴァイスインペリアル御自慢の、ワープ装置のおかげだ。


 あれのおかげで、どれだけ離れた場所だろうと、座標を特定するための装置……、アンカーさえ設置しておけば、時間なんて関係ないのだから、便利すぎる。


 というか、ちょっとした反則といっても、過言ではないだろう


「最近は、正義の味方の連中も、この街では、無駄に暴れるようなことも、めっきりなくなったし、平和なもんやで! がっはっはっはっは!」

「まだ一応、国家守護庁こっかしゅごちょうの支部はあるんだけど、いまはもう、大人しくしてるわね」


 豪快に笑っている大黒さんの隣で、優しく微笑む摩妃さんというのは、なんだか、幸せの象徴のように絵になっていた。うん、夫婦って、いいなあ。


 なんて、考える余裕があるくらい、この辺りの正義の味方の動向に関しては、特に問題がないと、言い切ってしまっていいだろう。


 元々この辺りは、あまり正義の味方の活動が活発ではなかったけれど、大黒さんがひきいる悪の組織……、ビッグブラッグが主導権を握り、俺たちの協力の元で、情勢を完全に掌握したことで、もうほとんど形骸的けいがいてきな動きしか、していない。


 とはいえ、無理に潰そうとすると、下手な反撃を受けて、せっかく街が落ち着いてきたというのに、面倒なことになるかもしれないので、監視しながらも放置しているというのが、現状だったりする。


 つまり、それだけの余裕が、俺たちにはあるということだ。


「まっ、いまだに外からは、何度も攻め込んで来ようとしとるけど、こっちは同盟でスクラム組んでるし、ヴァイスインペリアルの支援もあるから、余裕のよっちゃん、酢漬けイカやけどな! ほんま、感謝しとるで!」

「いえいえ、それもこれも、大黒さんたちが頑張ってくれてるおかげですよ」


 つい先ほどの会議でも報告を受けた通り、全体的な戦況は、こちらがコントロールしているといってもいい。それもこれも、頼もしい大黒さんの手腕によって、周囲の仲間たちが見事にまとまってくれているのも、大きな要因だ。


 本当に、この人の協力を得られてよかったと、心からそう思う。


「でもやっぱり、あのワープ装置って、凄いのね。ずいぶんと、助かってるわ」

「ほんまやで! あれのおかげで、補給も援軍も、自由自在やからな!」


 そして皆の活躍に、俺たちの技術が役立っているというのなら、むしろ光栄だと、笑顔の摩妃さんの肩に、その大きな手を、優しく置いた大黒さんの幸せそうな様子を見ていると、なんだか誇りたいような気持ちになれた。


 とはいえ、やっぱり、前述のワープ装置というやつは、こういう戦闘においても、非常に有用というか、その効果のほどに、疑う余地はないというか、戦闘の規模が、単純に広がれば広がるほど、やりたい放題できるんだなぁ……。


 ワープという超技術が、時間と距離の概念を、完全にくつがしてしまっているので、通常の輸送手段しか持たない相手とは、比較にならない速度で、あらゆる作戦を繰り広げ、展開することが可能となるわけで、なんというか、あまりにも、こちらに有利すぎて、相手に悪い気すらしてくる。


 まあ、これは悪と正義の戦いなので、もちろん手加減なんて、しないけど。


「おかげで、同盟同士の連携も上手くいっとるし、士気も高いで!」


 当たり前のことだけど、国家守護庁は俺たちヴァイスインペリアルだけを狙って、攻撃を繰り返しているわけではなく、そこに所属する正義の味方を使って、広い範囲から攻め込み、こちらの支配領域を切り崩そうとしてきている。


 そんな広すぎる戦線を維持し、勝利を収め続けるために、色々と苦労も多いだろう大黒さんだけど、その表情には余裕があり、むしろ活力に満ちている。


 うん、これならやっぱり、大丈夫だろう。


「とりあえず、今のところは様子を見て、機を見て一気に、勝負を決めれたらいいんですけど……、それまでは、なんとか踏ん張ってください」

「任しとき! 同盟一同、一丸となって、我らが総統に勝利を捧げてみせたるわ!」


 不穏な動きを見せている神宮寺じんぐうじ八百比丘尼やおびくにの一件があるけれど、それとは別に、今後のスムーズな支配活動のために、もう少し時間が欲しいと、無理なお願いをする俺に対して、大黒さんは頼もしい答えを返してくれる。


 そう、全ては悪の組織の勝利のために、俺たちの思いは、一つなのだ。


「さて、真面目な話は、これくらいにして、そろそろ本題といきましょか!」

「へっ? 本題って、なんですか?」


 というわけで、互いの思いを確認し、再びこの胸に、強い決意を灯したところで、なんだか大黒さんが、にんまりと楽しそうに笑うので、俺は思わず、首を傾げる。


 いやしかし、真面目な話以外の本題といわれても、皆目かいもく見当が……。


「とぼけんでもええがな! 色々と聞いとるで~? なんや最近、またずいぶんと、やんちゃしとるらしいやないか!」

「ふふふっ、モテる男はつらいわね? それとも、モテる男に惚れちゃった、女の子の方が大変かしら?」

「ちょ、ちょっと、勘弁してくださいよ!」


 なんて、油断していたら、豪快に笑う大黒さんと、上品な笑顔の摩妃さんに、どこから仕入れた情報なのか、なんとも恥ずかしい尋問を受けてしまい、ほとほと困ってしまったけれど、それだって、悪い気はしない。


 本当に、この人たちといるだけで、こちらの笑顔も絶えないのだから。



 でも、そんな楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまう。



「おっと、ちょっと話し込んじゃいました。そろそろ、他のお客さんがやってくるでしょうし、自分はそろそろ、おいとましないと……」

「なんや、もう行ってしまうんか? もっと遊んでったらええのに。せや、なんならワシのオススメ、紹介させてもらうで?」

「もう、あなたったら、引き留めたりしたら、逆にご迷惑よ?」


 気が付けば、時計の針は進んでいて、もうすっかりと、いい時間だ。このまま俺が居座って、貸し切りを続けてしまっては、大黒さんたちの商売の邪魔になってしまうというわけで、俺は御代を払いながら、席を立つ。


 この絶品たこ焼きを楽しみしている人たちに、このままでは申し訳ない。


「ははっ、ありがとうございます。それじゃ、またすぐにでも、お邪魔しますよ」

「せやな、そん時は、今日のよりも、断然美味いたこ焼き、御馳走したるわ!」


 嬉しいことを言ってくれる大黒さんたちに、心からのお礼を言いながら、俺はこの頭の中で、今度はいつ来ようかなと、算段を立てる。


 とはいえ、ワープがあるのだから、別に気負う必要はないし、いつだって、気軽に訪れることができるのだから、湿っぽくなる必要もない。


 俺たちはいつだって、繋がっているのだ。


「それで、これからどうするんや? この街に泊まるんやったら、ええ宿あるで!」

「うーん、残念ですけど、今日はちゃんと、向こうに帰る予定なんです」


 まあ、その繋がっているワープのおかげで、どんなに遠くに出張しても、その日のうちに、自宅に帰ることができるものだから、なんだか慌ただしくなってしまうのも確かというか、たまにはのんびり、旅情を味わいたかったりするのも、本音といえば本音だったりするけれど、ここはぐっと、我慢をしよう。


 今日はまだまだ、仕事が残っているのだから。


「それに、これからまた、行くところもありますし」


 そう、悪の総統は、これでも忙しいのである。


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