10-6
とはいえ、状況はやはり、
「みんな、大丈夫か?」
「う、うん! よいしょ……、今のところは、問題ないよ!」
どうにかこうにか、先頭を歩く俺の後ろで、他の仲間たちに気を配ってくれている
しかし、安心はできない。
龍脈の力を操る
そんな状況では、ただでさえ山登りに
とりあえず、こうして魔方陣を幾つも重ね合わせ、まるで除雪列車のような障壁を展開した俺が先陣を切り、強引に雪の壁を切り裂きながら、ただひたすら一直線に、山頂を目指すという強行策は、はたして俺たち悪の組織の人間が持つ、超人的な身体能力を駆使しても、簡単なことでないのは、明白だった。
「みなさん、頑張ってください! 決して、この結界からは出ないように……!」
「隊列を乱すな! こんな状況で遭難したら、命の保証はないぞ!」
過酷な環境の中を、黙々と進む仲間たちを鼓舞する竜姫さんの側では、厳しい顔をした
俺もなるべく、大きな道を作ろうと頑張っているのだけれど、山の構造上、そうは思い通りにならず、どうしても難所は生まれてしまう。
俺は目の前の割れ目に、魔方陣で足場を作り、慎重に
「うひゃ~。落ちたら
「立ち止まるより、進んだ方が安全ですね。急ぎましょう」
後ろから、どうにか場の雰囲気を盛り上げようとするエビルレッドと、いつも通り冷静なブルーの声がするけれど、残念ながら、振り返ってる余裕はない。
これだけの魔方陣を維持し続けるというのも、かなり集中力を
「こうなると、
「うわわっ! こ、恐いこと言わないでくださいよ、先輩~!」
とはいえ、エビルグリーンの言う通り、下手なことをすれば、致命的な事態も起きかねないので、
ぐっ!
「……っ!」
「おい、どうした?」
その瞬間、脳裏に走った痛みを
正直に言えば、この山を登り始めてから……、おそらく正確には、
とはいえ、まだ許容範囲内であり、
こうして、カイザースーツだって着ているのだから、普通に見ていたくらいじゃ、
「いえ、なんでもありま……」
なんにせよ、不審に思われるといけないと、俺は気持ちを奮い立たせて、まったく普段通りの感じで、軽く答えようとした……、その瞬間だった。
横殴りに
これは……、まずい!
「くっ! 敵襲! 周囲の警戒を!」
「――っ!」
俺が号令を発すると同時に、結界を維持している竜姫さんを守るように、みんなが素早く陣形を変えて、警戒を強くした途端、夜の闇と、嵐のように舞う雪の隙間から放たれたのは、サイレインサーでも使っているのか、音のない銃弾だった。
「マジカル! フォーリッジ・シールド!」
エビルグリーンの展開した防壁のおかげで、こちらに被害はないが、姿を見せない襲撃者は、この最悪すぎる天候と足場を物ともせずに、まるで地を
「マジカル! メデゥーズ・シューター!」
「マジカル! バミューダ・アロー!」
エビルピンクと、ブルーが、それぞれの
竜姫さんの結界内では、吹雪による影響がないけれど、一歩でもそこから外に出てしまえば、そこは一寸先すら見ることが困難で、ただでさえ相手の姿を確認するのは難しいというのに、この雪山用の装備でも用意しているのか、あれだけ自在に移動を繰り返されてしまうと、目標が補足できず、それを正確に狙撃し、撃ち抜くなんて、どれだけ腕が良かろうと、至難の技なんてレベルではない。
でも、だったら、神器の力で、どんな相手でも見ることができる俺が……!
「――つうっ!」
しかし、魔方陣を構築しようと、意識を集中した途端、俺の脳ミソを、鋭い痛みが襲い、危うく意識が、
さすがに、もうすでに、
これが万全だったなら、まだまだ余裕はあるのだけれど、こんな二つの神器の力が荒れ狂っている状態では、今以上の集中は、困難を極める。
なら、魔術を使うのではなく、直接叩く!
「レッド! イエロー! 敵が攻め込んで来たら、迎撃頼むぞ!」
「オッケー! 任せて! やるよ、イエロー!」
「はい、先輩! 誰が来ても、ボコボコにしちゃうんだから!」
俺は近接戦闘に
「
「みんなのこと、頼みましたよ、竜姫さん!」
ここにいる仲間たちなら、どんな脅威にも、十分に対処は可能だ。
俺はそう信じて、素早く事態を収拾するために、もっとも近くの気配へと、全力で
向かいながら、この拳を握り締める。
「――はっ!」
吹き荒れる雪の嵐も、カイザースーツを装着していれば問題ない。かなりの距離はあったけど、俺は目標へと即座に接近し、そのまま殴り抜けようと……。
したのだが。
「くっ、ちょこまかと……!」
雪山仕様のギリースーツを着用した物体が、あきらかに人の足による動きではない軌道を描きながら、恐ろしい速度で斜面を
まるでスノーモービルのような、その動きを見る限りでは、どうやらその足元に、なんらかの特殊な装備をしているらしい。
やはり、奴らに時間的な
なんて、俺の認識は、ハッキリ言って、甘すぎた。
「……なっ!」
そんな、驚きの声を上げても、もう遅い。周囲の敵が、まるで
その直前に、俺は見た。奴らのうちの一人が、逃走の直前、その手の中で、なにか小さなスイッチを、確かに押すのを。
「くっ!」
俺は自らの
もはや、みんなの元に戻っている時間もない。ひとたび始まってしまえば、それは
「――間に合え!」
なんとか、なんとか魔方陣の構築に成功した俺は、気力を振り絞り、しばらくは、周囲の
これならば、俺がこの場から離れても、少なくとも、この猛威が過ぎ去るまでは、あの所壁が、みんなを、仲間たちを守り、あの場へと
「みんな、頂上で合流だ! 立ち止まらずに、前へと進め!」
「……っ! ……っ!」
こちらに向けて、みんなが口々に、なにかを叫んでいるようだけど、もうここまできたら、すぐそこにまで迫っている地鳴りのせいで、なにも聞こえない。
しかし、きっと俺からの声は聞こえたはずだと信じて、覚悟を決める。
もはや、頭の中はぐちゃぐちゃで、粉々に砕けてしまいそうだったけど、しかし、それがどうしたというのか。俺の意識は、まだ途絶えていない。
それはつまり、まだ終わってないということだ……!
「さて、と……!」
そして、巨大な雪崩が、この身体を飲み込もうとした、まさに、その刹那。
「って、しゅ、朱天さん!」
「黙って耐えろ! くるぞ!」
この場にいる誰よりも速く、結界から飛び出した、鬼の姿をした
「――っ!」
そのあまりにも予想外な事態に、声を上げる暇もなく、俺と、朱天さんは、圧倒的すぎる質量に飲み込まれ、押し流されるのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます