10-1
「ソレは、
まるで、悠久の時間を
ここは、ヴァイスインペリアル中央本部ビルの地下にある作戦会議室。落ち着いた内装をしたこの部屋に、わざわざ
気が遠くなるような歴史を持つ彼女の組織に、文字通り
「
静かに語る竜姫さんに、口を
耳に優しい
「空は腐り、大地は汚れ 海は煮え立ち、人々は
語られる内容は、なんだか恐ろしいものだったけど、竜姫さんのおかげで、非常に聞きやすいので、ありがたい。
「そんな
なんて、お気楽なことを考えていた俺が気を抜いているうちにも、どうやら話は、核心へと
「英雄は、形のないソレを、形あるものへと落とし込み、打倒するため、自らの力を分け、与え、縛りつけることにする」
それは、なんとも抽象的な話だが、実に神話らしいとも言えるだろう。
そう、神話だ。
膨大な歴史を、延々と、果てしなく積み重ねてきた八咫竜の物語は、もはや、そう呼んでも、なんら
「あまねく全てを見通す心眼を、
そんな夢みたいな物語を、竜姫さんは語る。
「永遠の命を
俺なんかには想像もできない、遥かな過去の話を。
「そして、全てを
まさしく、真実の物語として。
「こうして、形のないソレを、一匹の龍へと
そんな竜姫さんの姿は、本当に、息を呑むほど、美しい。
「……というのが、ここまでの調査によって分かった、私たち八咫竜に、
そして、ひと仕事を終えて、嬉しそうにしている竜姫さんは、本当に可愛らしい。うーん、癒されるなぁ……。
「本当なら、もっと膨大な詳細もあるんだが、かなりの量だからな。後で資料としてまとめて、正式に提出する予定だ」
なんて、気を抜いて
そう、ここからが、本題である。
「とても難解な古代文字の上に、複雑な表現を
まだ全ての仕事が終わったわけではないからか、少しだけ恥ずかしそうにしている竜姫さんだけど、その微笑みは、キラキラと輝いて見える。
というか、あの資料は、俺もチラリと見たけれど、正直な話、あれが意味を
そんな気の遠くなるような作業を、八咫竜の皆さんは、こんな短期間で、ちゃんと形にしてくれたのだから、こちらとしても、本当に感謝である。
うんうん、やっぱり持つべきものは、頼れる仲間だ。
「歴史を
「おーっ! ぱちぱちぱちぱち!」
なので、俺は八咫竜への感謝を込めて、竜姫さんの報告に対して、無邪気に歓声を上げることにする。
元々は、あの
なにが役に立つのかなんて、誰にも分からないのだから。
「ということは、つまり、さっきの話に出てきた、全てを薙ぎ払う腕っていうのが、
「はい、その通りです。もちろん、それらの資料は、太古に書かれたものですので、現代の地名が、そのまま
俺からの確認に、竜姫さんが嬉しそうに頷いてくれたけど、これは、まあ、簡単な答え合わせのようなものだろう。
先ほどは、あくまでも分かりやすい
「そうなると、全てを見通す心眼っていうのが、
さて、ここまでは、俺の中にある神器の力を考えれば、
だけれども……。
「うん? でもあれって、北端とかじゃなく、海の中に沈んでましたよ? それも、やっぱり北じゃなくて、日本海の南の方に」
ちょっとした疑問が、思わず俺の口から、
「封印の間で見つかった品々は、八咫竜創設当時のもので、それから誰も手を加えていなかったようだからな。時の流れと共に、変わったこともあるだろう」
「ああ、確かに……」
そんな俺の疑問に、
「つまり、あの勾玉は、元々は北にあったというわけですね」
「はい。ちょうど、この島国を竜に見立てて、目の位置となる場所に、どうやら安置されていたようです」
俺からの質問に、律儀に返答してくれた竜姫さんの言う通り、八咫竜に眠っていた資料には、そのように書かれていたということで、間違いないようだ。
しかし、今は北と聞くと、どうしても、最近までそちらを攻めていた
「そこから、誰だか知らないけど動かしたってわけか……。勾玉の方は、剣みたいに人を選ぶとかなく、誰でも運べたのか、それともやっぱり、選ばれた人間が……」
そして、それ以外にも、色々と気になることもあるわけだけど、だがしかし、その答えを知る術を、残念ながら今の俺は、持っていない。
せいぜいが、こうしてグルグルと、答えのない想像を、じりじりと痛む脳ミソで、頑張って膨らませるのが、関の山というところだった。
「まっ、長い歴史の中では、なにがあっても不思議じゃないのかもしれんの。全ては過去の
とはいえ、肩を
ならば、うだうだと考えてるだけというのも、非生産的すぎる話か。過去に思いを
今を生きる俺たちは、さしあって、今と未来を、考えなければならないのだから。
「そうだな、それはそれとして、じゃあ、その永遠の命を司る魂っていうのが……」
俺は気持ちを切り替えて、もっとも気になっていることを口にする。
おそらく、これこそが、今の俺たちにとって、もっとも重要な情報のはずだ。
「はい、そうです! 最後の神器、
そして、本当に嬉しそうに、その表情を綻ばせながら、これからの俺たちにとって大切なことを、竜姫さんが教えてくれる。
「
そこはまさしく、誰もが知っている
しかし、なるほど聞いてしまえば、最後の神器が眠る場所として、これほどまでに
「……富士か」
「あれ、どうしたんだよ、父さん。なにか思い当たる事でもあるのか?」
というわけで、こうして新たな目標が、提示されたわけだけど、その場所の名前を聞いた途端に、もはや、お決まりのように、悪の組織の大事な会議に、当然みたいな顔で参加してる親父が、ボソリと呟く。
「……いや、別に神器に
「そうね。特に重要な拠点とかは置いてなかったけど、いつもなんだか、気を払っていたような気がするわ」
そんな父に続いて、その隣にいる母さんまで、なんだか気になることを言い出してしまったので、俺は頭を悩ませる。
どうやら、そう簡単な話でも、なさそうだ。
「とりあえず、その八咫鏡は、まだ富士山に?」
「ああ、あるはずだ。今回の情報を元に、独自に調査を深めたが、間違いない」
元々の場所から、移動していたらしき勾玉の件もあったので、とりあえず最低限の確認だけしようと思ったのだけど、朱天さんの、その堂々たる態度を見れば、俺からしてみれば、そこに疑う余地はない。
ならば、やはり最後の神器は、今もそこにあるのだ。
だったら、俺は、どうするべきか?
「それで、いかがいたしますか、
「うーん、そうですね……」
笑顔の竜姫さんに
さあ、ここがまさに、思案のしどころだ。
俺の動向を、竜姫さんが、朱天さんが、祖父ロボが、親父が、母さんが、この場にいる全員が、じっと見守ってくれている。
当然だ。これからどうするのか、言葉にするのは簡単だけれど、その決断こそが、俺たちの未来を、大きく変えることになるかもしれないのだから。
どれだけ重くても、その責任を、俺は果たさなければならない。
「それじゃあ……」
なぜなら俺は、悪の総統なのだから。
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