9-9


 そして、幸せな夜が明けた……。


 ということを、俺は枕元で鳴り響く携帯の着信音によって、なかば強制的に、短い夢の世界から目覚めた瞬間、必然的に開いたひとみに入るカーテン越しの光で知る。


「う、うむむむっ……」


 俺は苦悶くもんの声を上げながら、なんとか気力をしぼり、なまりのような身体を強引に動かして、この手を布団から突き出し、元凶の携帯をつかることには、成功した。


 さあ、問題はここからだ。ちゃんと目覚めろ、俺の脳ミソ……。


「もひもひ……?」

『なんじゃい、寝起きか、統斗すみと。もうすっかり、お日様ものぼっておるぞ』


 しまった。少しづつ頭は回り出したけど、口の方が全然回っていなかった。


 なんだかマヌケな応答をしてしまった俺に、電話の向こうの祖父ロボも、どうやらあきれているようだ。


 いかん、いかん、いくら寝起きでも、しっかりしないと……。


「あ、ああ、ごめんごめん。ちょっと昨日は、夜遅くてさ」

『ふ~ん、まあええが、何事なにごとも、ほどほどにしとけよ?』

「分かってるって。それで、どうしたんだよ」

『おお、まあ別に、お決まりの報告ってやつなんじゃがな』


 そして、なんとかのどの調子を戻した俺に、いつも通りな祖父ロボは、まるで、軽い世話話みたいな感じで、話を続ける。


『マーブルファイブの連中が、また攻めてきたが、どうする?』


 あー、なるほど、思ったよりも、早かったな……。


『とりあえず、今は戦闘員たちが、奴らをいつもの採石場に誘導しておるから、もうしばらく余裕はあるが、今回は、誰を出す?』

「あーっと、そうだな……」


 さて、とりあえず、これからどうするべき、俺は責任ある悪の総統として、寝起きの頭で考える。うん、考える、考える……。


 とはいえ、これは答えを出すのに、それほど悩むような問題じゃない。


「うん、俺が出るよ。基本的には、今日も暇だし」

『ふーむ、おぬしが決めたなら、それでええがの……』


 単純に、それほど緊迫した事態ではないようだし、みんな仕事で忙しいのだから、ここは時間をあましてる俺がやるのが、道理どうりだろう。


 やるべきことは、やれる人間が、やればいいのだ。


『どうせなら、おともくらいは、付けたらどうじゃ?』

「ああっと、そうだな……」


 とはいえ、祖父ロボの意見も、もっともか。


 正義の味方を相手するのに、悪の総統一人だけで向かったら、まるでもう、最後の決戦みたいな感じで、変に盛り上がってしまう可能性だってある。


 マーブルファイブとは、まだまだ長く付き合っていきたいので、ここはまだ余裕を持った展開を、心がけていきたいところだ。


「じゃあ、エビルセイヴァーのみんなにも、俺の方から、声をかけておくよ」

『ふむ、分かった。それでは、後は任せたぞ』


 とりあえず、怪人組は前回戦って敗北してから、まだ新しい強化プランを実行していないことだし、最高幹部のみんなは、前述ぜんじゅつの通り、いそがしい。


 ならここは、総統である俺と同じく、時間がいているシュバルカイザー親衛隊のみんなが、適任だろう。


「了解、それじゃ、俺はこのまま、現場に向かうから、うん、うん……」


 というわけで、話は決まったので、俺は祖父ロボからの通話を切って、携帯電話を元の位置に戻しつつ、気持ちを入れ直す。


 さあ、仕事の時間だ。


「おい、起きろ、ひかり」

「はむ~ん? なによ~」


 とりあえず、この腕の中で眠る可愛らしい少女の身体を優しく揺すり、気持ち良く寝ているところを悪いけど、目覚めの手伝いをしてやることにする。


 がっつりと抱きつかれてしまっているので、このままでは、動くことすら難しい。


「敵襲だよ。俺は出るけど、お前はどうする?」


 まあ、エビルセイヴァーに声をかけるとは言ったけど、それだって、相手の都合もあることだし、なんだったら、別に全員揃っている必要もない。


 そう思った俺は、ひかりだって、昨日の今日で疲れているだろうし、無理強むりじいするつもりは、全然なかったわけなんだけども……。


「うー、ひかりも……、一緒に、行く~」

「……大丈夫なのか?」


 ベッドから出ようとする俺に、ぎゅっとしがみついてきた少女の腕を、振りほどくような真似は、俺にはできない。


「ふふーん、ひかりちゃんを、舐めないでよねえ……、ふわ~あ……」


 あきらかに、寝ぼけてはいるけれど、その目はもう、キラキラと輝き始めている。


 これなら、まあ、大丈夫か。


「とりあえず、シャワーくらいは、浴びてくか……」

「あーい……」


 こうして、裸の俺とひかりは、もぞもぞとベッドから起き上がり、昨晩の疲れを、少しでも落とすため、一緒にお風呂場へと向かうのだった……。




「おっ、来たな」


 そして、素早く身支度みじたくを整え、速攻でみんなに連絡して、あっという間に集まった俺たちは、もはや恒例こうれいというか、お決まりになった採石場の崖上にて、正義の味方の到着を、今や遅しと待っていたのだけれど、まさに今、待ち人があらわれた。


 我らがヴァイスインペリアルの戦闘員たちに囲まれながら、もうすでに、これまで何度も見てきた戦闘スーツ姿に変身しているマーブルファイブが、わざわざこんな、人気のない街はずれに、雪崩なだれこんで来てくれる。


 毎度毎度、この場所を戦場に選んでいるのは、ここならいくら破壊されても、特に大きな損害にはならないことと、当然ながら、街に無駄な被害を出したくないからなわけだけど、ここまで上手く誘導されてくれると、こちらも大助かりだ。


 もちろんそれは、俺たちの組織の戦闘員が非常に優秀だから……、ということも、あるだろうけど、確かな力量を持っているマーブルファイブを相手にして、ここまでスムーズに事が運ぶのは、もしかしたら、正義の味方の方も、俺たちの街で、激しい戦闘を行うことを、避けようとしてくれているからかもしれない……。


 というのは、期待しすぎか。


 それに、向こうがなにを考えていようとも、こちらのやることは変わらない。


「それじゃ、行こうか、みんな!」


 俺の確認に、そばひかえてくれている仲間たちがうなずいた。


 さあ、仕事を始めよう。


「――王統おうとう創造そうぞう!」


 俺は一瞬で、戦うための準備を整え、崖下にいる正義の味方を見下ろせる位置へ、わざとらしく派手に、おどる。


 それでは、やりますか!


「ふっ! また何度も何度も、ご苦労なことだな、マーブルファイブ! どうやら、よほど敗北の味が、忘れられないらしい!」


 俺は悪の総統らしく、思い切り上から目線で、分かりやすく相手を見下みくだしながら、自分はここにいるのだと、健気けなげにアピールしてみせる。


 こういうのは、つかみが大切なのだ。


「……シュバルカイザー! 今日こそお前を、倒してみせるぞ!」


 というわけで、こちらの思惑通り、突然出てきた俺に注目してくれた正義の味方のすきをつき、彼らをここまで導いてくれた戦闘員たちが、素早く撤退を始める。


 よしよし、狙い通りだ。


「はっ、あわてるなよ、正義の味方。物事は、そう簡単には、いかないものさ」

「なんだと……!」


 俺が適当に時間を稼いでいるうちに、優秀な我らが戦闘員たちは、あっという間に採石場から姿を消している。


 その手際てぎわは、まさに見事の一言だ。


「そういう大口を叩くのは……」


 これならもう、大暴れしても、問題ない。


「この俺の親衛隊を、倒してからにするんだな!」

「――マジカル・エビルチェンジ!」


 そして、打ち合わせ通り、俺の号令を受けて、それまで隠れていた五人の少女が、狙い通りに劇的な演出で、ド派手な登場を披露する。


「この世に悪がある限り!」

「地獄の業火ごうかは燃え盛る!」

てつく水の静けさに!」

「暗き森よりい出でて!」

「黒き光が天をつ!」


 順番に、エビルピンク、レッド、ブルー、グリーン、イエローへと、瞬間的に変身した桃花ももか火凜かりんあおいさん、樹里じゅり先輩、そして、ひかりが、見事な決めポースを決めながら、漆黒しっこくの爆発と共に、大見得おおみえってみせる。


「我ら、シュバルカイザー親衛隊! エビルセイヴァー、ここに推参すいさん!」


 うーん、いつ見ても、格好良い。


「エビル……、セイヴァー? どこかで聞いたことが……、はっ、そうか! 貴様が洗脳したという、元・正義の味方か!」


 どうやら、俺を守るように陣形を組んでいる少女たちについて、ある程度の情報は持っているようで、彼らの中心にいるマーブルファイアが、驚きの声を上げている。


 うん、それはいい。それはいいんだけど……。


 個人的には、割と訂正したい部分もあるわけで……。


「ふん、洗脳したとは、ずいぶんと、人聞きが悪いじゃないか。彼女たちは、自らの意思で、俺に従っているにすぎない!」

「くっ、なんて卑劣な奴なんだだ! あれこそまさに、悪の権化か!」


 いや、少しはこっちの話を聞けよ。


 なんて心の中でなげいても、なにやら火がついたらしいマーブルファイアは、完全に俺のことは無視して、あっという間に燃え上っている。


 ……まあ、いいか。


「こうなれば……、いくぞ、みんな! 正義の力を、見せてやるんだ!」

「ラジャー!」


 そして、熱く拳を突き上げたリーダーに続いて、正義の味方の皆さんが、これまた素晴らしいポーズを決めながら、なぜかいまさら、自己紹介をしてくれた。


あらぶるほのお戦士せんし! マーブルファイア!」

逆巻さかまみず戦士せんし! マーブルウォータ!」

たけはがね戦士せんし! マーブルメタル!」

きらめく大地だいち戦士せんし! マーブルアース!」

けるかぜ戦士せんし! マーブルウインド!」


 うん、知ってる。


かがやいのち奇跡きせきあかし! 輝石きせき戦隊せんたい、マーブルファイブ!」


 そして、彼らが全員でポーズをとると、その背後でカラフルな爆発が巻き起こり、採石場の空気を揺らす。


 先ほどの、エルビルセイヴァーの名乗りといい、どうやら、なんだか豪華な対面になった気がして、ちょっとだけワクワクしたのは、内緒にしておこう。


 それでは、まんして……。


「さあ、開幕だ! エビルセイヴァーよ、我らの敵を、打ち倒せ!」

「ジーク・ヴァイス!」


 俺からの指示を、今か今かと待っていた様子のみんなが、その瞬間をむかえ、少しも躊躇ちゅうちょすることなく、この高い高い崖から、飛び降りる。


「マーブルファイブ! レディ……、ゴー!」


 そして、当然ながら、まったくあぶなげなく、素晴らしい着地を決めてみせたエビルセイヴァーに向けて、どうやら気合十分らしいマーブルファイブが、ごえと共に、それぞれ武器をかまえて、駆け出した。



 よし、それじゃあ、始めるか!



しみはなしだ! 一気にいくぜ!」

「ラジャー!」


 どうやら、これまでの経験をかしたのか、本格的に乱戦になる直前に、少しだけ後ろの方で、マーブルファイア、ウインド、アースの三人が、走りながら集まって、お互いの右手をかさわせる。


 なるほど、最初から全力なのは、ナイスな心掛こころがけだ。


「マーブルパターン! グランド・ストーム・ボルケーノ!」


 そして、その三人が息を合わせて、右手のこうに装着された色鮮やかな鉱石を輝かせながら、大きな声で叫んだ瞬間、エビルセイヴァーの足元が、まさしく火山のように隆起りゅうきし、噴火ふんかごとく炸裂しようとしている。


 しかし……。


「マジカル! フォーリッジ・シールド!」


 その直前、エビルグリーンこと、樹里先輩が展開した防壁が、エビルセイヴァーの足元を包み込んで、弾ける火炎や、巨大な岩石を強引に抑え込み、その結果として、正しい出口を失った荒ぶる力が、あらぬ方向から噴出し、辺りは一瞬で、地獄絵図のような有様ありさまに早変わりする。


 単純に力の強弱というよりは、タイミングの問題だろう。


 つまり、先輩の方が彼らより、一枚上手というわけだ。


「あらあら、この程度の実力で、私たちの総統を倒す? 笑わせないで欲しいわね」


 しかし、まるで地獄の釜がひっくり返ったような情景の中で、ああして相手を挑発しながら、りんとした立ち姿を披露しているエビルグリーンは、またなんとも絵になるというか、美しいというか、感動すら覚えてしまう。


 本当に、見事なまでの、悪の女幹部っぷりである。


「くっ、負けて、たまるか! マーブルファイブ、突撃!」

「いくよ、みんな!」


 それでも、気勢きせいを上げて突っ込んで来た正義の味方を、我らがエビルセヴァーが、迎え撃つ。それぞれのリーダーであるエビルピンクとマーブルファイアが、その手に持った銃型の武器で激しく撃ち合い、マーブルウォータとメタルを相手にしながら、エビルレッドが炎をまとって殴り込み、後方にいるマーブルアースとウインドの動きをエビルブルーが射撃で牽制けんせいしつつ、エビルグリーンが皆を守る。


 閃光、衝撃、爆発、轟音、雨あられ……。


 もはや、なにがなにやら分からないような乱戦ではあるのものの、一つだけ、胸を張って言えるのは、全体的に押しているのは、我らがエビルセイヴァーであるということだ。常に先手を取り、出鼻でばなくじき、動きを封じ、自分たちは協力しつつ、相手の連携を断ち切っている。


 これなら俺も、安心して高みの見物を決め込める……、と思ったのだけれども。


「……う~」


 そんな絶好調なエビルセイヴァーの中で、あきらかに動きがにぶい少女が一人。


 いつもなら、誰よりも速く、戦場をめぐり、かき乱し、かき回しているはずの、エビルイエローこと、黄村きむらひかりが、あきらかに精彩せいさいいた動きで、困ったように戦場のはしっこで、もじもじとしている。


 他の四人が頑張ってくれているので、大勢たいぜいに影響はなさそうだけど、一体、なにをしてるんだ、あいつは……。


「よっと」

「うおっ! なんだっ!」


 というわけで、気になることは、さっさと確認しようと、俺は適当な魔方陣を展開して、適当にマーブルファイブを吹き飛ばしつつ、崖上から飛び下りて、さりげなくエビルイエローのそばに着地する。


「おい、どうした?」


 そして、とりあえず誰にも聞かれないように、小さな声で、なにやらモゾモゾしているエビルイエローにいかけた……、のはいいんだけども。


「……胸が痛い」

「……はい?」


 うつむいた彼女から返ってきたのは、どうにも漠然ばくぜんとした回答だった。


「おいおい、大丈夫か? 怪我……、とかじゃないよな。具合が悪いなら、ここは、みんなに任せて、お前は戻って、マリーさんの診察を……」


 とりあえず、不調をうったえられてしまっては、心配しないわけにはいかない。


 少なくとも、見ていた感じでは、エビルイエローが攻撃を受けた様子は、まったくないし、ちゃんと監視もしていたので、正義の味方が見えない新兵器を使ったということも考えづらい。そうなると、最終的には本人の問題ということになるんだけど、そればかりは、俺の手で適当な処置をするよりも、ちゃんと専門の人に……。


「う、うるさいわね! あんたのせいでしょ!」

「……はあ? なんでだよ、俺がなにかしたか?」


 などと、俺が真剣に心配してやっていたら、なぜか顔を赤くしたエビルイエローに怒鳴どなられてしまった。


 うむ、意味が分からん。


「あんたが、昨日の夜、ずっとずっと、このおっぱいを、み続けたからよ! そのせいで、動くたびに、服にこすれて、痛いんだから!」

「ぶっ」


 いや、意味が分かった。

 というか、分かりたくなかった。


 というか、いきなりそういうことを、大声で叫ぶなよ! びっくりするだろ!


「この、変態! おっぱい大好き、おっぱい総統!」

「な、なんだと!」


 しかも、いきなりそんな罵倒ばとうをされてしまったら、こちらとしても、言い返すしかないではないか。


 人間は、本当のことを言われるのが、一番つらいんだぞ!


「お前な! 好きな人に揉まれたら、大きくなるって聞いたから……、とかいって、執拗しつように、その小さなお胸を揉めと強要したのは、そっちだろうが!」

「ち、小さ……! はっはーん! その小さな胸を、ペロペロ、赤ちゃんみたいに、舐めまくってたのは、どこのどいつ……!」

「お、おまっ! それを言うなら、そっちの方こそ……!」


 というわけで、俺とひかりは、自分たちを取り巻く状況すら忘れて、感情に任せた大声で、お互いをののしう。


 罵り合って、しまった……。


「……はっ!」

「…………」


 俺が気付いた時には、もう遅い。


 まさしく、地獄のような沈黙の中で、死にたくなるほど冷たい視線が、チクチクというよりも、ザクザクと、俺のことを刺している。


 なんというか、エビルセイヴァーどころか、マーブルファイブまで、完全に動きを止めて、あれだけ激しかった戦闘を中断して、こちらを見ているのだから、まったくこれは、冷や汗だか脂汗あぶらあせが、止まらない。


「え、えーっと……」


 まずい、軽く死にたい。


「い、今だ、エビルセイヴァー! 相手は隙だらけだぞ!」

「いやいやいや、そんなことで、誤魔化されるか!」


 くそっ、少しは空気を読めよ、マーブルファイア!


 というか、俺がなんとか、この地獄のような空気を、変えようとしてるんだから、少しは協力してくれよ、正義の味方!


「おのれ! そんな幼い少女の洗脳だけでは飽き足らず、なんという蛮行を! この外道という言葉すら生ぬるい、悪鬼羅刹あっきらせつめ! 必ず成敗してやるぞ!」


 なんて、俺の祈りはむなしく、恐ろしいほどの正論で、マーブルファイアはこちらのことを斬りつけながら、正義の味方らしく、怒りもあらわに武器を構える。


 いかん、反論ができない!


「むーっ! だれが幼い少女よ! もうすっかり大人に……」

「いやもう、お前は黙ってろ! 話がこじれる!」


 そして、空気を読まないエビルイエローが、また不満そうに、なにやら物騒なことを言い出しそうだったので、俺は慌てて制止する。


 このままでは、せっかく頑張ってきずいていた、俺の悪の総統としてのイメージが!


「さあ、地獄に送り返してやろう! くらえ! これが正義の鉄槌てっついだ!」

「だあー! なんでこうなる!」


 しかも、この残念で、あからさますぎる隙をつかれて、マーブルファイアの号令によって、正義の味方は彼を中心に、集結してしまっている。


 どうやら、強烈な一発を、狙っているようだ


「くそっ、こうなったら……!」


 もう、やるしかない!


「――概念がいねん掌握しょうあく!」


 俺は自分という存在の内にひそむ、天叢雲剣あまのむらくものつるぎの力に手を伸ばし、つかる。


神器じんき創造そうぞう!」


 そして、その破壊の力を操るための器として相応しい形に、このカイザースーツに大量の命気プラーナ魔素エーテルそそみ、つくりかえてしまう。


「シュバルカイザー・スサノオ!」


 装甲を限界までとし、大嵐が荒れ狂う草原のようなローブを身にまとい、ただ破壊だけを考えたかのような、巨大な大剣を大上段に構える。


 勝負はまさに、一瞬だ。


「受けてみろ! マーブルパターン! マキシマム・ビッグ・バン!」

「――ふっ!」


 正義の味方が全員そろって、その右手に輝く鉱石を重ね合わせて放たれた、目もくらむほど膨大な光のエネルギーを、俺は一刀いっとうのもとにせる。


 その刹那せつな、極限までまされた破壊の概念が膨張し、マーブルファイブが繰り出した、彼らの必殺であろう一撃を、見るも無残むざん霧散むさんさせた。


「なにっ!」


 驚愕するマーブルファイアの声を聞きながら、この結果に、俺は満足する。


 よしよし、上手くいった。ちゃんと制御できてるし、細かい調整も可能だ。周囲に無駄な被害を出すことなく、目標だけ破壊できたのは、自信にもなる。


 それでは、自分の調子も確認もできたことだし、もう十分か。


「終幕だ」

「マジカル! ダークネス・バズーカ!」


 俺の命令を受けたエビルセイヴァーが、瞬時に集い、その力をたばね、いまだ呆然ぼうぜんとしているマーブルファイブへと、解き放つ。


「うわああああ!」


 最大の一撃を放った反動か、まったく動けなかったマーブルファイブが、まともにその直撃を喰らい、大きな悲鳴と共に、はる彼方かなたの空の向こうへと吹き飛んでいく。


 よしっ! とりあえず、正義の味方の方は、うやむやの内に、解決してみせたぞ!


「ふっ、俺たちの勝利だ! やったな、みんな! それじゃあ、帰って美味しいものでも食べに行こ……」


 それでは、この調子で、なんとかこの不穏ふおんな空気を、さっさと払拭ふっしょくして、無事に帰還を果たそうと……。


「ねえ、統斗君? 昨日の夜、なにがあったのか、ちょっと、詳しい話を聞きたいんだけど? いいわよね? ねえ?」


 というのは、どうやら、やっぱり、虫のよすぎる話だったようで、その仮面の下で満面の、そして恐ろしい笑顔を浮かべていることが即座に分かるエビルグリーンに、そっと肩をつかまれてしまう。


 なるほど、ここが地獄か。


「……はい、もちろんでございます」


 しかし、俺の戦いは、まだまだ始まったばかりだ!


 というわけで、あまりにも不測の事態によって、俺たちが、仲良く街に帰るまで、もう少しだけ、時間がかかることになってしまったのだった……。


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