9-6
そして、マーブルファイブによる二度目の襲撃から、数日が経過した。
「うふふ、はい、
「ありがとうございます、先輩」
もはや
「はあ、あったかい……」
そして、のんびりとそのお茶をすすれば、すでに暖房が十分に効いている部屋ではあるけれど、それとはまた別のぬくもりを感じて、心がほっこりしてしまう。
「それから、みかんも持ってきたのよ。よかったら、みんなで食べましょう?」
「おおっ! さすが先輩! いただきまーす!」
すぐ隣に座ってくれた樹里先輩が、
うーん、
なんて、悪の総統である俺が、こんな素晴らしい日常を
いや、まあ単純に言ってしまえば、それなりに
もちろん、まだなにが終わっというわけではなく、正義の味方との戦いは、継続中なのだけど、前回の攻撃から今まで、
というわけで、これ幸いにと、俺たちヴァイスインペリアルは、同盟を組んでいる他の悪の組織との連携を
なので、
しかし、総統である俺は、意外とやることがないのだった。
もちろん、簡単な机仕事くらいはあるけれど、基本的には、優秀すぎる仲間たちが考えてくれた、文句のつけようのない計画書に目を通し、判を押すだけでいいので、ある程度、多くのプロジェクトが同時に動き出すと、人手の問題もあって、それらが
もちろん、他の人の仕事を手伝おうとはしたのだけれど、自身の未熟さのせいで
あんまり難しいことは、まだ役に立てないので邪魔になるだけな上に、祖父ロボの
そして、総統の俺が暇になってしまうと、必然的に、総統の親衛隊をしてもらっているエビルセイヴァーのみんなも、当然暇になるわけで……。
「うーん、甘くて美味しいー! ほら、
「サンキュー、
「ありがとうございます。あっ、おせんべいもありますから、どうぞ」
台所の方から、色々と持ってきてくれた三人が、樹里先輩に続いて、だらけている俺のことを囲むようにして、この円形の
「…………」
そして、実はとっくの前から、もうすでに、俺の横で不機嫌そうに
こうして、全員揃った俺たちは、三時のティータイムを、優雅に楽しむのだった。
「それにしても、ここまできたら、こたつも欲しいところですね」
「わっ、葵ちゃん、ナイスアイデア! いいよね~、暖かいおこた~」
皮を剥いたみかんの
いや確かに、その気持ちは分かるけども。
「いいじゃん、それ! ほら統斗ー、今度からここに、こたつ用意してよー! ねえねえ、こたつ、こたつー! こたつを
「いや、うるさいよ。そんなわがままばっかり、言うんじゃありません」
ああほら、ニヤリと笑った火凜の奴が 悪ノリを始めてしまった。
「というか、お前はもう少し、私物を持ち込むのを、自重しろ。こたつを購入したとしても、置くスペースがなくなるだろうが」
「えー、いいじゃん別に! ここにあると、楽なんだし」
楽なんだし、じゃねえよ。お前の持ち込んだゲームとか漫画とか、ドライヤーとか歯ブラシとかで、すっかり生活感出てきたよ。
とはハッキリ言えない、チキンな俺なのであった。
「そうですよ、火凜。私なんて、必要な分の下着しか置いてません」
「うーん、お洋服とパジャマくらいは、用意した方がいいと思うよ、葵ちゃん……」
そして、真顔すぎる葵さんの爆弾発言には、あえて反応しないことにする。そっちは任せたぞ、桃花……! なんかアドバイスが、ズレてるけど!
「でも、こたつは私も、興味あるかな。うちには置いてないし」
「もう、先輩まで……」
確かに、樹里先輩の豪邸は、堂々たる洋館なので、こたつのような和風かつ、庶民的なものは、置いていないだろうし、触れる機会もなかったのだろう。
だったら、そんな先輩のために、こたつを置くのも悪い選択じゃないのかも……、とは思うんだけど。
「大丈夫よ、いざとなったら、購入は私がしておくわ」
「いえ、それは悪いので、大丈夫です。必要なら、俺が買いますから……」
とりあえず、樹里先輩からのありがたい申し出は、
さすがに、そう簡単に家具を購入するのは、色々と抵抗があるというか、ちゃんと自分の
というわけで……。
「な、なあ、ひかりはどう思う? この家に、こたつって、いるかな?」
「…………」
さっきから、黙りこくっているひかりに、無理矢理話を振ってみたけれど、じろりと
うーん、どうしよう……。
ご
いや、単純に言ってしまえば、それなりに使いやすいからってだけなんだけど。
全体的に造りが大きいから、大人数で集まっても余裕があるし、立地的にも、中央本部ビルの最上階なので、突然の事態にも、素早く対応できるという安心感がある。まあ、ワープがあるから、あくまでも気分の問題なんだけど。
もちろん、このビルの他の階には、エビルセイヴァーのための住宅も、一応は用意されているけれど、別にそれを休むために使うだけなら、実家でいいというわけで、結局のところ、まともに使っているのは、ここだけになっている。
そうして、俺たちは時間を見つけては、ここに集まって、わいわいと大騒ぎをするようになった……、わけだけれども。
「…………」
これまでなら、俺たちが集まれば、もっとも
うう、どうやって、話を切り出そうか……。
「……あっ、統斗くん! お口の
「あ、うん、ありがとう、桃花」
なんて、俺が色々と考えて、モジモジしているうちに、なにかを思い付いたらしい桃花が、少し離れた位置のこっちに向けて、手を伸ばす。
「えへへっ。あむっ」
そして、その細い指で、さっと俺の唇をなぞると、それをそのまま、自らの口に、
「……っ!」
その様子を、目を見開いて確認したひかりから、恐ろしい
「おやおや~? 統斗ったら、ずいぶん甘えん坊だなぁ~。それじゃ、あ~ん」
「あ~ん。ん、んむっ?」
なにを考えているのか、今度は火凜が、自分のみかんを
「やんっ、統斗のすけべ~」
まさか噛むわけにもいかず、結果的に舐める結果になってしまっただけなのだが、なんだか嬉しそうな火凜が、わざとらしい悲鳴を上げる。
「……う~!」
その瞬間、俺の隣にいるひかりから、ついに
「これは、負けてはいられません。さあ、統斗さん、お手を
「う、ひゃっ! な、なにするんですか、葵さん!」
なんて、息をつく暇もない、気が付いた時には、俺の手を取った葵さんが、見事なまでの早業というべきか、あっというまに、この指に口付けしている。
「いえ、なんだか対抗心が燃えてしまいまして」
そのリアルな感触に、思わず悲鳴を上げながら、手を引いてしまった俺に向けて、まったく冷静な葵さんは、照れることなく真顔のままだ。
「……むう~っ!」
そして、ひかりの方から
「あら、みんなズルイわ。それじゃ、私も……、ふ~っ」
「お、おうふっ! じゅ、樹里先輩! いきなり耳は、あっ!」
ついには、ひかりとは反対側にいた先輩まで、いきなり俺にしなだれかかってきたかと思えば、そのまま密着してくると同時に、こちらの耳元に、優しく息を……。
いや、それどころか彼女は、その舌を伸ばして……!
「うふふ、気持ちいい? だったらもっと……」
くうっ! 情けないけど、至近距離で鼓膜を揺らす先輩の
「ううううう~っ!」
そんな、
あっ、これは、まずい……!
「あああああっ! なんなのよ!」
そして、思った通り、次の瞬間、ひかりは大声を上げながら、思い切り食卓を叩きながら、勢いよく立ち上がってしまう。
その迫力に、思わず震えあがってしまったのは、内緒にしておきたい。
「お、おい、ひかり……!」
「うるさい! この変態! スケコマシ! 最低男! バカ、アホ、マヌケ!」
なんとか話をしようと、声をかけた俺に向けて、ありったけの
「もう、知らない!」
そして、それだけ吐き捨てると、ひかりは怒りもあらわに、そのまま駆け出して、この家から飛び出して行ってしまったのを、俺は扉がけたたましく閉まる音で知る。
あまりに激しい展開に、俺の身体は動くこともできず、その場で固まったままだ。
「わあ、ひかり、すごく怒ってたね。大丈夫かな?」
「あーらら、こいつは大変だぞ~」
「そうですね、
そして、桃花も、火凜も、葵さんも、出ていったひかりを追うようなことはせず、どこか
「うふふ、これから頑張ってね、統斗君?」
まだ俺に抱きついたままの樹里先輩からは、激励の言葉までもらってしまった。
つまるところ、全ての原因は、俺にある……、というわけだ。
「はあ、どうしよう……」
なんて、悩んだフリをしてみても、俺がどうすればいいのかなんて、俺自身が一番よく分かってる。自覚している。覚悟している。
でも、だけど、しかし、だけれども……。
「ふう……」
これは本当に、頭が痛い問題だ。
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