8-3
「じゃじゃーん! へへっ、到着だぜー!」
「お、おおっ! ここは!」
嬉しそうに笑っている
まあ、状況が状況なのだけど、ヴァイスインペリアルの総統としては、この様子を見てしまうと、
自らの無責任な行動によって、エビルセイヴァーのみんなに囲まれ、
そして気が付けば、勝手知ったる地下本部を駆け抜けて、俺にとっては、懐かしさすら感じる空間へと、こうして足を踏み入れた……、というわけである。
「
「だろだろ? 綺麗になっただろ?」
ここは地面の下だというのに、一般的なスポーツ競技場より、かなり大きな余裕を持って整備されたドーム状の空間は、圧迫感も、息苦しさも、まったく感じない。
模擬戦闘場という名前の通り、悪の組織の人間が、激しい戦闘訓練を日常的に行うために用意されたスペースは、俺にとっても、思い出深い場所の一つだ。
右も左もわからない、新米悪の総統だった頃には、ここで千尋さんに、よく
そして、なまじ巨大な空間だったばっかりに、悪魔マモンが暴れた結果、気が遠くなるほどの
そんな思い出の場所が、こうして
うんうん、よかった、よかった……。
「とはいえ、まだまだ修理完了ってわけじゃないんだよなー!
なんて、俺は見た目の印象だけで、お気楽に考えてしまったけれど、どうもまだ、完全に元通りというわけではないようだ。
疑次元スペースというのは、我らがヴァイスインペリアルが誇る天才博士、マリーさんが開発した超技術であり、一定の範囲に疑似的な空間を上塗りし、その範囲内がどれだけ破壊されたとしても、その疑似空間を
元々は、俺たちヴァイスインペリアルのお家芸みたいな技術だったのだけれども、これまた悪魔マモンに地下本部を破壊された影響として、現在のところは、実質的に使用不可能な状態が続いているのだ。
しかし、今はもう色んな意味で、
あの人なら遠からず、むしろ以前よりもパワーアップさせるくらいの勢いで、破壊された技術の数々を、取り戻してくれることだろう。
「だけどさ、ここまで綺麗に直ったら、なんだか嬉しくなっちゃってさ! 思わず、
そして、
だったんだけど。
「にししっ! そしたら、なんだか面白そうなことになってるじゃんか!」
「ぐはっ!」
タイミングが、良かったのか悪かったのか、あまりといえばあまりの現場を見られてしまったことを思い出し、俺は思わず、
いかん、いまさらながら、恥ずかしくなってきた。
「いやー、お邪魔しちゃ悪いかなとは思ったんだけどさー! なんだか統斗が困ってるっぽかったし、とりあえず
「いや、そんなことはないです……」
正直な話、かなりの
誰が悪いかと聞かれたら、それは間違いなく、俺自身なのだから。
「ならよかったよ! それにしても、統斗も
「むぐっ、いや、そんなこと、ないですよ……」
なんだか暗い気分になってしまい、手足の拘束を外して、ようやっと地面に降りた俺のことを、そのまま千尋さんが抱き締めて、からかうようにほっぺたを
でも、このまま落ち込んでばかりもいられない。
俺はもう、覚悟を決めたのだから……!
「それで~、あの五人とは、どこまでシちゃったのかな~? えいっ!」
「ちょ、ちょっと、どこをまさぐってるんですか!」
なんて、多少シリアスになりそうだったのに、俺のことをぎゅっと抱きしめている千尋さんは、その魅力的な
いやいや、それはまずいって!
「ま、まだ全然、そんなんじゃ……!」
「ウソつくなって! そんなんじゃないのに、あんなことになるかって!」
うん、反射的に否定してしまったけれど、千尋さんのいうことが、正論である。
正論ではあるのだが、だがしかし、こんな過激な密着している上に、
とはいえ、嘘をついて隠しても、仕方ないというか、意味はない、か……。
「そ、その、
「おっ、そうかそうか! へへっ、そいつはめでたいな!」
いやしかし、要するに、俺が自分以外の女性と関係を持ったという話を聞かされているというのに、本当に嬉しそうな千尋さんというのも、不思議な女性である。
まあ、その
「うんうん、
「……そういうもんですか?」
なんというか、それはライオンとか、トドとかセイウチとか、そういう獣の
悪の総統である俺が、体面を気にするなんて、おかしな話である。
「そういうもんだって! だから……」
まるで励ますように、太陽みたいな笑顔を見せてくれた千尋さんが、最後に優しく抱きしめてくれると、俺から離れ、力強く、背中を叩いてくれた。
さあ、気合を入れよう。
「群れを
「……はい!」
どうやら、俺が向き合うべき人が、来たようだ。
「――見つけた! こんなところにいたのね、統斗! 今度は逃がさないわよ!」
この模擬戦闘場に飛び込んできたのは、
俺のことを、走り回って、探してくれたのだろう、少し肩で息をしているけれど、その目にしっかりと、炎のような意思を宿した彼女が、そこにいた。
ちなみに、ちゃんと服は着てくれているので、一安心である。
「……分かってる。もう逃げないよ」
「う、うん、なかなか、いい心がけじゃない! そ、それじゃあ一緒に……」
もしかしたら、抵抗されると思ったのか、
いやむしろ、ここからが本番だ。
「だから、教えてくれ」
「……えっ?」
こちらにやってくる火凜の目を見ながら、俺は切り出す。
疑問の声を上げた彼女に向けて、真っ直ぐに。
「火凜は俺に、なにをして欲しい?」
「な、なによ、いきなり……」
あまりに
でも、これこそが、俺が知りたいことなんだ。
「俺は、火凜の望むことだったら、なんでもしてあげたいと思ってる。けど、それは火凜が、本当にして欲しいことを、してあげたいんだよ」
これが、俺の本心だ。
俺は火凜の……、そして、みんなの望むことならば、なんだって叶えてあげたい。そのためだったら、どんな努力だってするつもりだし、苦労だっていたわない。
でも、さっきのアレは、あきらかに望んであんなことをしたというよりは、ただの暴走というか、暴発みたいなものだ。
それじゃあ、やっぱり意味はない。
「だから、ちゃんと言葉にして、教えてくれ。お前の望みを、希望を、願いを」
本当にやりたいことを、やりたいようにやらないと、意味なんて、ないのだから。
「火凜は、俺に、なにをして欲しい?」
「す、統斗に、し、して、して欲しいことって……!」
というわけで、まずはハッキリと、相手の意思を確認したいわけだけど、なんだか火凜は顔を赤くして、口ごもってしまった。
「そ、そそそそ、そんなこと、言えるわけないでしょ! ……バカ」
いや、俺としては、もうちょっと広い意味というか、
うーん、そんな火凜も、可愛いな……、なんて言ってる場合ではない。
もしかして、友情に厚い火凜のことだから、他のみんなに遠慮して、自分の本心を言えないのかもしれないし、それはそれで、俺としては困ってしまうわけで……。
「うんうん、いきなりそんなこと言われても、恥ずかしくって、自分の本心なんて、なかなか見せられないよな! まったく、
そんな、なぜか
彼女はまるで、名案を思い付いた子供のように、嬉しそうに飛び跳ねている。
「だったら、こういう時は……」
そして、本当に楽しそうに、なぜか格好良いポーズなんて決めながら、ウキウキとした様子で、千尋さんは続ける。
「勝負で白黒つけるんだ!」
「……はい?」
そんな、まさしく突拍子のない千尋さんからの提案に、俺と火凜は、二人揃って、呆気にとられたような、マヌケな返事しかできないのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます