7-5


「あっ、竜姫たつきちゃん! えへへっ、ようこそ、いらっしゃいました!」

「わあ、桃花ももかさん! 本日は、よろしくお願い致します!」


 再びワープ装置を使って、ヴァイスインペリアル地下本部へ帰ってきた俺たちを、笑顔で出迎えてくれた桃花と、向こうから俺が連れてきた竜姫さんが、嬉しそうに、楽しそうに、互いの手を合わせて、喜んでいる。


 ああ、仲良きことは、美しきかな……。




 八咫竜やたりゅうの本部である龍剣山りゅうけんざんにて、やるべきことを終えた俺は、この後は、時間が空いているという竜姫さんを誘って、俺たちの基地へと戻ることにした。


 とはいえ、それには別に、深い理由や、切迫した事情なんかがあるわけでもなく、ただ単に、少し時間ができたので、なんとなく思い付いただけだったりする。


 要するに、色々と忙しい中で、ちょっぴり暇な時間ができたので、このチャンスを逃さずに、気心の知れたみんなと、楽しい時間を過ごして、気持ちのリフレッシュをしたいという、俺の我儘わがままなわけだ。


 悪の総統は、思いついたことを実行するのに、躊躇ちゅうちょしたりはしないのである。

 ふっふっふっ……。


 それにしても幸いだったのは、携帯で連絡を取ってみた結果、みんなの方も意外と乗り気で、この後の集合を快諾かいだくしてくれたことだろう。


 やっぱり、強引に呼び出したりするのは、なんだか悪いしね。



「この前、桃花さんから教えて頂いたお店のケーキ、とっても美味しかったです!」

「えへへっ、喜んでもらえたなら、よかったよー」


 というわけで、俺たちは軽い雑談を交わしながら、目的の場所へと向かう。


 流石に急な話だったし、いきなり全員集合というわけにはいかなかったので、他のみんなとは別の場所で待ち合わせしていた。それにそもそも、残念なことに、ここに来られない人もいる。


 例えば、今ここで一緒に歩いているのが、俺と桃花と、竜姫さんだけなことからも分かるように、朱天しゅてんさんは不参加だ。なんでも、外せない仕事があるらしい。


 しかし、あの竜姫さんを守ることだけを考えてるような朱天さんが、自らの主君しゅくんを俺なんかにたくして、特に文句も言わず送り出したのだと考えると、少しは信用されているような気がして、なんだか光栄で、嬉しくなってしまう。


 うん、この信頼を裏切らないように、頑張りたいものである。


「そうだ! 今度、竜姫ちゃんも一緒に、みんなでそのケーキ屋さんに行こうよ! ねっ、統斗くん!」

「おおっ、それは確かに、楽しそうだ」

「うふふっ、とっても嬉しいです!」


 俺たちは、改修がかなり進んでいる地下本部を進みながら、とりあえず、最寄りのエレベーターを目指す。


 我らがヴァイスインペリアルの仲間たちが、総力を挙げて頑張った結果、地上部分だけでなく、もちろん地下の方も、かつての隆盛りゅうせいを、順調に取り戻し始めていた。


 悪の組織として必要な施設が、次々に完成しているし、瓦礫を取り除き、再び張り巡らされた通路は、むしろこれまでよりも、確実に範囲を広げている。


 とはいえ、これほどまでの成果を得ても、この復旧作業の責任者にして、功労者であるマリーさんは、まったく満足していないらしく、今もこの広大に広がった地下のどこかで、新たな開発にいそしんでいるのだった。


 というわけで、今回は彼女も不参加だ。残念だけど、仕事の邪魔をするのは悪いというか、気が引けてしまうし……。


「うわぁ、この四角い箱は、何回乗っても静かすぎて、本当に不思議です……」

「はっはっはっ、ちゃんと高速で動いでますから、大丈夫ですよ」


 驚きで目を丸くしている竜姫さんと、ニコニコ笑顔な桃花と共に、エレベーターに乗り込んだ俺は、壁に設置されたパネルを操作して、すでに行き先を入力している。


 これだって、一見すると普通のエレベーターに見えるが、ヴァイスインペリアルの技術がたっぷりと使用されていて、縦だけでなく横にも……、というか、縦横無尽に移動することができるので、行こうと思えば、ここから元・正義の味方の秘密基地へ直接向かうことも可能だが、今回の目的は、そちらではない。


 ようやく開通した、地上へのルートである。


「わわわっ、すごい立派なエントランス……」

「はっはっはっ……、いや、ここは俺も初めて見たから、驚いたな……」


 あっという間に、音もなく到着したエレベーターの扉が開いた瞬間、物珍しそうに辺りを見渡しながら外に出た桃花と並んで、俺もその光景に、圧倒されてしまう。


 完璧に計算された、美しくも使いやすいデザインの設計に、高級だということは、誰が見ても一目で分かるけど、決して派手すぎず、落ち着いた雰囲気の内装が、上品な空間を演出をしている上に、どこからか、心を静める良い香りが漂っている。


 余裕を持った、かなり広い造りということもあって、圧迫感はまったくないというのに、少し委縮してしまうのは、やっぱり俺が、小市民だからだろうか……。


「あの、とりあえず外に出て、皆さまを待ちますか?」

「あっ、う、うん、そうですね、竜姫さん……」


 こういう雰囲気には慣れているのか、まったく物怖ものおじしていない八咫竜の姫君に、なんとか格好つけて返事しながら、俺は二人を先導して、出入り口へと向かう。


 いやはら、さっきは外から見ただけでも驚いたけど、中はもっと凄いなぁ……。


 そう、今回の目的は、せっかく新しく完成した俺の部屋……、いや部屋と呼ぶには大きすぎるか。……俺の家? いやでも両親がいる自宅はあるし。そうなると……、俺の別荘? 別宅? そう言っちゃうと、なんだか感じ悪いなぁ……。 


 まあ、なんでもいいか。とりあえず、俺のために、悪の総統のために、用意された施設を、一人で見るのも寂しいので、みんなと一緒に確認しようという趣向である。


 先ほど説明を受けた時に、けいさんから鍵は受け取っていたので、とりあえず最上階にあるという俺専用のフロアには、自由に入ることが可能だ。しかし本当に、大勢で行こうと思い付いてよかったと、心の底から、そう思う。いや、まじで……。


 ちなみに、本当だったら、その辺りも契さんに案内してもらうはずだったのだが、残念なことに、今の彼女は仕事の最中で、ここには来られない。


 それは、別れ際に俺が頼んだだけに、なんだか申し訳ない気持ちで一杯だ……。


「わあ、とってもきれいな街並みですね! 統斗すみとさま! 桃花さん!」

「うん、竜姫ちゃん……。えへへっ、なんだか、感動しちゃうね、統斗くん!」

「ああ、そうだな、俺も本当に、そう思うよ……」


 無邪気な竜姫さんの素直な言葉に、この見事に整備された光景になる前の、廃墟としか言いようのない悲惨な状況が、まだ目に焼き付いている桃花と俺は、思わず顔を見合わせながら、こぼれる笑みを抑えることができない。


 なんというか、本当に、感無量かんむりょうである。


 ようやく立ち直り始めたこの街を、俺たちはこれからも、守り続けていきたいと、強く強く、そう思うのだった……。


 というわけで、この街を支配しているヴァイスインペリアルの整備全般を担当している千尋ちひろさんには、今も頑張ってもらっている。もちろん不眠不休でというわけではないので、適度に休みはあるのだけれど、今は丁度、見回りの時間のはずだ。


 なので彼女も、今回は参加できないわけだけど、だからといって、なげいてばかりもいられない。というか、来られない人のことばかり考えているのは、ここに集まってくれる者たちに対して、失礼というものだろう。


「おっ、来た来た! おーい、こっちだぞー!」


 こうして、みんな時間を作って、俺のために、やって来てくれたのだから。


「お待たせ! いやー、あおいの準備が遅くてさ、待たせちゃって、ごめんねー」

「それは火凜かりんも一緒でしょう。ランニングしてたからって、シャワーまで浴びて」

「うふふっ、お菓子を持ってきたから、みんなで食べましょう?」

「もう、樹里じゅり先輩ったら、気を使いすぎです! ほら、ひかりちゃんが来たわよ!」


 さあ、これで、俺こと悪の総統シュバルカイザーの親衛隊、エビルセイヴァーも揃ったことだし、このもよおしの参加者は、全員集合というわけだ。



 それでは、楽しいことを始めよう!


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