6-10


 決戦のまくり、新たな一日が始まる。



「ふわ~あっ……、もう朝か……」


 窓から差し込む、さわやかな光を受けて、俺は自然と、目を覚ます。


 ここは、今まで隠れ家として使っていたラブホテル……、ではなく、俺たちの街にある、ヴァイスインペリアルの基地として使っている市庁舎の、仮眠室である。


 そう、龍剣山りゅうけんざんの決戦から、もうすでに、数日が経過していた。


 八咫竜やたりゅうで起きた反乱の首謀者である黒縄こくじょうを打ち倒し、総本部の龍剣山も、無事に取り戻したということで、俺たちは後のことを張本人である竜姫たつきさんたちに任せて、自分たちの街に……、ヴァイスインペリアルの街に、戻って来ている。


 つまり、俺たちと竜姫さんは、もうすでに、それぞれの地元にいるということで、常に一緒にいるわけではない。


 きっと今も、遠く離れた空の下で、彼女たちも頑張っていることだろう……。


 ああ、なんだか少し、センチメンタルな気分に……。


統斗すみとさまっ! おはようございます!」

「あれ、竜姫さん? はい、おはようございます」


 なんて、俺が寝起き特有の、ぼんやりとした頭で、益体やくたいもないことを考えながら、お気に入りのせんべい布団を片付けているうちに、この宿直室の扉を、勢いよく開け放って入室してきたのは、くだんの少女だった。


 そう、八咫竜のおさである、龍蔵院りゅうぞういん竜姫さん、その人である。


「うわっと……、どうしたんですか? まだ時間まで、ちょっとありますけど……」

「えへへっ、統斗さまとお会いしたくて、ちょっと早く来ちゃいました!」


 こちらの胸に飛び込んで来た竜姫さんを受け止めると、彼女は恥じらうように頬を染めながら、花のような笑顔を見せてくれる。うん、朝から得した気分だ。


 そう、なんだか無駄に勿体もったいつけてしまったが、もうすでに、俺たちにとって虎の子であるワープ装置は、再び稼働しているのだ。もはや、時間も距離も関係ない。


 会いたいと思えば、このように、いつでも会えるのである。


「ひ、姫様、お一人で、先に行かれないでください! ああっ、また朝からそんな、はしたない! 貴様も、デレデレするな!」


 ほら、どうやら彼女もあるじを追って、こっちにやって来たようだ。


「ああ、朱天しゅてんさんも、おはようございます」

「あ、ああ、おはよう……、って、そうじゃない! 姫様から、離れろ!」


 とりあえず、竜姫さんにとって、一番の忠臣である女傑じょけつと朝の挨拶をわしつつ、俺は気持ちを入れ直す。


 うむ、そろそろ、ちゃんと起きた方がいいだろう。


「それじゃあ、ちょどいいですし、みんなで、朝ご飯でも食べましょうか」

「はい! うふふっ、朝から統斗さまと、ご一緒できるなんて、嬉しいです!」

「やれやれ……、姫様、もう少し落ち着いてですね……」


 さあ、本日は、これまで頑張ってきた作戦の、総決算だ。




 市庁舎の食堂にて、仲良く三人で朝食を楽しんだ後、俺たちは連れ立って、地下にある作戦会議室に向かっていた。


「あっ! 大黒だいこくさん! 摩妃まきさんも! お久しぶりです!」

「がははっ! ようっ、元気しとったか! 色々と、噂は聞いとるで! なんでも、ごっつい活躍しとったらしいやないか!」

「うふふっ、この人ったら、もういっつも、あなたの話ばっかりなのよ?」


 その途中、丁度エレベーターに乗ろうとしたところで、仲睦なかむつまじい天芝あましば夫妻の姿を見つけた俺は、なんだか嬉しくなってしまって、思わず駆け寄る。


 まるで熊のように大柄な大黒さんと、細身の美人である摩妃さんの二人が揃うと、まさに美女と野獣という印象だった。


「しっかし、あれやな、あのワープ装置いうんわ、えらい発明やな! さっきまで、向こうにいたのに、もうこっちとか、信じられんわ!」

「そうねえ、あれがあれば、色んなことが、便利になりそうね」

「いえ実は、あれでも本調子じゃないですし、色々と制約も多いんですけね」


 どうやら、大黒さんも摩妃さんも、初めてのワープを楽しんでくれたようなので、そのことについて色々と話しながら、俺たちは揃ってエレベーターに乗り込み、秘密のポタンを押して、深い深い地下へと向かう。


 そう、確かに便利すぎるワープ装置だが、まだ復旧したばかりということもあり、まだまだ完璧とはがたい。


 とりあえず、まだ一度にあまり大量の物質は転送できないし、連続使用も難しい。それに加えて、ワープ装置の大元を本店、ワープ先の座標を特定する装置のアンカーを支店とするなら、支店と支店で直接移動はできず、必ず本店を経由してから、各所に向かうことになる……。


 なんて、雑談を交わしながら、俺たちは同じ目的地に向けて、並んで歩く。



「おうっ! 来たな、統斗! 待っておったぞ!」

「おうっ、来たぜ、じいちゃん! ……って、待たせちゃったかな?」


 そうして、会議室に到着した俺たちを出迎えてくれたのは、非常に上機嫌な様子の祖父ロボだった。


「いや、時間通りだ……」

「ふふっ、もうみんな、揃ってるけどね」


 隣には、相変わらず、仏頂面が板についている俺の親父と、相変わらず、のほほんとしている俺の母親……、つまりは俺の両親が、すでに着席して控えている。


 そして、母さんの言う通り、会議室に設置されたモニターに映る人影が、数人。


『遅ーい! 遅いぞ! この俺を呼び出しておいて、なにしてる!』

『に、兄さん……、声が大きいっ。バレちゃう、バレちゃううう……』


 いちいち態度が鼻につく男の方が、心尾こころを津凪つなぎ

 ボサボサ頭に眼鏡姿の、どことなく暗い雰囲気の女性が、心尾夜見子よみこ


 どこかの倉庫の片隅に隠れながら、こちらと映像通信している二人組は、マインドリーダーという名前で、正義の味方をしながらも、俺たちのために日々スパイ活動を行っている兄妹だ。


「ああ、そういえば、二人とも本部勤めに戻ったんでしたっけ」

『ふんっ! おかげさまでな!』


 おい、なんでお前が、偉そうにふんぞり返ってるんだよ、津凪。


 いやいや、左遷さかんされていたマインドリーダーが、また栄転できたのは、俺たちが、彼らに手柄を回してやったからなのだから、そんな態度を取られる筋合いは、少しもないわけなんだけど……。


 まあ、いいか。


 間者かんじゃとして働いてもらっている彼らが、より権力の中心に近づけたことは、こちらにとっても良いことなので、ここは素直に、喜んでおくことにしよう。


『よ~う、兄弟! 本日は、ご機嫌いかがかな?』

「ええ、もちろん最高ですよ。みんながいてくれますし」


 また別のモニターに映っているのは、トライコーンの海賊団という悪の組織を率いている船長……、渦村かむら雲雀ひばりだ。あいわらず、分かりやすいというか、そのまんまな海賊ルックを披露しながら、彼が持つ海賊船の甲板にいるのが見える。


 正義の味方として働いているマインドリーダーはともかく、渦村さんにはワープを使って、こちらに来ませんかと誘ったのだが、なんでも船を下りると、とんでもない陸酔いをするとかで、丁重に断られてしまった。難儀だなぁ……。



 まあ、とにもかくにも、これで全員集合したことになる。



「うぬ、それでは……、第一回ヴァイスインペリアル総会を、はじめるぞい!」


 俺たちが席に着いたことを確認した祖父ロボが、高らかに開会を宣言した。


 そう、本日こうして、みんなに集まってもらったのは、新しく加わってくれた仲間たちを交えて、状況の確認と、今後のための対策会議を開くためである。


 ついでに、人数も大分増えたし、顔合わせでもしておこう、というわけだ。


「それでは、まずは関西地方との連携についてから、始めるか……」


 ちなみに、こうして議事進行を務めるのは俺の親父で、祖父ロボは議長らしい。


 それを決めるために、なにやらまた、ひと悶着というか、残念な親子喧嘩が起きたらしいのだが、俺も詳しくは知らないし、知りたくもない。


 まあ、少し前に比べたら、そんな親父と祖父ロボのいざこざも、かなり穏便な感じにはなったのだけども。


「うむ、その件に関しては、順調の一言じゃな」

「いやー、ほんまに、助かっとリますわ!」


 というわけで、祖父ロボは上機嫌だし、関西地方を担当している大黒さんも、豪快に笑ってくれているので、まったく一安心である。


「商売はバッチリ! 儲けもがっぽり! 治安も安定しとるし、傘下さんかになっとる悪の組織も、精力的に頑張ってくれとる! ちょっとづつやけど、地力じりきはしっかり、ついてきとるし、これもみんな、ヴァイスインペリアルさんのおかげですわ!」


 まあ、そこまで褒めちぎられると、むしろ居心地が悪くなってしまうものだけど、嬉しそな大黒さんを見ていると、素直に良かったと思える。


「こちらとしても、経済を回す相手がいてくれて、大助かりじゃよ、ほっほっほっ」


 まるで好々爺こうこうやみたいに笑っている祖父ロボが言う通り、こちらとしても、大黒さんが率いるビッグブラッグを頂点とした、関西で頑張ってくれている悪の組織の皆さんには、色々とお世話になっているのだ。


 とりあえず、関西地方に関しては、これからも大黒さんたちに任せておけば、なんの問題もないだろう。


「そういえば、国家こっか守護庁しゅごちょうの方は、どうなってるんだ?」


 というわけで、当面とうめん懸念けねんは、俺たちと敵対している中でも、もっとも巨大な組織である正義の味方集団のことになるわけだ。


 俺はそのことについて、専門家というか、当事者たちに尋ねてみることにする。


『ああ、こちらはもう、この国の東側を、大方おおかた制覇したぞ! ははっ、凄かろう! まあ、まだ最後に、土地だけはデカいところが残ってるが、時間の問題だな!』


 ふむ……、実際に、正義の味方として、国家守護庁で働いている津凪の報告を聞く限りでは、どうやら向こうも、俺たちが別のところで戦っている間に、その勢力を、着実に伸ばしていたようだ。


『ただ、今のところ、そんなに急いで、御主人様たちを倒そうって考えは、どこにもないみたいです……。今は、戦力の再整備と、地域の健全化を優先するとかで……』


 しかし、無条件に相手の心が読めてしまうという、とんでもない超常能力を持った夜見子さんからの情報は、あのダメ兄貴のものよりも優先すべきだろう。どうやら、まだそれほど、切迫せっぱくした局面というわけでは、なさそうである。


 というか、それはいいんですけど、御主人様って呼ぶのは、勘弁してください。


『海の方でも、国家守護庁に、大きな動きは見られないぞ。静かなもんだ』


 俺たちヴァイスインペリアルとしては、貴重な海上戦力である渦村さんたち海賊団からの報告も、非常に貴重な情報である。


 つまり、若干じゃっかん猶予ゆうよはあるということか……。


 そうなると、当面の心配は……。


『ああ、それから、例の怪しい婆さんに、また会ったんだってな? 俺もあれから、色々と調べてはいるが、尻尾を掴むのは、なかなか大変そうだ』

「そうですか……、了解です」


 その当面の心配事……、八百比丘尼やおびくにと名乗る老婆について、俺たちよりも、かなり前に出会ったことがあるという渦村さんならば、なにか情報を得られるかと思ったのだけれども、どうやらそれも、難しそうだ。


 あの老婆のことは、龍剣山で遭遇してから、俺たちも総力を挙げて、探してはいるのだけれども、まだ影も形も見当たらないというのが、現状だったりする。


 とはいえ、それにばかり気を取られ、足踏みしてるわけにはいかない。


「八咫竜の方は、どうですか?」


 俺は気持ちを切り替えて、新たな議題に取り掛かる。


「はい、統斗さまたちに、お尽力いただきましたおかげで、組織としてのダメージも最小限で済みましたし、皆ももう、通常通りの任務に戻っています」


 竜姫さんの報告に、俺は胸を撫で下ろす。八咫竜に関しては、最後がゴタゴタしてしまったので、少し心配だったのだけれども、どうやら順調のようだ。


 俺たちも、今回の作戦においては、そこを目標に策を講じていたので、色々な意味で上手くいって、一安心というやつである。


「……裏切った八岐衆やまたしゅうたちに対する処分は、まだ保留中だ。そのまま復帰というわけにはいかないが、姫様の御意向で、今後も八咫竜として働かせることになるだろう」


 裏切られた相手とはいえ、かつての同僚にかかわることなので、朱天さんも、なんとなく話しづらそうだったが、俺としては、竜姫さんの考えに賛成だ。


 巨大組織である八咫竜の中でも、手練てだれが集められた八岐衆は、貴重な戦力なのだから、これからも活躍してくれるに、したことはない。


 というか、そのために、俺たちも色々と頑張ってきたわけだし。


「だがやはり、反乱の首魁しゅかいである黒縄と、皆を洗脳していた阿香あか華吽かうんについては、組織に戻すのを反対する声も大きい。いやむしろ、強い処分を望む者もいる」


 とはいえ、だからといって、そうそう全てが、思い通りになるわけでもない。朱天さんの言っていることは、もっともというか、ある意味では当然の話だ。


 八岐衆による今回の裏切り行為によって、八咫竜の構成員たちが、実際に、多大な迷惑をかけられたという事実がある以上、いきなり水に流して、もう許してやれと、上から言われても、そう簡単に納得なんて、できるはずがない。


 しかし、だからこそ、そこはやはり、俺たちみたいな外部の人間が、無責任に口を出すよりは、八咫竜の中で、解決してもらった方が良いだろう。


 俺が求めるのは、強制的な服従ではなく、納得した上での信頼だ。


「まあ、そもそも黒縄は、あれからずっと、昏睡状態が続いているから、まだ処分を決められるような段階ではないがな。あれでは、話を聞くこともできん」


 とはいえ、朱天さんの言う通り、まずはあの、今回の騒動の中心人物に、なんとか目を覚ましてもらわないと、話にならない。


 そう、あの決戦が終わってから、本日にいたるまで、俺たちに敗れ、倒れ伏した黒縄の奴は、起きる気配すらなく、眠り続けている。


 身体的な外傷は一切なかったし、念のためと、俺の命気プラーナを送り込んでみたりしたのだが、効果なし。おそらく、あの八百比丘尼が操っていた謎い力の影響だと思うのだけれど、あの力の正体が分からない以上、手のほどこしようがない。


 つまり、お手上げというわけである。


「だから、八百比丘尼に関する情報は、まだなにも引き出せていない状況だ」

「うーん……、了解です、朱天さん」


 しかし、そうなると、やはり問題になるのは、あの老婆の存在だ。


 やはり、黒縄から直接話が聞ければ、なにか分かったかもしれないけれど……。


「他の者たちからも、詳しく聞き取り調査をしてみたが、裏切った連中の中にさえ、あの老婆のことを知ってる者は、誰一人としていなかった。その存在すら、気付いていなかったようだ」


 つとめて冷静な報告を心がけているようだけど、朱天さんのポーカーフェイスから、くやしさがにじているのが分かる。


 あの怪しい老婆が、今回八咫竜に起きた騒動の裏で、糸を引いていたかもしれないのだから、その気持ちも、怒りも、焦りも、理解できるつもりだ。


 こうなると、物事を別の確度から考えた方が、いいのかもしれないな……。


「あの、妙な、黒い力については、どうですか? なんだか竜姫さんの使う龍脈と、似ていたような気がするんですけど」


 とはいえ、もう俺の知る中で、老婆の正体を知る手掛かりになりそうなのは、あの正体不明の力くらいしか、残されてないのだけれども。


「それが、私にもさっぱり……。もう、八咫竜の中では、龍脈を使える者は、私だけですし、それに、あのお婆さまにお会いしたのは、やっぱり、統斗さまたちとご一緒した、あの神社が初めてでしたし……」


 しかし、それだって結局は、薄い線でしかない。


「それに、あの力につきましては、私も龍脈に似ているとは思うのですが、同じものかどうかまでは、ちょっと……」


 竜姫さんに、そう言われてしまうと、確たる物証もない以上、あの老婆の黒い力については、なんとなくの印象でしか語れないので、結論なんて、出るはずもない。


 つまり、八方はっぽうふさがり、というわけである。


「そうですか……、それじゃあ、とりあえず、あの謎の老婆に関しては、これからも要警戒ってことで、気を付けましょう!」


 とはいえ、ここで気落ちしていても、仕方ない。俺はわざと楽観的に振る舞って、少し気持ちが落ち込んでいるらしい、八咫竜の二人をなぐさめる。


 そう、分からないなら、分からないなりに、覚悟を決めるしかない。


 八百比丘尼が、なにを考えているにせよ、奴の目的に、俺たちが含まれるのなら、遠からず決着をつける時は、来るはずだ。


 敵の正体を探るのは、相手が本格的に仕掛けてきてからでも、遅くはない。


 その辺りの対策も、ここからみんなで、話し合えばいいのだから。


「ふむ……、まあ、大まかな状況の確認は、こんなもんかの。細かい話は、これから詰めていくとして……、他になにか、議題があるものは、おるかな?」


 というわけで、互いの情報を出し合い、さらに本格的な議論に入る前に、祖父ロボが思ったよりも気軽な様子で、周りの者たちに尋ねる。


 どうやら本番に入る前の、小休止のつもりのようだ。


「あっ、はい!」

「うむ、なにかね、竜姫殿」


 そんな、祖父ロボからの提案に、背筋をピンと伸ばして、美しく手を挙げたのは、着物姿が美しい、一人の少女である。


「あの、私と統斗さまの祝言しゅうげんを挙げるのは、いつ頃にいたしましょうか?」

「ぶっ」


 それは、完全に不意打ちだった。


「あ、あの、竜姫さん……?」

「八咫竜の状況も、ある程度は落ち着きましたし、早く私が身を固めることで、皆を安心させてあげたいのですが……、ダメですか?」


 うぐ、反則的に可愛い。


「いや、あの……、もちろん、ダメじゃないですけど……」


 そ、そういえば、竜姫さんと俺は、一応、許嫁いいなづけという関係なのだから、そういう話が出ても、おかしくはないのかもしれない、けど、その、あの……。


 なんて、俺が錯乱さくらんしていた、その時だった。


「ちょっと待ったー!」


 ああ、それは一体、誰の叫び声だったのか……。


 いきなり、突然、あっという間に、この作戦会議の扉を、吹き飛ばすようにして、大勢の人影が、怒涛どとうのように流れ込んできた。


 ああ、なんだか既視感デジャブな光景……!


「ちょっと、竜姫ちゃん、だから抜け駆けはなしだって!」


 まずは、可愛らしく怒った感じの桃花ももかが、先陣を切っている。


「そうだ、そうだー! 桃花の言う通りだぞー!」

「まったくです、そういう大事なことは、事前に話し合うべきです」


 そこにさらに、火凜かりんあおいさんも続いた。


「うふふふふっ……、あんまり調子に乗ってると、大変なことになるわよ……?」

「か、考え直した方がいいわよ! こんな男の相手は、ひかりが引き受けるから!」


 ここまできたら、当然ながら、樹里じゅり先輩とひかりもいるに決まってる。


「まったく、少し目を離すと、すぐこれです……、やはり、あの小娘には、身の程というものを、たっぷりと教えてあげる必要がありそうですね……」

「よっしゃー! 祭りだ祭りだー! 喧嘩祭りだー! それじゃ勝った奴が、統斗とイチャイチャラブラブな! うおおー! やるぜー!」

「うふふ~、そういうことなら~、負けられないわね~。みんなまとめて~、アタシの実験台にしてあげちゃうから~、覚悟して~」


 もちろん、けいさんに千尋ちひろさん、マリーさんもやって来た。


 というか、色々物騒なことを言いながら、危険な空気をまき散らすのは、どうか、どうか、やめてください、三人とも!


「あらあら~、すっかり修羅場になっちゃったわねん」

「うおおー! 自分も総統とラブラブしたいっスー!」

「……ひひひっ、燃える、ね……!」


 ローズさんはいいけれど、サブさんとバディさんは、来ないでください!


「き、貴様ら! 姫様に手を出したら、許さんぞ!」

「まあ、うふふっ、どうしましょうか、統斗さま?」


 主を守ろうと、周囲を威嚇いかくする朱天さんにかばわれながら、竜姫さんは、楽しそうに笑ってる。もしかして、わざとですか?


「ガハハハッ! よしよし、ワシみたいに、最高の伴侶を見つけるんやで!」

「ふふふっ、もう、あなたったら……」


 大黒さんと摩妃さんに笑われてしまって、なんだか凄く恥ずかしい。


 というか、さらいとのろけないでください! 羨ましい!


『ご、御主人様の、お、奥さん……! うう、いいなあ……』

「いや、あんな男の、どこがいいんだ、妹よ……」


 なにやら興奮している夜見子さんを、兄としていさめているのだろうけど、お前に、そんなこと言われる筋合いはないぞ、津凪!


『ひゅー! モテるねー、色男ー! 俺もあやかりたいもんだぜ!』


 くそっ! 無責任な渦村さんが憎らしい! というか、あの様子だと、普通にそこそこモテてやがるな! あのカリブの海賊モドキ!

 

「我が息子ながら、もう少し、節度を持って生きて欲しい……」

「まあまあ、あなた。これも騒がしくて、楽しいじゃない?」


 ううっ……、父や母に、こういう姿を見られるというのは、顔から火が出るほどに恥ずかしい! というか、苦しい! 胸が苦しい!


「やれやれ、ほれ、統斗! お前の問題なんじゃから、お前がなんとかせい!」

「ああ、もう、分かってるよ!」


 あきれた様子で笑っている祖父ロボに、俺もまた、笑いながらこたえる。



 ただでさえ、騒がしい面子めんつが揃っていたのに、これだけの大所帯になってしまった俺たちは、もう、しっちゃかめっちゃか、大騒ぎである。


 だけど、これが、俺たちだ。

 これこそが、俺たちなんだ。


 そのことが、今の俺にとっては、なによりも嬉しかった。


 さあ、新しい仲間たちと……。


「こうなったら、全員まとめて、面倒見てやる!」


 新しい明日を、始めよう。


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