6-8
それはまさに、圧巻の光景だった。
これまでの、ゾンビのような不気味さとは違い、
「いやー、お見事でしたよ、
「そんな……、私はただ、自分の役目を果たしただけですから……、でも、
美しい隊列を組み、一糸乱れぬ行進を披露している八咫竜の皆さんの中心で、俺と竜姫さんは並んで歩きながら、健闘を
ここまできたら、あと一息だ。
それぞれの場所で、それぞれの役割を果たした俺たちは、事前の打ち合わせ通り、もっとも大人数がいることになる平原に集合し、お互いの無事と、久しぶりの再会を喜び合ったりしてから、正気を取り戻した八咫竜の構成員たちと共に、全ての決着を付けるために、動き出していた。
先ほど捕らえた
まあ、気絶していないのは白奉くらいで、その白奉も、もう無理に戦う必要がないのだから、そちらに関しては、大丈夫だと考えていいだろう。彼らへの
なぜならば、最後の裏切り者が、まだ残っているのだから。
目的地は、
その正門に、堂々と、真正面から、俺たちは向かう。
当然だ。
自分の家に帰るのに、裏口からコソコソ入る必要なんて、あるはずがない。
「ひ、姫様! よくぞご無事で……! 開門ー! 開門―!」
もうすでに、目に見える脅威は取り払った後なので、当然ながら、スムーズに到着した俺たちを確認したらしく、巨大な門の内側から、門番らしき人物の声が聞こえると共に、大きな音を立てて、道は開かれた。
どうやら、阿香と華吽の魔術が封じられたことで、あの平原にいなかった者たちの洗脳も、もうすでに解けているようだ。これならば、より話は簡単になるだろう。
正門が開かれたことで、この龍剣山を守っているという、龍脈の力を利用した障壁とやらは解除され、これまで、列をなしていた八咫竜の構成員たちが、本部の機能を取り戻すために、この山の
さて、ここまでは、予定通りだ。
人数が増えすぎてしまったために、足並みを揃えるためには、どうしても、全体の歩みは遅くなる。もうすっかりと日も暮れて、辺りは暗くなっていたけれど、夜空に浮かぶ、綺麗なお月様が眺めながら、かなりスリムになった隊列と共に、俺たちは、龍剣山の頂上を目指して、急ぐ。
「ああ、丁度いいところに……!」
「おお、姫様! お戻りになられましたか!」
無事に山頂までたどり着いた俺たちを出迎えてくれたのは、歴史を感じさせる神社の前で、竜姫さんのことを待っていたらしい、他の人たちと比べると、少しだけ立派な鎧姿の戦闘員たちだった。
どうやら、俺たちより先に、こんな場所にいるということは、先ほどまで、黒縄の支配下に置かれ、この山の中で待機していた構成員たちなのだろう。
それならば、なにか知っているかもしれないな。
「黒縄は、今どこにいるか、分かりませんか?」
「そ、それが、どうやら、
しかし、そこまでは、こちらの期待通りだったのけども、竜姫さんの質問に対する彼らの答えは、どこか歯切れの悪いものだった。
どうやら、その黒縄が逃げ込んだという場所に、なにかあるようなんだけど……。
「……ねえ、
「……
俺の素朴な疑問に、近くにいた朱天さんが答えてくれたけど、その苦虫を噛み潰したような顔を見る限り、そこに逃げ込むなんていう黒縄の行為は、八咫竜にとって、絶対に許されない禁忌のようだ。
ならば、
「なるほどね……、さあ、場所が分かったのなら、急ぎましょうか!」
「……はい!」
こうなれば、一刻も早く決着をつけるべきと、俺は竜姫さんたちに案内してもらいながら、みんなと一緒に、八咫竜の総本部である龍剣山の内部に突入した。
そこは、巨大な山の内側が、そのまま秘密基地となっているという、大胆な構造になっている上に、全体的な様式が、古式ゆかしい和風建築であるという、非常に興味深い造りをしていたのだが、残念なことに、今はまだ、詳しい探索をする暇がない。
まずは目的地に向けて、俺たちは龍剣山の最下層まで、怒涛の勢いで駆け下りる。
「この中が、神授の間になります」
「へえ、立派なもんだなぁ」
そして、ほどなくして立ち止まった竜姫さんの先に見えたのは、なるほど、一目で尋常ではないと分かる、雰囲気たっぷりの装飾が施された、豪華な扉だった。
だが、その扉は、今はしっかりと、閉ざされてしまっている。まあ、あの中で黒縄が籠城しているという話なので、それは当然なのだけど。
「しかし、どうしましょう……。ここに入るための鍵は、黒縄が持ち去ってしまったようなので、もう内側からしか、開ける手立てはありません……」
竜姫さんの話によれば、この堅牢な扉を開けるための鍵は、一つしかなく、いつもは厳重に封印されている部屋の中に、黒縄が入っているという事実を考えれば、その唯一の鍵を持ったまま、奴は立てこもっているということになる。
そうなると、この中に入るためには、なにか手立てを考えないといけないわけだ。
「他に、入れそうな抜け道とかは……」
「一応、神授の間の上方には、外に
さて、とりあえず聞いてはみたものの、竜姫さんからの解答は、想定内ではある。
天叢雲剣という、八咫竜にとっての、最重要機密を保管している場所に、そうそう気軽に入れる抜け道なんて、ある方がおかしい。
しかし、この反乱騒ぎにさっさと決着を付けるためにも、首謀者である黒縄の確保は必須だ。このままでは、八咫竜を取り戻せたとは、
となれば、残された方法は、かなり限られてくる。
「あの、竜姫さん。ちょっと乱暴な手段になりますけど、大丈夫ですか?」
「……もちろんです! 八咫竜の全ては、統斗さまのものなのですから!」
うん、かなり
だったら俺は、この信頼に、しっかりと
「ありがとうございます。それじゃあ……」
気合を入れ直した俺は、豪華な扉の中央に右手を当てて、自らの命気を、極限まで高めつつ、その手の平を中心に、無数の魔方陣を重ねて展開してみせる。
さて、準備は整った。
「――おりゃ!」
俺はそのまま、力の限り、全力で扉を押し込みつつ、全ての魔方陣を起動する。
その瞬間、衝撃を伴う閃光と共に、神授の間を封じていた扉は、あっという間に、内側に向けて吹き飛んだ。
「……まったく、相変わらず、礼儀を知らない男だな」
「まあまあ、後でちゃんと、直しますから」
神聖な場所に対して、緊急事態とはいえ、かなり無礼なことををしてしまったわけだけど、状況が状況だということを、分かってくれたのか、なんと、あの朱天さんが俺のことを怒らず、苦笑するだけにしてくれている。
なんというか、それはそれで、なんだか寂しい気がするのは、ここだけの秘密だ。
「それでは、お邪魔しますよっと」
とにもかくにも、道は開かれた。
俺はみんなと一緒に、この戦いにおける、最後の戦場へと、足を踏み入れる。
「へえ、なるほどねえ……」
そこは、思ったよりも、自然が剥き出しな場所だった。
かなりの広さがある空間なのだが、屋内というよりは、完全に屋外という印象だ。建造物らしい整備は、まったくされておらず、人工的な壁も床も存在しない。
空を見上げれば、ぽっかりと空いた穴の上から、月光が降り注ぎ、非常にゴツゴツとした岩肌がそのままの、地面や壁面を照らしているのが分かる。
ここが山であることや、この場所の位置関係から考えるならば、おそらく、火口の底とでも呼ぶべきなのだろう。
とはいえ、どうやら火山活動自体は、とっくの昔に収まっているようで、この空間は熱いどころか、むしろ冷えすぎていて、不思議な静けさと、
そして、そんな山の底の中央で、飛び抜けた存在感を放っている巨大な黒い岩の上に立ち、そこに突き刺さっている一振りの剣の前に、男が一人……。
よし、見つけた。
「……くっ、来たか!」
「ああ、そりゃ来るさ。なんだ、待っててくれたのかな?」
あの大岩に刺さった剣を、必死に抜こうとでもしていたのだろう、なにやら奮闘というか、四苦八苦していた黒縄が、俺たちに気付いて焦り出す。
どうやら、ここには奴以外の人間はいないようだし、先ほどの忠告が効いたのか、人質を用意しているみたいな、馬鹿な真似はしていないようなので、その点だけは、褒めてやってもいいかもしれない。
とはいえ、だからといって、別に手加減してやるつもりも、ないんだけど。
「さて、どうする? どう考えても、そっちにとって絶望的な戦力差だと思うけど、素直に降参する気は、あるのかな?」
「黙れ! 私は、私は……! こんなところで、終わる男ではない!
いや、正気か、黒縄。
この状況でも、まだそんなこと言えるのか。
「引き際も分からないとは、
「そうだそうだー! さっさと負けを認めろー!」
「もう~、めんどくさいから~、みんなでボコボコにしちゃいましょうよ~」
悪魔の炎を
「最後まで、気を抜くんじゃないわよん! サブ! バディ!」
「アイアイサー! ここまで来て、やられるなんて御免っス!」
「……これで、全部終わりだね……、うひひっ……」
そんな上官たちの近くで、ローズさんも、サブさんも、バディさんも、当然のことながら、臨戦態勢を整えている。
「あなたは包囲されています! 大人しく投降しなさい!」
「いや、ピンク。多分、今さらそんなこと言っても、聞くような相手じゃないよ」
「確かに、レッドの言う通りですね。なんとも往生際が悪そうな顔をしてます」
「そうね、こうなったら、さっさと引導を渡してあげた方が、いいかしらね」
「グ、グリーンが本気……。でも、イエローだって、やっちゃうわよ!」
エビルセイヴァーの面々も、やる気十分だ。素早く動いて、もうすでに、敵対者の包囲を完了している。
「黒縄! もうやめてください! これ以上は、意味がありません!」
「貴様も八咫竜の……、八岐衆の人間なら、これ以上、
さらには、竜姫さんと朱天さんに加えて、彼女たちの周囲には、怒りに燃えている八咫竜の戦闘員や、怪人たちまで控えている。
まあ、いくらかつての上司とは言え、自我を奪われ、あれだけ好きに使い倒されてしまったら、
つまり、全ては黒縄の自業自得……、身から出た
「この、この
だがしかし、たった一人の黒縄は、まるで、そんな絶望的な状況から、目を
しかし、抜けない。抜けるわけがない。
こうして初めて、俺以外の誰かが、あの剣に触れている様子を見ることで、俺には大体の事情が、察せてしまう。
だから、あまりに必死な黒縄の、その姿は、いっそ
「なんだ、こいつがそんなに大事なのか?」
「――な、なにっ!」
俺が、こちらに来いと望んだ瞬間、それまで微動にしなかった剣が、まるで意思を持つかのように、あっさりと巨岩から抜け出し、わき目も降らずに空を飛んできて、この手の中に
その様子を見て、黒縄が
天叢雲剣。
切っ先から
この遥か昔から、八咫竜に伝わる
「確かに、凄い剣だけどさ、そこまで
「う、うわ、うわあっ!」
その場を動かず、俺が剣を振るだけで、かなり遠くにいる黒縄の、その頭に巻かれていた
しかし、それ以外のものは、なに一つ切れていない。奴の額どころか、髪の毛一本
ただ、俺が振るうだけで、強度も距離も関係なく、その斬撃の軌道上で、俺が望むものだけを、真っ二つに切り裂いてしまう。
それが、この
しかし、逆に言えば、これはただ、それだけの力でしかないともいえる。
「ほらよ」
「な、なに……?」
せっかく手に入れた神器だったが、俺は惜しむことなく、呆然とした黒縄の近くに向けて、放り投げてやる。
伝説の剣である天叢雲剣が、
「そいつが使いたいんだろ? 好きにしろよ」
「こ、この! 馬鹿にして……!」
そう、剣は地面に刺さっているわけでもなく、ただ横たわっているだけだ。
あとはただ、持ち上げるだけいい……、はずだった。
「ぐ、ぐぐぐぐぐっ……! く、くそっ! なぜだ! どうして……!」
しかし、剣は持ち上がらない。
どれだけ黒縄が頑張ろうと、持ち上がることない。
当然だ。こうして、
いうなれば、あの天叢雲剣は、破壊という
つまり、あの剣を掴もうとする人間は、そのあまりにも絶対的な、破壊という概念に触れることで、自身すらも破壊される危険性を、無意識に本能で感じ取り、恐れ、
どれだけ理性で
剣が人を選んでいるのではなく、人の方から、剣を拒絶しているのだから。
「まあ、残念だけど、これが現実ってやつなんだろうな」
「あっ!」
もういい加減、黒縄にも分かっただろうし、俺は再び頭の中で、剣を呼ぶ。
それだけで、天叢雲剣はあっさりと、俺の手の中に戻ってきた。
「……なぜだ! なぜ、貴様が……! 貴様のような、どこの馬の骨とも分からない
「いや、そんなこと、俺が知るわけないだろ」
残念だけど、怒りに満ちた黒縄の
あえて言うなら、なんでか知らないけど、そういう風に生まれたからじゃない? としか答えようがないわけで、困ってしまうというのが、本音だ。
まあ確かに、人間が本能的に恐れるはずの物体を、こうしてバッチリと、この手で掴んでしまっているということについては、俺にとっても疑問だけど。
ただ、その理由を、自分なりに考えるならば、おそらく、俺の本能が、この剣を、破壊の概念というやつを、まったく恐れていないから、ということになるのだろう。
多分。
「ぐうっ! 私が、私こそが、選ばれた人間なのだ! 私が導くことで、八咫竜は、この世界を総べる最強の組織に……!」
しかし、なんにせよ、どうやらようやく、自らの野望が、完全に崩れ去ったことを自覚したらしい黒縄が、絶望にも似た絶叫と共に、自らの夢を吐き出している。
なるほど、それが理由か。
黒縄という人間が、竜姫さんを、八咫竜を裏切った、
「なのに、なぜ、なぜ貴様のような、まともな考えすら持たない、未熟な男が!」
というか、
まったく、失礼な奴である。
「おいおい、なに言ってるんだよ。俺だって、色々考えてるさ」
そう、こんな自分にも、持ってる夢くらいは、あるのだから……。
「まず、みんなと楽しく遊んで暮らしたいし、美味しいものだって食べたいな。それから、たまにはゆっくり眠りたいし、可愛い女の子と、イチャイチャだってしたい。そうだな、できることなら、長い休みでもとって、みんなと一緒に、南の島とかで、バカンスを楽しみたいかな、切実に」
まあ、別に大層な思想を持っているわけでも、野望を
だけど、俺にとって、それが大事なことであるのは、間違いない。
「まあ、統斗さまったら」
「まったく、しょうのないやつだな」
こうして、ヴァイスインペリアルのみんなだけでなく、竜姫さんや朱天さん……、八咫竜の人たちにも、笑顔でいてもらうことが、俺の目的なのだから。
「ふ、ふざける! それはただの、貴様の
「よっと」
しかし、どうやら俺の態度が気に食わないらしい黒縄が、激昂しながら、その手で複雑な
なるほど、どうやらあれが、
「いや別に、ふざけてるわけじゃない」
「なんだと! くっ……!」
とりあえず、俺はこちらに迫りくる火の玉を、天叢雲剣で切り飛ばしながら、残念な黒縄に、教えてやることにする。
悪の総統としての、
「どんな御大層な目的も、一皮むけば、そんなもんだってことさ。要するにお前は、ただ自分が偉くなりたいってだけの話に、
とはいえ、自分の欲望に素直なこと自体は、俺だって、責める気ははない。こちらも好き勝手やってるだけの、悪の側に立つ人間なのだから、当然だ。
ただ、俺が指摘したいのは……。
「というか、悪の組織の人間が、自分の悪事を誤魔化すなよ、情けない」
「う、うるさい! 黙れ!」
自分の欲望と、それが
どうも、まるで
本当に、可哀想な奴だなぁ……。
「なあ、あんたはそんなに、この剣が欲しいのか?」
「当然だ! 八咫竜に生きる中で、そう思わぬ者など、いるわけがない! それは、我らが誇りだ! 象徴だ! 夢なのだ! それを手にすれば、全てが……!」
どうやら、このままでは、奴は、奴自身が起こした行動の意味にすら、永遠に気が付くことはなさそうだ。
こうなったら、仕方ない。
「……ねえ、竜姫さん。この剣は、もう俺のものなんですよね?」
「……はい。天叢雲剣も、そして八咫竜も、全ては統斗さまのものですよ」
ならば、俺はこの信頼に、応えなければならない。
天叢雲剣を、手にした者として!
「だったら、好きにさせてもらおうか!」
「なっ! 貴様、なにを……!」
驚愕している黒縄の目の前で、
そう、解放の時は来た。
こんな剣に縛られていた、八咫竜という組織も。
そして、こんな剣の中に閉じ込められていた、大きな力も。
そろそろ、自由になるべきだ……!
「
俺は高密度の魔術を展開し、この手の中にある天叢雲剣に干渉することで、内部に秘めたる真の力を封じるための外装を分解し、中身を取り出して、俺という存在そのものに、ぴたりと組み込んでしまう。
こうして、天叢雲剣という名の神器は、俺という新参者の手によって、まるで最初から、幻だったかの
「ほら、お前のいう、誇りとやらは、きれいさっぱり、消えてしまったぞ」
これが、天叢雲剣に選ばれた、所有者たる俺の、選択だ。
「ふ、ふざけるな! ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなああ! おい、貴様ら、なにを黙って見ている! 我らを
黒縄の怒りは、もっともだ。
八咫竜という組織において、最重要だったはずの象徴を、こうして
「…………」
しかし、狂乱した黒縄の絶叫には、誰も応えない。
竜姫さんも、朱天さんも、そして、それ以外の八咫竜の人たちも、剣の消失に動揺するでも、怒るでも、悲しむでもなく、ただ冷静に、
そこには、俺に対する敵意なんて、
「な、なぜだ! お前たち! そいつは、我らが誇りを汚した
どうやら、黒縄はまだ、分かっていないようだ。
俺と、そして奴の行動が引き起こした、その結果に。
「なのに、なのに……、なぜ!」
「そうだな、日頃の行いってやつじゃないか?」
つまり、八咫竜は選んでくれたのだ。
天叢雲剣を手にした者だからだけではなく……。
「結局のところ、あんな古臭い剣を手に入れたからって、簡単に、思い通りに、全てが得られるわけじゃない。それでも気に入らないって奴は、必ず出てくる。お前たちの裏切りが、それこそ、いい実例だろ?」
「ぐ、ぐぬぬぬっ!」
残念なことに、それが真実だ。
怒りに我を忘れているのか、黒縄はいつのまにか、自らが行動を起こした理由すらからも、目を
そんな人間に、一体誰が、付いて行きたいなんて思うというのか。
「大事なのは、力を手に入れることじゃない。手に入れた力を使って、みんなのために、なにを
いやむしろ、俺がここまで簡単に、八咫竜という組織に受け入れられたのは、竜姫さんという存在も大きいが、奴の起こした
あんな
つまり、これこそが、俺たちが今まで頑張って来た、作戦の
「あんな剣なんてなくても、もう八咫竜は、俺のものだ。嫌だというなら、
さあ、ここまできたら、あと少しだ。
八咫竜という組織の、全てを手に入れるまで、俺は
「そっちが納得するまで、存分に、付き合ってやるからさ!」
こんな馬鹿なことをした黒縄だろうと、しっかりと責任を取らせてから、俺たちのために、キリキリと馬車馬のように働かさせてやることにしよう。
そう、悪いけど、俺は強欲な、欲望の塊なのだから!
「ぐううううう!」
さすがに、自分が極限まで追い込まれたことを自覚したのか、あのプライドの高い黒縄が、
とはいえ、今のあいつに、俺たちに投降する以外の道は、残されていない。
「もう終わりにしましょう、黒縄……。あなたの裏切りを、私は許します。だから、これからは八岐衆も一丸となって、統斗さまを支えるために……」
しかも、優しい竜姫さんが、破格の条件まで付け加えてくれたのだから、少しでも理性が残っているのなら、どうすればいいのかなんて、火を見るよりも
だがしかし……。
「ふざけるな! この私が、今さら貴様たちに頭を下げて、これからは、部下として使われろだと! そんな屈辱……、受けてたまるか!」
こんなにも、
いやはや本当に、無駄にプライドが高い男だな……。
「やれやれ、だったら……」
あきらめの悪い黒縄に、そろそろ自分の立場というものを、じっくりと分からせてやるべきかと、俺が大量の魔方陣を展開し、多少荒っぽい交渉に
その時だった。
「うっひょっひょっひょっひょっ! 盛り上がっとるのう!
突然、俺たちの頭上から、聞き覚えがある老婆の声が、
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