5-10


「やー、疲れた、疲れた」


 軽くシャワーを浴びたので、まだ少し濡れている髪をタオルで拭きつつ、俺は扉を開けて、誰も使っていないため、会議室と荷物置き場を兼ねて使っているラブホテルの一室に、ちゃんとノックをしてから入る。


 なんだか、秘密の逢引あいびきみたいだけど、残念ながら、そんな色っぽい話じゃない。



 今から行われるのは、今夜の作戦の総括そうかつと、今後のための話し合いである。



 八咫竜やたりゅうの追走をあっさりと振り切り、ローズさんの安全運転で、ようやく隠れ家に戻ってきた俺たちは、ひとまず各人の部屋に戻り、お風呂で汗を流したりして、少し落ち着いてから、全員で集まって、会議を開くことにしていた。


 作戦は大成功だったけど、いつまでも、浮かれてばかりはいられない。勝って兜の緒を締めよというが、まさにその通り。


 決着はまだまだ、これからなのだから。


「あっ、統斗すみとさま! お待ちしておりました!」


 みんなが待っている部屋に、足を踏み入れた俺を、わざわざ出迎えてくれたのは、美しい刺繍ししゅうほどこされた白い和装の寝間着を、上品に着こなした竜姫たつきさんだった。


 正直、とっても愛らしくて、思わず抱きしめたくなってしまったのは、内緒だ。


「遅いぞ! 男のくせに、貴様が一番最後とは、なにをしていた!」 

「いや、パジャマを全部洗濯しちゃってたのに、さっき気が付きまして、慌てて服を引っ張り出していたからでして……、あの、ごめんなさい……」


 そんな竜姫さんのすぐ後ろから、俺を怒鳴りつけたのは、黒いシルクのパジャマがまぶしい、朱天しゅてんさんである。


 作戦時間が夜だったこともあり、もう時間も遅くなってしまったので、明日のこともあるから、すぐに休める格好で集まろうということにしたのだけれども、どうやら彼女も、生真面目にその約束を守ってくれたようだ。


 いやでも本当に、朱天さんの言う通り、部屋の中を見渡したら、俺以外の全員が、もう集まっていたりするので、なんというか、大変申し訳ないです、はい……。


「えーっと、それでは報告会を始めます」


 というわけで、みんなを待たせてしまった分を取り戻すために、もう日付も変わりそうだし、俺は迅速な進行を目指して、頑張ることにする。


 さあ、気を取り直して、始めよう。


「まずは、八岐衆やまたしゅうと実際に戦った感想とかかな。ざっくりした所感しょかんでいいから、忌憚きたんのない御意見をどうぞ」


 とりあえず、まだ記憶も新しいうちに、そういう感覚を口に出し、互いに共有することで、見えてくることもあるはずだ。


 こういう実体験を元にした直感は、貴重な情報なのだから


「うーんと……、阿香あか華吽かうんと戦ったけど、わたしたち五人なら、もう少し、相手の人数が増えても、まだ余裕を持って対応できるかな?」


 可愛らしいピンクのパジャマが、よく似合っている桃花ももかが、大きなベッドに腰かけながら、まずは口火くちびを切ってくれて、本当にありがたい……。色んな意味で。


 なんというか、知り合いの女の子が、普段あまり見ることのできない無防備な格好をしているというのは、そこはかとなく、ドキドキしてしまうものなのだ。


「そうねー。洗脳されてるって聞いてたから、けっこう普通の動きしてたのは驚いたけど、結局は普通だったから、時間を稼ぐってだけなら、問題ないよ」


 赤いインナーシャツの上に、爽やかなスポーツウエアを着ている火凜かりんの言葉には、なんの気負いも、驕りもない。それは、他のエビルセイヴァーたちも同様だ。


 その様子は、実に頼もしいものだった。


「とはいえ、その肝心の洗脳を解除する方法がさっぱりですから、相手に手傷を負わせず耐えるとなると、おのずと限界はありますが」


 その通り。薄い水色の清楚なパジャマが、彼女のイメージにぴったりなあおいさんが提示した問題は、やはり避けては通れない。


 とはいえ、俺には一応、その解決策に、あてがあるといえば、あるんだけど……。


 それを行うための準備が、まだ整っていないので、ここで軽々に、無責任なことをいうわけにもいかないのだった。


「もー! あの悪趣味な二人組を倒すだけなら、もっと簡単なのに! さっきの戦いでも、あいつら結局、なにもしてこなかったし!」


 デフォルメされたひよこのような、黄色い着ぐるみパジャマ姿のひかりが、その口を尖らせながら、ぶーぶーと文句を言っている。


 まあ、あいつは派手に暴れるのが性分、みたいなところがあるので、本日の作戦ではイライラすることも多かったのだろう。


「もしかしたら、あの二人って、心を支配して、操る以外の魔術を、使えないのかもしれないわね。それができるなら、もっと直接、こちらを攻撃してくると思うわ」


 高級そうな深緑のナイトガウンで、大人っぽくその身を包み込んでいる樹里じゅり先輩の意見には、俺も同感だ。


 相手の精神を縛り、自分の好きに操作するなんて魔術は、複雑で当然だ。しかも、その効果が長期に渡って持続するというなら、さらに膨大なリソースを裂かなければならないはずである。


 というか、別に向こうが圧倒的に押していたわけでもないどころか、むしろ俺たちを取り逃がしたりしてるのだから、やれるなら、とっくにやるだろう、普通は。


「うーん、エビルセイヴァーちゃんたち、大変だったのねえ。じゃあ統斗ちゃんは、どんな感じだったのかしら?」


 ゴージャスだが品の良いパジャマ姿のローズさんは、今回は車の運転ばかりだったので、俺たちがどんな戦いを繰り広げていたのか、まだ知らない。


 ここは情報の共有のためにも、俺は俺の感じたことを、率直に伝えるべきだろう。


「そうですね……、まずは黒縄こくじょうですけど、よほど今の椅子が心地いいのか、自分で戦う気がないように見えるというか、まず間違いなく、あれは最後の最後まで、前線には出てこないでしょうね」


 というわけで、まずは裏切った八岐衆の中でも、指揮官的な立場にいるらしい黒縄のことから、始めるべきとは思うのだが、今回の作戦では直接交戦しなかったので、特に目新しい発見はなかった。分かったのは、やっぱり性格が悪そうだ、くらいか。


 しかし、あいつが本気で俺のことを嫌っているのは、ヒシヒシと感じるのに、それでも自分は後方でふんぞり返って、ニヤニヤと部下に命令するだけな辺り、この後も余程のことが起きないと、本部に引きこもったままだろう。


 どうやら、今回の一件の責任を取らせるのは、奴が最後になりそうだ。


「それから、蒼琉そうりゅうですけど、戦ってる時間も短かったですし、イマイチよく分からないっていのが、正直なところです。なんだか、他の二人に比べて、微妙に他人と連携しての行動には、慣れてないのかなって感じでしたけど」


 さて、こちらの少年剣士については、初遭遇だったわけだけど、正直なところは、ほとんど詳細が分からなかった、というのが、本当のところか。


 確かに、少しは刃を交えたけれど、どうにも実態がつかめなかったというか、彼がその全てをさらしていたとは、思いづらい。


「それは多分、奴がまだ、八岐衆に加わってから、日が浅いからだろう。それから、基本的にはいつも、空孤くうことべったりだから、他の八岐衆とのかかわりも薄い」


 ということは、蒼琉の詳細な実力に関しては、朱天さんにとっても、未知数ということになるのだろう。


 どうやら、あの少年に関しては、今後も注意が必要なようだ。


「ああ、それから、その空孤ですけど、やっぱり、あの妙な術は厄介ですね。のおかげで、対応できてますけど、まともにやり合うのは、避けたいところかな」


 そして、実際のところ、あの空孤という女性の使う占術とやらも、相当厄介であるという事実には、より注意を払うべきだろう。


 確かに、これまでは速やかに対処することができていたけれど、それは全て、この八尺瓊勾玉やさかにのまがたまから抽出した力によるものだ。これがなければ、あの巧妙に隠された護符に気付くのが遅れ、もっと違う結果になっていたかもしれない。


 つまり、この目を持たない他の仲間たちにとっては、空孤の使う妖しい術は、非常に面倒な懸念要素ということになる。


 というか、やはり、前回の海での一件は、こちらにとって都合が……、というか、タイミングが良すぎたと思ってしまうのは、考えすぎだろうか?


「多分だけど、事前に護符を設置しておかないと、あそこまで強烈な事象を、あんな簡単に引き起こせないっぽいから、如何いかにして、その下準備たっぷりのフィールドを突破して、そこから引き離すかが、重要だと思う」


 とはいえ、今は持っているモノなら、なんでも使わなければならない状況だ。二度の遭遇を振り返ってみれば、そのどちらも、あの厄介な護符が、前々から準備されていたことは、明白だった。


 こうなれば、この八尺瓊勾玉の力をフルに活かして、その隙をついていくことに、全力を尽くすべきだろう。


「次は、牙戟がげきかな。こいつ自体は、結構なんとでもというか、どうとでもなりそうな感じなんですけど……」


 さて、あの半裸男と戦ったのも、今回初めてということになるけれど、かなり長く戦った俺の、素直な感想としては、奴自身は、それほど問題にならないはずだ。


 あの身体能力とか、奇妙な武器とか、体術とか、回復能力なんかは、確かに油断はできないとは思うけど、それだけだ。相手を甘く見ているつもりはないが、あの程度だったら、致命的な脅威には、なりようがない。


 俺たちが、心の底から注意すべきなのは、もっと別のことにある。


「問題は、奴の側には、師匠である白奉びゃくほうがいる可能性が高いことです」


 そう、白奉……、あの規格外の老兵こそが、八岐衆の中でも、もっとも警戒すべき相手であり、その脅威を実際に体験したことこそが、今回の作戦における最大の成果だったといっても、過言ではない。


 本当に、それだけあの男は、別格なのだ。


「っていうか、なんなんですか、あの白奉って。あんなの殆ど、反則でしょう」


 圧倒的な力量を誇りながらも、決して慢心まんしんせず、焦ることもなく相手を追いつめ、その上で周囲へのフォローを怠らないどころか、その鉄壁の防御で守り切ってしまうとか、実際に対峙してみて分かったが、厄介どころの話ではない。


 正直なところを言ってしまうと、あれほどの人材、喉から手が出るほど欲しい。


「個人的には、あれだけ圧倒的な白奉がくびで、あの黒縄がいちくびっていうのが、まったく信じられないんですけど……」


 というか、理解できない。どれだけ考えても、白奉に感じた威圧感というか、畏怖いふのような感情を、あの残念な印象しかない黒縄に、いだけという方が、無理な話だ。


「当然だ。本来なら黒縄は、さんくびだったのだからな」

「……どういうことですか?」


 しかし、そんな困惑している俺に、朱天さんはあっさりと告げた。


 いやでも、確か八岐衆の三の首って、彼女の、朱天さんのことだったんじゃ?


「実は、本当だったら白奉は、もう八岐衆ではないんです。長い間、一の首を務めてくれていたのですが、もう老体だからと、本人の希望で、ずいぶん前に勇退しているはずでした。けれど、彼をしたう者たちにわれて、現役を続けることは、受け入れてくれていたのですが……」


 俺の頭の上に浮かんだ疑問符に、気がついてくれたのか、これまで八岐衆をたばねていた竜姫さんが、詳細を話してくれた。


 しかし、その表情は、まるで昔を懐かしむようでもあり、悲しむようでもあって、俺の心を締め付ける。


 やはり、したっていた白奉の裏切りは、彼女にとって、相当辛いことなのだろう。


「それでも、八咫竜の中でも需要な立場である、八岐衆を率いる一の首からは退しりぞくという意思は、固くてな……」


 そして、そう言う朱天さんの瞳も、竜姫さんと同じように、哀しい色をしていた。


「そこで、本来だったら、当時二の首を務めていた朱天が、一の首となるはずだったのですけれど……」

「私が白奉の……、師の上に立つなどありえないと、辞退したら、三の首だった黒縄が、あっさりとその立場に収まった、というわけだ」


 なるほどね……。


 白奉が、朱天さんの師匠だったというのは、新しい事実ではあるけれど、今はそこまで、無理に深い話を聞く必要はないだろう。


 彼女たちの悲しみに、土足で踏み入ってしまえるほど、俺は二人のことを、そして白奉のことを、八咫竜という組織のことを、知っているわけでは、ないのだから。


「そうですか……。色々と大変だったんですね……」


 人に歴史あり、そして人が集まる組織にも、当然ながら、歴史がある。それを教えてもらうのは、もっと後でも……、八咫竜を、俺たちの仲間にした後でも、決して、遅くはないはずだ。


 今はそれよりも、あの白奉以上の怪物が、八岐衆にはいないという事実を、素直に喜ぶべきだろう。


 とはいえ、だからといって、今まさに目の前にある問題は、なにも解決していないわけだけれども。


「とりあえず、白奉に対しては、まずはこちらの攻撃が通じないと、話にもならないわけですけど、あえて恥をしのんで言いますと、今の俺では、そしてエビルセイヴァーでも、奴の防御を打ち破ることは、難しいと思います」


 そう、ますはなんとしても、あの白奉を攻略しないと、話にならない。


 あの老人が一人いるだけで、戦況はこちらの不利となり、どうしようもない事態におちいる可能性は、ぐっと高くなる。


 これは、超常的な力を持った人間が集まる、悪の組織や、正義の味方の戦いには、よくある話なのだけれども、あまりに絶対的な個の力の前では、数的有利は、有利にならず、手も足も出せずに敗北するという、身もふたもない事態になりかねないのだ。


 そうならないためにも、事前に情報を集め、戦略を練り、対策をこうじるのが大切というわけなのだけど、そもそもの問題として、それはあくまでも、こちらの攻撃が、たとえわずかであっても、相手に通じることが大前提となる。


 つまり、白奉を倒すには、あの鉄壁の防御を崩すことが、絶対条件になるわけなのだけれども、残念ながら、今の俺たちでは、絶望的に火力が足りない。これは、実際に戦った俺自身がくだした、残酷な結論である。

 

 そして、これはまったく、由々ゆゆしき問題だった。


「そこで、お聞きしたいんですけど、竜姫さんか、朱天さんなら、あの白奉を、なんとかできますか?」


 というわけで、昔から白奉のことを知っている二人なら、なにか有効な手段を思いつくのではないかと、思い切って尋ねてみた俺である。


 そう、やはり仲間には、容赦なく頼るべきなのだから。


「……例え白奉でも、龍脈の力の直撃を受ければ、無傷というわけにはいかないとは思いますけど、そもそも当てられるかどうか……」


 しかし、竜姫さんからの返答は、あまりかんばしくないものだった。


 とはいえ、確かにあの白奉は、単純に硬いだけというわけではなく、武芸においても達人だ。例え龍脈の力によって、竜姫さんの行動が、認識できなかったとしても、奴ならば的確に危機を察知し、冷静に対処することが可能だと、確信できてしまう。


 つまり、俺たちに必要なのは、あの白奉の防御を、ぶち破れるだけの破壊力を持ちながら、奴に対抗できるだけの武術の達人……、ということになるけど、そんな規格外の人間は、そうそういるはずもない。


 とはいえ、まったく心当たりない、というわけでもないのだが……。


 しかし今は、もう一人の八咫竜関係者に、意見を聞く方が先だろう。


「朱天さんは、どうです?」

「……手なら、ある」


 そう答えた彼女の、アイパッチに隠されていない方の目は、静かで、強い決意に、満ちていた。それは、例えみずからがどうなろうとも、なんとしても、必ず目標を達成してみせるという、揺るぎなく、決して折れることのない……。


 危険な光だ。


「それじゃあ、仕方ないですね。なにか別の方法を探しましょうか」

「おい! 手ならあると、言ってるだろうが!」


 あっさりと、自分の進言しんげんを却下された朱天さんが、その顔を赤くしながら、こちらに突っかかってくるけれど、俺だって、退く気はない。


「駄目ですよ、だって、その方法って、かなり危険なんでしょう?」

「うっ……」


 ほら、やっぱり。


「だったら、却下です。そんな博打をするくらいなら、わざわざ今回、威力偵察した意味がありませんから」


 安全な対策を練るための偵察なのに、その偵察で分かった情報を元に、破れかぶれの賭けに出るなんて、本末転倒だ。


 その必要をなくすことこそが、大切な目的なのだから。


「それに、勝つなら、圧倒的に勝つ。それが俺のモットーです」


 そう、そして、その最終的な勝利を掴むためなら、俺はあえて、敵に負けてみせるようなことだって、なんだってしてみせる。


 勝者とは、最後に立っていた者のことなのだ。


「それに、別にもう、打つ手がないってわけじゃ、ありませんから」


 当然ながら、俺がこれまで色々とやってきたことには、それなりの理由というやつが存在する。さくがあるからこそ、布石ふせきを打つのだ。


 今はまだ、時が満ちるのを待つ必要があるというだけで。


「とりあえず、ローズさん。サブさんとバディさんに連絡して、こっちに来てくれと言っておいてくれますか? 少しでも。人手を増やしたいので」

「了解よん! 統斗ちゃんたちが、もう侵入してるってバレてから、周囲の警戒網も薄くなってるみたいだし、二人だけなら、陸路でも速攻で来れると思うわ!」


 とはいえ、その時が来るまで、ただぼんやりとしているというのも意味がないし、俺は今できる最善を尽くすため、ローズさんに指示を出しておく。


 ここからは、総力戦で挑まないと、厳しい状況であることには、変わりない。


「それじゃあ、後は……、おっと、ちょっと失礼します」


 というわけで、これからのことを考えて、ここにいるみんなと、色々話し合おうとした俺の耳元が、突然震えた。もちろんこれは、生理現象なんかではない。


 シークレットスキンちゃんによる、ヴァイスインペリアルからの緊急通信だ。


「……もしもし?」

『あ~、統斗ちゃん~! うふふ~、お久しぶり~!』


 そして、その通信に出た途端、俺の耳に飛び込んできたのは、のんびりと、こちらの心を落ち着けてくれる、甘い声だった。


「あっ、マリーさん。どうしたんですか、こんな時間に?」

『む~、こんな時間じゃ、迷惑だったの~?』


 その声を聞いた瞬間、なんだか、とても懐かしい気分になって、通信の向こうで、あの魅力的なくちびるを尖らせている彼女の姿が、思い浮かんでしまう。


 なんだか、癒されるなぁ……。


「はははっ、そんなこと、あるわけないじゃないですか。ただ、なにかあったのかなって、思ったけですよ」

『あ~! そうなの~! 聞いて、聞いて~!』


 そして、俺の愛しきマリーさんは、彼女にしては珍しい、非常に興奮した様子で、とっても嬉しそうに、まるで大事な宝物みたいに、言葉をつむぐ。


『実は~、じゃじゃ~ん! 例の修理が~、全部完了しました~! パチパチ~!」


 それはまさに、福音ふくいんにも等しい情報だった。


「ほ、本当ですか!」

『もう~、ワタシが~、統斗ちゃんに~、嘘つくわけないでしょ~?』


 マリーさんの興奮も、喜びも、本物だ。声を聞けば、分かる。


 それはなによりも、彼女の言葉が真実であると、げていた。


『これで~、もう例のアレも~、バッチリ使えるようになってるわよ~』


 俺は思わず、この部屋の片隅に目を向ける。そこには、スキーケースほどの大きさをした荷物が三つ、静かに詰んである。


 そうか……! ようやく、ようやくだ……!


「やりましたね! マリーさん! 流石です! お見事です! 天才です!」

『うふふ~、もっと褒めて~、褒めて~!』


 俺からの最大限の賛辞に、マリーさんも喜んでくれる。


 でも、その高まる喜びに、俺だって負けてはいない、


『愛しの統斗ちゃんのために~、頑張っちゃっいました~1』

「本当に凄いです! 俺も愛してますよ、マリーさん!」


 なぜなら、彼女のおかげで、全てのピースが揃ったのだから。


「それじゃあ、また後で!」

『は~い! それじゃあ~、またすぐにでも~!』


 喜びを分かち合った俺とマリーさんは、特に別れを惜しむでもなく、あっさりと、通信を終わらせる。


 だって、もうそんな必要なんて、ないのだから。


「あの、統斗さま? どうされたのですか?」

「ああ、竜姫さん。いえ、大丈夫ですよ」


 少し激しく喜びすぎてしまったのか、竜姫さんが心配そうに、こちらの手をとってくれたので、俺も落ち着いて、その手を握り返す。


 ああ、だけど、この心躍らせる歓喜は、抑えられそうもない。


「ただちょっと、最高に嬉しい報告が、あっただけですから!」


 そう、細工は流々りゅうりゅう、仕掛けは上々じょうじょう……。


「さーて、これから忙しくなるぞ!」



 後は、仕上げを御覧ごろうじろ。


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