5-8
「なるほどね……」
月明りさえ届かない、深い深い森に入った途端、俺は全てを理解して、思わず誰に聞かれることもない、小さな
たった一歩、この森に足を踏み入れた瞬間から、まるで誰かに見られているような粘っこい感覚が、こちらの背筋を
やっぱり、流石は守りが得意な
『
「ああ、分かってる」
俺より先行して森に入り、今はもう、ここからかなり離れた場所にいる
どうやら、エビルセイヴァーの方も、こちらと同じ状況らしい。
「多分、もう見つかってるだろうけど、こっちにとっては、むしろ好都合だ。作戦はこのまま、続行する」
事前にローズさんから聞いていた話だと、侵略を始めて、手を広げだした八咫竜の動きは、かなり穴がある感じだったらしいけど、それでもここは、
こんな速さで
とはいえ、俺たちのやることは、なにも変わらないのだけれども。
「しばらくは、なにも気付いていないフリをしよう。その方が、向こうも油断して、さっさと出てきてくれるだろうし」
『……了解!』
ピンクとの通信を切り上げながら、俺はとりあえず、それっぽく見えるように周囲を警戒してみせながら、見よう見まねのスニーキングミッションを続行する。
そもそも、俺たちは最初から、敵に見つかることを前提に、動いているのだから、この状況は望むところなのだ。後は、こちらの真意を悟られないように、それらしく振る舞うだけで、十分だろう。
そうすれば、それほど待たなくても……。
「おっ、来たな」
適当な木の影に隠れたり、
同時にというよりは、先行した誰かを、もう一人が追っているといった感じだが、
なんにせよ、確実にこちらを狙ってきているのは、間違いない。
俺は戦いに備えて、入り組んだ森の中でも、少し開けた場所に出ながら、その気配の到着を待ってみる。
よし! いち、にの、さん……!
「大将首、討ち取ったりー!」
「うわあ、なんだなんだー?」
この森を暗くしている原因の一つである、種類は分からないが、かなり高い木の上から、まるで砲弾のように突っ込んできた巨大な物体を、かなり余裕を持って回避しながら、それっぽく不意をつかれた感を出してみたけれど……、いかん、少しだけ、わざとらしくなってしまったような気がする。
うーん、もう少し、気を付けないと、いけないな。
「ぬうっ! 外したか!」
ありがたいことに、俺の棒読みは気付かれなかったようで、そいつは恐ろしい速度で地面に激突したというのに、まったくの無傷どころか、その場で元気に、
巨大な槍のようだが、その先端の両側には、左右対称に三日月のような形をした刃が付いた
そう、半裸だ、まだまだ寒い冬の季節の、しかも夜だというのに、問答無用で半裸すぎて、正直ドン引きである。その鍛え抜かれた肉体を見せつけたいのか、まったくどんなこだわりがあるのか知らないが、奴が下半身に長ズボンを履いていることを、むしろ神に感謝すべきなのかもしれない。
神様も、そんなことで感謝されたって、困るだろうけど。
「しかーし! 次は外さない!」
とはいえ、格好は珍妙だし、その言動は不可解だけど、一応は正気を保ってるように見えるし、こうして相対してみれば、かなりの実力者であることも分かった。
その手に持った謎の武器を、大上段に構えながら、派手な見栄を切る大男は、まだ若く見える……、とはいえ、俺よりは確実に年上だろうし、少年とは呼び難い。
なによりも、得物が刀剣の
「お前は
「おっ、なんだ! 知らないうちに俺様も、有名になってたのか!」
よし、正解! ちょっと格好つけてしまったので、外れたら恥ずかしかったけど、当たってよかった!
「そうとも! 俺様こそ、八岐衆が六の首! さあ来やがれ、シュバルカイザー! この
律儀なことに、しっかりとリアクションを返してくれた牙戟が、その方天戟と呼ぶらしい槍のような
うん、これくらい分かりやすければ、こっちとしてもやりやすい。
「……目標一名と遭遇。牙戟だそうだ」
今回の作戦は、団体行動だ。俺は敵に聞かれないように、超極薄型の通信機であるシークレットスキンちゃんを通して、小声でみんなに報告を行う。
『了解! 手を抜きすぎて、負けないでよー?』
「はいはい、お任せくださいな」
いつもの俺と
みんなと一緒なのだから、
「行くぜ! オラオラオラッ!」
さあ、ここからが本題だ。
その方天戟とやらを、真っ直ぐとこちらに向けて、爆発的な加速と共に、俺の方に突っ込んでくる牙戟に対して、俺は少し大袈裟なくらいに、構えてみせる。
これならば、本気で戦う気があるように、見えるだろうか?
「よっと!」
肝が冷えるような正確さで、確実にこちらの身体の中心を狙って、空気を切り裂くように突き出された方天戟を、大きく後ろに飛んで、避けてみる。
とりあえず、相手の出方から
「甘いぞ! シュバルカイザー!」
バックステップした俺を追ってきて、鋭く踏み込んだ臥戟が、その巨大な槍を強引に引き抜くように持ち上げて、凄まじい勢いで叩きつけてきたので、今度は後方ではなく、横に避けようとした途端に、その筋力に物を言わせたのか、無理矢理に軌道を変えて、薙ぎ払われてしまった。
とはいえ、まだ余裕はある。
「くぅ、なんて攻撃だ!」
わざと驚いたような声を上げながら、俺は大きく飛び上がり、無駄な動きで相手の攻撃を避けてみせる。よしよし、今度の演技は、我ながら自然だったぞ。
「そらそらそら! どうした! 逃げることしかできないのか!」
こちらの狙い通り、調子に乗ってくれた牙戟が、着地した俺に向けて、その両手で握る方天戟を振り回し、突きまくり、斬りつけてきた。
なるほど、それは確かに
とはいえ、まだまだ十分に、対応可能なわけだけど。
「うわっと! 危なっ!」
あんまりギリギリで避け続けると、流石に気付かれてしまうかもしれないし、その辺りは上手く調整して、俺は相手が喜ぶような奇声を上げながら、あくまで逃げるのに必死ですという
しかし、このままこっちから攻め込まないというのも、不自然といえば不自然か。
「このっ! 負けてたまるかー!」
とりあえず、追い詰められた末に、イチかバチかで反撃に出たみたいな空気を出しながら、俺はこちらに向けて真っ直ぐに突き出された槍の先端を、
もちろん、全力ではないし、牙戟に向けて、こちらの命気を送り込むような真似もしていないで、有効な一打とは言い難いが、それでも少しだけ体勢を崩した相手の隙をついて、俺は再び、この大男から距離を取る。
「ふはははっ! なかなかやるな! ……しかーし!」
牙戟はこちらを追撃するでもなく、その場で豪快に笑っているが、そうしている間にも、俺の一撃によって
なるほど、あれが奴の能力か。
「俺様の牙は、二本ある!」
そして、すっかり絶好調な牙戟が、痣が綺麗に消えた脇腹に、腹筋に、というか、全身に力を込めながら、その両手で握っている方天戟を、
「さあ! この
……いや、どうやらあれは、強引に破壊したのではなく、最初からあの武器には、そういう機能が組み込まれていたようだ。
牙戟の両手にそれぞれ握られた、二つに分かれた槍の先端では、片方だけになった三日月型の刃が、鈍く光っている。
それと同時に、大きく
どうやら、ここからが、奴の本気……、なんだろけど……!
「……先走るなと言っただろう、牙戟」
「――っ!」
先ほどから感じていた、こちらに近づいているもう一つの気配……、その持ち主が現れた瞬間、俺の全身が
「し、師匠! あの、いや、これは……!」
これまでの豪快な様子は、どこへやら。牙戟は慌てたように、ただただ平伏して、ぺこぺこと頭を下げている。
だけど、それも当然だろう。
牙戟に師匠と呼ばれた、その男は、どう見ても老人と呼んで差し支えない年齢だというのに、しゃんと背筋を伸ばしながら、その大柄な体格を包み込むような、さらに巨大で、分厚い甲冑を、苦もなく着込んでいる。
もっとも目を引くのは、その両手に装着されている
あの老兵が、牙戟の師匠だというのなら、その正体に
あきらかに、格が違う。
「二人目の目標と接触。……
『了解しました。順調ですね』
俺は
ここからの対応は、慎重に行う必要がありそうだ。
「ふむ、
その浅黒い肌によく
いやいや、これで二の首? 冗談だろ? これの上に
「……ああ、そうだ」
まるで重ねた年齢が、そのまま膨大な経験となって、積み上げられたような老兵に負けないように、俺は一歩も引かないという決意と共に、真正面から向かい合う。
飲み込まれたら、それで終わりだ。
「ふっ、なるほどな……。こうして対峙してみないと、分からないこともある」
口元を少しだけ
正直、まともにやり合うのは避けるべきだと、俺の本能が告げている。
「おいおい、なに勝手に納得してるんだよ。こっちとしては、あんたみたいな、そろそろ引退しそうな老いぼれと、顔を突き合わせたい理由なんて、ないんだけどな」
まあ、こんな
こうなれば、手段を選んでいる余裕なんて、あるわけがない。
「こいつ、師匠になんて口を聞きやがる!」
「よせ、牙戟」
非常に分かりやすく、怒りの表情を浮かべてくれた牙戟を、揺らぎもしない低い声で
「ただの
いやむしろ、下手を打った俺の方が、全てを見透かされているような気すらする。
「まったく、恐ろしい男だ。その身の内に、凶悪な力を
やりづらい。
まったくもって、やりづらい。
白奉の顔に刻まれている深いしわは、どこか
俺みたいな小僧の揺さぶりなんて、そよ風にも等しかったことだろう。
「……牙戟、二人で攻めるぞ」
「そんな! あんな奴、自分一人で余裕ですよ! 師匠!」
できることなら、あの不満気な牙戟のように、こっちのことを舐めてくれた方が、色んな意味でやりやすいというのに、白奉からは、少しの
「駄目だ。あれは、お前では届かない」
「……つっ!」
厳しい師匠の言葉に、弟子の目の色が変わるが、それは反発というよりは、驚愕と反省を
とはいえ、
『統斗に入電! あの趣味の悪い二人組が、ぞろぞろと怪人や戦闘員を引き連れて、こっちに出てきたわよ! 戦闘開始―!』
「了解、イエロー。あんまり無理……、というか、無茶するなよ!」
実にひかりらしい、明るい通信に心を癒されながら、俺は気合を入れ直す。
我らがエビルセイヴァーも、
こっちもまだまだ、頑張らないとな!
「……いくぞ、牙戟!」
「はいっ!」
師の声に応えて、異常な脚力で飛び上がった牙戟が、この森に生い茂っている木の
「ちっ!」
そして、その先に待つ苦難を自覚しながら、俺は牙戟の攻撃を避けるために、最短距離である前方へ、白奉が待ち構えている方向へ、走るしかない。
ここで逃げたら、なんのための威力偵察なのか、分からなくなってしまう。
「貴公の力を見せてみよ……! シュバルカイザー!」
「――くっ!」
速い!
てっきり、その場で動かず、カウンターを狙ってくるかと思ったら、重苦しい大鎧を着込んだ、老年の戦士は、予想外の速度で、むしろこちらへと突っ込んできた。
その様子は、どこか虎を思わせる
くそったれ! 予想はしてたけど、やっぱり化物か!
「ぬんっ!」
ゾッとするような圧迫感と共に、五本の爪が凶暴に生えた、巨大な手甲を装備した白奉の右拳が、
「ぐっ!」
まともにぶつかるのは危険と判断した俺は、その場で強引に踏み止まり、ぐっと腰を落としながら、上半身の動きを使って、紙一重での回避には成功したが、それだけでは、
「ふっ! はっ! ぬうん!」
見事な
一見すると、差し込める隙がありそうだが、下手に反撃すれば、確実にこちらの肉を
しかし、そんな悠長なことをしていると……!
「切り裂かれろっ!」
「ちいっ!」
再び空中へと飛び上がり、急降下してきた牙戟が放つ斬撃を避けようと、無理矢理体勢を変えた俺に、白奉の爪が襲い掛かる。
「おおっ!」
「――舐めるな!」
必殺の気迫と共に、絶妙なタイミングで放たれた白奉の拳に向かって、俺は刹那を通り抜ける覚悟を決めて、むしろ飛び込み、相手の身体に密着することで、なんとか避けることに成功した……、けれど!
「ふんっ!」
「つうっ!」
接近できたと思ったら、もう次の瞬間には、白奉にとって有利な距離を取られて、再び
ああ、クソ!
「牙戟!」
「はい、師匠!」
決して焦らず、決して無理をせず、決して隙を作らず、絶妙なコンビネーションを見せながら、堅実にこちらを攻め立てる二人の中央で、それでも俺は、相手の攻撃を避け続けているが、ハッキリ言って、このままではジリ貧だ。
ここは一つ、多少強引にでも、賭けに出る必要がある。
「……っ! ここだ!」
「むうっ!」
白奉に、隙があったわけではない。
ただ単に、俺が死地へと踏み込み、喰らっても仕方ないと開き直り、薙ぎ払われた奴の爪を、ミリ単位で躱しつつ、強引にその場にしゃがんで、そのまま四肢を地面に押し付け、全力で
「甘いぞっ!」
当然ながら、不十分な体勢で、そのまま近くの大木に背中を預けた俺に向かって、凄まじい加速を見せた牙戟が、その両手に掴んだ方天画戟を
だけど、それはこちらの想定内……、というか、それが狙いだ!
「そっちがな!」
不意をつかれたわけでもなく、予想していた攻撃ならば、どんな体勢だろうとも、回避は容易い。
さらに深く身体を沈め、左足を軸に、滑るように回転した俺の頭上で、牙戟の一撃が
「なんだとっ!」
「はっ!」
驚いた顔をしている牙戟を視界に収めつつ、俺は素早く身体を起こしながら、まだ宙に浮いている大木に向けて、左足を軸に、思い切り右脚を叩き込む。
そして、俺の蹴りを受けた大木が、グルグルと高速で回転しながら、目標に……、ここから少し離れた位置にいる白奉に向けて、突っ込んでいく。
もちろん、こんな一撃で、どうこうできる相手とは思っていないが、それでも少しの時間くらいは、稼げるはずだ。
その隙に……!
「――喰らえ!」
俺は両足を地面に下ろし、まだ目の前にいる牙戟に向けて、命気を込めた→拳を、ただ全力で叩き込む。
残念だけど、あの白奉がいる状況では、そうそう様子を見ている余裕がない。こういう場合は、排除しやすい方を排除して、より大きな脅威に、じっくりと対応させてもらうことにする。
とはいえ、別に始末するつもりはない。ただ少しだけ、あの白奉という巨大な敵と向き合うために、気絶でもしていて欲しいだけで……!
「しまっ……!」
思わず師匠の方でも見てしまったのか、明確な隙が生まれていた牙戟が、痛恨の声を漏らすが、もう遅い。
そう、タイミングは完璧……、だったはずなのに!
「ぬおおおおおっ!」
まるで、獣のような
「――っ!」
こうなったら、ありったけの力を込めて、ぶつけるだけだ!
俺は拳を握り締め、思うがままに、殴りつける……!
「ぬうん!」
「ぐううっ!」
しかし、
あまりに一瞬のタイミングだったにも関わらず、強引に割り込んできた白奉だが、その熟練の技能ゆえか、俺の拳を受ける前に、十分な姿勢を整えて、その盾のような手甲を交差させ、こちらの攻撃を、見事に防ぎ切ってみせたのだ。
……っていうか、なんだよ、あれ! 硬すぎるだろ! 対衝撃機構であるはずの、
感覚としては、防御されたというよりも、弾き返されたって印象だけれども、超常的な能力というよりは、純粋な技量のような気もする。
というか、理解不能で、意味不明なんだけど!
「くそっ!」
俺はそれでも、その反動を利用して、再び万全の白奉から、大きく距離を取る。
「……無事か、牙戟」
「……はい、申し訳ありません、師匠」
追撃は、してこない。それはこちらにとって、ありがたい選択だ。
今のうちにと、俺は無数の細かいひびが入ってしまったカイザースーツの右腕部を修復するために、意識を集中し……!
「――っ! なんだ……!」
意識を集中しようとした瞬間、突然現れた気配が、恐ろしい速度でこちらへと接近しているのを感じ取り、俺は自らの本能に従って、その場を全力で飛び退く。
「チェストォ!」
「ぐっ!」
その刹那、風のように飛び込んできた人影が、一瞬前まで俺がいた空間を、目にも止まらぬ
「あれ? 避けられちゃったかあ」
いわゆる、
「あっ、白奉さん、牙戟さん! もう、ズルいじゃないですか、二人だけで、こんなに楽しんじゃって。僕も混ぜてくさださいよ!」
剥き出しの刀を、ゆっくりと鞘に収めながら、八岐衆の二人に向かって、気安げに話しかける少年なんて、俺の持つ情報の中では、一人しか該当しない。
というか、もう残りは一人なのだから、答えは明白だ。
「八岐衆の……、
「はい、正解です。へー、色々調べてるんですねえ」
その正体を隠すこともせず、あっさりと認めながら、無邪気に笑う少年には、どことなく危うさを感じる。
とはいえ、それも貴重な情報か。
「三人目の目標と接触……、蒼琉だそうだ」
『了解! 統斗君……、気を付けてね!』
向こうも大変だろうに、こちらの心配をしてくれる
さて、ここまでは予定通り。
問題は、ここからどうするかだ。
「……丁度いいから、聞いてみたいんだけどさ」
突然の乱入者のおかげで、白奉たちとの戦闘に、少しだけ間が空いた。この機会を逃すまいと、俺は会話に打って出る。
情報収集と、時間稼ぎが目的だが、別に無視されて構わない。この状況なら、やれることは、なんでもしておきたいだけだ。
「へえー、なんですか?」
ありがたいことに、緊張感のない蒼琉は、満面の笑みを浮かべるだけで、こちらを攻撃する様子は見せない。
余裕か、それとも、そういう性格なのかは知らないが、こちらとしては、願ったり叶ったりだ。
「お前たちは、一体どうして、
この答えが聞ければ、今後の対応も、即座に決められる。
「うーん、僕としては、別に裏切ったつもりはないんですよね。ちょっとだけ、立場は変わるでしょうけど、姫様にはこれからも、お手伝いをお願いしたいですし」
それがむしろ、奴の
「はあ? そんなの知るか! 俺様は、師匠についていくだけだ!」
こいつは、ただの馬鹿だな。
「……あんたは?」
そして俺は、最後に残った、かつては竜姫さんに対して、まるで祖父のように振る舞っていたという、この寡黙な武人に向けて、問いを投げかける。
あんたが、彼女の信頼を、心を裏切った理由は、一体なんなんだ、と。
「……貴公の問いに、答えてやる義理はない」
ぽつりと、重苦しく、それだけ呟いた白奉の表情からは、奴の真意を読み取ることができない。まるで無表情で、無感情で、無感動で、機械的ですらある。
だがしかし、あの老兵の鋭い目には、確かな決意が、燃えていた。
「はっ、そりゃそうだ」
それ以上、俺は質問を重ねるようなことはせず、戦いに備える。
まあ、こんなものだろう。急場しのぎの、苦肉の策にしては、結果は上々だ。
「よしっと、それじゃ、始めましょうか! うーん、腕が鳴るなあ!」
「おい、蒼琉! 後から出てきて、調子に乗るなよ!」
「牙戟……。気を抜くな……」
さらに人数を増やした八岐衆からは、当然ながら、これまで以上の余裕を感じる。単純に、三体一ということもあるが、どうやら奴らも、互いに協力することで、力を発揮する性分なのかもしれない。
気を抜いているように見えるが、あの三人から立ち昇る殺気は、圧倒的に強大で、気が滅入るほどに、本物だった。
「さーてと……」
破損していたカイザースーツを、一瞬で修復しながら、俺は気持ちを入れ替える。もうこうなったら、仕方ない……。
少しだけ、本気でいこう。
「…………っ!」
こちらの変化に、敏感に反応したらしい八岐衆の三人が黙り込み、それぞれの得物を構えながら、俺と対峙する。
互いの殺気が混じり合い、空間が歪むような静寂が、この暗い森を満たしながら、命と命をぶつけ合う、生物として根源的な緊張が、極限まで高まる……。
「って、うん?」
その時だった。
『ふはははっ! どうした、シュバルカイザー! ずいぶんと、楽しそうだな!』
前にも聞いたことがある、
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