5-7
「うーん、やっぱり大きい……、というか、広いなぁ……」
その山は、
あれこそが、
巨大な悪の組織である
今夜の戦場である。
楽しい昼食をとり終えた俺たちは、ゆっくりと食休みをして、しっかりと気持ちと体調を整えてから、のんびりとローズさんの運転で目的地へと向かって、きっちりと安全を確認してから降車し、慎重に行動を開始していた。
あくまでも、俺たちの目的は偵察だけど、だからこそ、こちらも万全の状態で挑まなければ、話にならない。こんな局面で、被害を出すわけには、いかないのだから。
というわけで、ローズさんには、敵に発見されないと確信できる場所で、帰りの足を用意してもらいながら、俺はみんなと一緒に、八咫竜に補足されるギリギリの場所に陣取って、最後の確認に入っていた。
「今回の目的は、あくまでも、敵の戦力を
作戦決行の前には、意思統一が不可欠だ。事前に話し合って決めていたことでも、こうして全員で集まって、声を出して確認することで、目的意識を共有して、士気を高めると同時に、緊張する心を落ち着けて……。
「えーっ、そんなのつまんなーい!」
「おい、いきなり意思統一を乱して、士気を下げるんじゃない」
というわけで、このように、いきなり不満そうに頬を膨らませながら、反対意見を
まあ、こういう不満を、事前に解消するというのも、ブリーフィングでは、大事なことになるわけだが。
「そうだよ、ひかり! これはもう、みんなで決めたことでしょう?」
「はーい! わがまま言って、ごめんなさ~い!」
というか、注意した
というか、間違いない。
というか、そんなことで、無駄な時間を取らせないでほしい。
というか、話を続けよう。
「えーっと、それで……、本作戦における行動範囲は、龍剣山の周りに広がる森の中に限定される。近くの平原に出てしまうと、遮蔽物が少なくて撤退が難しくなるし、
俺は気を取り直して、隠れ家であるラブホテルにて、全員で散々話し合った上で、満場一致で決められた作戦を、もう一度、噛んで含めるように、繰り返す。
スムーズな作戦進行のためには、こういう細かい積み重ねが重要なのだ。最初から
「つまり、直接的な戦闘を行うためには、敵をこちらに引き付ける必要がある……、というわけですね」
「ああ……、ありがとうございます、
しかし、少しだけ脱線してしまったけれど、この作戦が重要で、かつ危険であるということは、みんな分かっているはずだ。
だからこそ、こうしてポンポンと正解を返してもらえると、それだけで、安心してしまうところがあるのは、否めない。
「だから、そのためには、わざと敵に見つかるっていうのが手っ取り早いけど、そこはやっぱり、慎重に動かなくちゃね」
「うんうん、
いや本当に、打てば響くとは、このことか……!
なんて、いちいち感動しているわけにもいかないので、ここは冷静に、話を続けることにしよう。
「というわけで、敵に発見される確率を上げながら、かつどんな状況でも対応できるように、チームは二つに分ける。五人揃うことで、もっとも実力を発揮できるエビルセイヴァーには、全員で動いてもらって、俺は単独で行く」
まあ、チームといっても、俺は一人なわけだけど、安全面を考慮するならば、下手に戦力を分散しすぎるよりも、これくらい思い切った方がいいだろう。
妥協はするべきではないが、敵が相当の
「
「大丈夫ですよ、
このチーム分けに、最後まで強く反対してくれていた樹里先輩が、心配そうに俺の顔を見つめているので、彼女を安心させるためにも、思い切り笑ってみせる。
だけど、これは別に、無理をしているわけじゃない。
これまでの長い経験からか、エビルセイヴァーは五人全員が揃うことで、それぞれが本来持っている実力以上の力を発揮する……、チームプレイに長けている。
それに引き換え、最初から悪の総統として、単独でも戦えるように鍛えられてきた俺は、どちらかといえば、一人で好き勝手に動く方が慣れている。
それを考えれば、別行動するならば、これが最適解のはずだ。
「それに、離れて動くといっても、作戦行動中は、シークレットスキンちゃんで通信できますから、なにかあったら、連絡を取り合って、臨機応変に対応しましょう」
当たり前の下準備として、俺は、この前支給された極薄型の通信機を、もうすでに全員に配って、装着してもらっている。その程度の備えは、していて当然だろう。
これは決して、遊びではないのだから。
「さて、これが最後の確認だけど、今回はあくまでも、敵を倒すことは避ける方向で動いていく。特に、
とりあえずは、それが理想だ。
この作戦の目的は、今後のための布石を打つことにある。
だけど……。
「とはいえ、それはあくまでも、俺たちが戦闘を、完全にコントロールできるという条件が満たされてこそだ。万が一にでも、なにか危険がありそうだったら、そのことは忘れて、全力で対処する。今回の作戦は、全員で無事に帰還するというのが、絶対に忘れちゃいけない目標だ」
理想は理想であり、布石を打つといっても、限度はある。
確かに、可能ならば八咫竜の人間全員が、無事で済むような結果を得たいし、そのためならば、多少の無茶をする覚悟もあるけど、だからといって、俺たちに致命的な被害が出ても絶対に……、なんて、言うつもりはない。
悪いけど、これだけは、絶対に譲れない一線だ。もちろん最善は尽くすけど、どうしようもない状況に
以上が、悪の総統である俺が、俺の責任で考えた、俺の決定になる。
「……それでいいな?」
「うん、大丈夫だよ!」
最後の確認を終えても、桃花の表情からは、なんの気負いも感じられない。本当に頼もしいというか、流石というべきだろう。
だからこそ、俺も安心して、命令を下すことができるのだ。
「よし! それじゃあ、始めるか!」
「ジーク・ヴァイス!」
さあ、ここからが本番だ。
「マジカル! エビルチャンジ!」
その瞬間、桃花が、火凜が、葵さんが、樹里先輩が、ひかりが、光の粒子に包まれながら、エビルセイヴァーへと姿を変える。
「みんな、用心しろよ!」
「統斗くんも、気を付けてね! よーし、頑張るよー!」
見送る俺に手を振りながら、エビルピンクとなった桃花が駆け出す。
「うーん、燃えてきたー! やってやるぞー!」
片手をグルグルと回しながら、エビルレッドこと火凜も、それに続く。
「それでは、作戦を遂行します……」
二人に遅れないように、静かに後を追ったのは、エビルブルーである葵さんだ。
「あんたの方こそ、ヘマするんじゃないわよ!」
余計なことを言いながら、笑顔のひかりが……、エビルイエローが走り出す。
「無理だけはしないでね、統斗君……!」
エビルグリーンの仮面の下から、心配そうにこちらを見ていた樹里先輩が、それでも責任を果たすために、仲間たちと共に、戦場へと向かう。
「さてと、俺も行きますか……!」
ここからは、みんなと、そして自分自身を、信じるしかない。
俺は俺の責任を果たすため、最善を尽くすため、月に向かって、ただ吼える。
「――
俺は、俺自身が最強だと信じる鎧を身に
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