4-10
「あー、太陽が
トライコーンの海賊団を倒し、
お日様に照らされて、きらきらと輝く海面に、ぷかぷか浮かぶ海賊船の甲板上で、慌ただしく出航の準備を整えている海賊の皆さんを眺めつつ、俺はのんびりと、抜けるような青空を
「ふう……」
さて、まったく天気は最高だけれど、俺の気持ちは、イマイチ晴れない。
体調が悪いから……、という訳ではない。確かに昨日の夜は、少し具合が悪かったというか、脳ミソはヘトヘトだったし、
おそらく、あの
今もなんだか、まるで
要するに、全ては自分が、新たな力を制御できるかどうか、という話なのだから。
だから、俺が気にしているのは、そのことではない。
「なんだったんだ……、昨日のアレは……」
そう、思い返せば思い返すほど、昨晩の出来事は……、あの国家守護庁の動きは、俺の中で、不自然さの塊のような気がしてきていた
そもそも、人道的な
もしも本当に、そして本気で、俺たちを潰すつもりだったのなら、昨日は頭に血が上ってしまったが、冷静に考えれば、あのミサイル攻撃は、あまりに微妙だったと、言わざるをえない。
一般市民を巻き込むなんて、正義の味方という立場を、かなぐり捨ててまで行うにしては、実際に攻撃を受けた、こちら側が言うのもなんだけど、殺意が足りていないような気がするのだ。
手段を選ばず、俺たちヴァイスインペリアルを潰そうとしたはずなのに、用意していたのがミサイル攻撃だけというのも
だけど、あれではまるで、奴らは最初から、俺たちに防がれることを前提に動いていたように、思えてならない。
「やっぱり、どうしても、作為的なものを感ちゃうよなぁ……」
奴らが人工衛星を使ってまで、ヴァイスインペリアルの本部ではなく、遠く離れた場所にいる俺たちを……、いや、俺のことを、監視していたというのも、気になる。
超感覚の警告から逆算すると、国家守護庁が、こちらに目を向けたのは、おそらくになるけれど、ミサイル攻撃が行われた直後辺りからだと思うのだが、そうなると、そんなタイミングで、あいつらが、一体なにを確認したかったのか、分からない。
俺たちが、ワープを使って戻るかどうか? いや、だったらそれこそ、監視なんてする意味はない。ワープは一瞬なのだから、消えた瞬間を見たからといって、なんになるというのだ。だったらまだ、攻撃対象を直接見ていた方が、マシだろう。
やっぱり、そこにはなにか、意図があると思うのだけれども……。
「いくら考えても、答えは出ない、か……」
想像を膨らますことはできるが、確たる証拠もないのだから、明確な解答なんて、得られるわけがない。考えても堂々巡りで、結局は
しかも、まだまだ他にも、怪しすぎる
「
「あっ、そうですか……。お疲れ様です、サブさん」
なんとなく、重苦しい思考の海に沈んでしまっていた俺に、なんとも無駄に元気な感じで話しかけてくれたサブさんの笑顔に、ちょっと救われたような気持ちになってしまう辺り、自分でもどうかと思う。
しかし、昨日は結局、この海賊船の
「大丈夫っスよ! そんなに大荷物じゃないんで、自分一人でも余裕だったっス! なので、徹夜してまで頑張って、持ってきてくれた戦闘員のみんなには、もう旅館で休んでもらってるっス!」
「うん、それはいいですね。俺からも、ありがとうございますって、みんなに伝えておいてください……、っていうか、そういう上司らしい気づかいも、ちゃんとできるんなら、先に言っておいてくださいよ、びっくりしたなぁ」
昨日の夜は、大騒ぎはあったけどれど、結局全員無事だったということで、まずは急いで当初の目的を達成し、少しでも早く、国家守護庁に対して、万全の態勢で事を構えるために全力を尽くそうと、取り急ぎマリーさんが調整した秘密兵器を、ここに持ってきてもらったのだ。
そのために、無理をしてくれた仲間たちには、本当に感謝の言葉しかない。
「はっはっはっ! そんなに褒めても、ナニしかでないっスよ!」
「うるせえよ、お前のことは、ちっとも褒めてねえよ」
このように、やっぱりサブさんは
「まあ、いいや……、それじゃあ、後は例の件、頼みましたよ」
「うっス! 謎の老婆の正体を探るんスよね! 任せてくださいっスよ! バディも呼んで、急いで調べるっス!」
気にしすぎはよくないが、だからといって
そのために、俺はもう一つの怪しすぎる懸念……、神社で出会った謎の伝説老婆についての調査を、サブさんに依頼していた。
そもそも、この地に俺たちがやって来たのは、
いや、もちろん老婆が海賊団とだけ繋がっていたというのなら、そんなことは意図的でもなんでもない、ただの偶然なのだろうが、わざわざ俺たちに対しても近づいてきたとなると、胡散臭さは跳ね上がる。
まさか、たまたまの偶然で、悪の組織をかどわかすような怪しい老婆が、こちらも悪の組織である俺たちヴァイスインペリアルに接触を図るなんて、あるわけない。
やはり、あれは俺たちの正体を知っていた上で、なんらかの意図があってのコンタクトだったと考えるべきだし、ここまで怪しい動きが重なっていると、あの老婆と、国家守護庁が繋がっていると考えた方が、自然なのかもしれない。
しかし、そうなると、俺たちは国家守護庁の思惑の上で、海賊団という新たな戦力を手に入れた上に、なにやら超常的な力を持つ、伝説の
本当に怪しいことだらけで、成果は上々なのに、スッキリしない。
なので、俺はサブさんに、少しでも判断の材料を増やすために、情報を集めるように頼んだ……、というわけなんだけど……。
「というわけで、自分、めっちゃ頑張るっスから! 特別報酬いただきたいっス! 具体的には、統斗様との熱いベーゼと……、どべらっち!」
「んなもん、死んでもやるか! おらっ! さっさと行って、仕事に戻れ!」
こうして、アホなことを言ってるサブさんが、とっても不安なわけだが、これでも真面目に働けば、ちゃんと仕事をすることは分かってるので、俺は文字通り、奴の尻を叩くではなく、蹴り飛ばして、
その勢いで、海賊船の甲板上から、見事にサブさんが落下して、悲鳴を上げる間もなく海に落ちたわけだが、まあ、あの男は、気味が悪いくらいに泳ぎが達者なので、別に大丈夫だろう。
「それじゃ~、吉報をお持ちくださいっス~! がぼがぼがぼ!」
というか、ああして着水した直後から、海岸に向かって凄まじい勢いで泳いでいる様子を見れば、心配するだけ無駄だと分かる。
さて、それじゃあ、後はサブさんたちに任せて、俺たちは……。
「よ~う、兄弟! なにを辛気臭いツラしてるんだよ!」
「いやだから、兄弟はやめて下さいよ、
再び一人になって、もう少し考え事でもしようとしていた俺に、馴れ馴れしく強引に肩を組んできたのは、この海賊船のキャプテンだった。
なんというか、昨日の一件が終わってから、ずっとこんな調子なので、かなり面倒くさい感じである。
「年齢的に考えても、無理があると思いますし……、言っても、おじさんってくらいじゃないですかね……」
「おいおい! そんな冷たいこというなよ、兄弟! いやさ、相棒!」
こちらからは、やんわりと拒絶したつもりなのだが、そんなことはお構いなしに、渦村のおじさんは、むしろ
というか、相棒ってなんだ……。
「海を自在に操る俺と、全てを見通す力を得たお前! この二人が組んだら、まさに無敵のコンビだろ? 海賊王の座は、俺たちのもんだ!」
「いや、自分はそんな称号、要らないから……。そんな勝手に、盛り上がらないで欲しいんですけど……」
まあ、つまりは、そういうことらしい。
狙っていた八尺瓊勾玉の力を、自分で手に入れることができなかった渦村は、現物である勾玉が消失したことも相まって、目的を変更し、どうやら、その力を得た俺のことを、利用しようというのか、もしくは協力させようというのか、とりあえずは、表面的にでも仲良くすることを選択したようだ。
というか、海賊的には、この神器の力は有用なのか? いやまあ、確かに、船乗りをするなら、視力が良い方がいいとは、聞いたことがある気もするけども……。
「ヨーソロー! さあ、俺たち二人で、栄光の海へと
「はいはい……」
なんというか、これまた頭の痛い話ではあるが、とりあえず、俺の超感覚的には、まったく危険を感じていないので、しばらくは……、少なくとも、八咫竜の本拠地へと攻め込むために、この海を越えるまでは、好きにさせた方がいいのかもしれない。
変にへそを曲げられても、面倒だしなぁ……。
「あっ、いたいた! ねえ、統斗! なんか準備が整ったってさー!」
「私たちも、用意ができましたので、いつでも行けます」
なんて、考え事をする間もなく、ほとほと困り果てていた俺にとっては、爽やかに笑っている
これがまさに、助け船っていうやつか。
「うん、了解です。それじゃあ、お願いしますよ、渦村さん」
「おう、ちゃんと無事に送ってやるから、任せな! いくぜ、野郎ども!」
なるほど、いかにも海賊らしい格好をした男が、いかにもな海賊船で、いかにもな号令をかけているというのは、確かにいかにも、絵になっている。
大振りなキャプテンコートを
そうだな……、その姿を、俺は見習うべきなのかもしれない。
「そういえば、他のみんなは?」
「うん、すぐここに上がってくるって! こんな船に乗るのは初めてだから、みんな楽しみにしてるみたい! ねっ、葵!」
「確かに、まるでテーマパークのアトラクションみたいですし、なんだか、ドキドキしてしまうかもしれません」
俺は火凜と葵さんと一緒に、和やかに談笑しながら、他のみんなが来るのを待つ。
そう、海賊船は三隻あるが、俺たちは全員、同じ船に乗っている。当然だ。俺たちはどんな時でも、一緒なのだから。
だったら、いくら懸念があろうとも、心配事があろうとも、俺はそれを、表に出すべきではない。いつまでも、解決できない問題に引っ張られて、踏み出すべき一歩を鈍らせるなんて、それこそ愚の骨頂だ。
さあ、気持ちを切り替えていこう。
「おっ、みんな、こっちこっち!」
どんな時でも、堂々と仲間たちを導くのが、悪の総統というものなのだから。
「よーし! それじゃあ、行きますか!」
凍えるような潮風も、荒れ狂う高波も、みんなが一緒なら、恐くない。
俺たちを乗せた海賊船が、様々な思惑が渦巻く大海を、切り裂くように突き進む。
決戦の時は、もうすぐそこにまで、迫っていた。
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