第2話 月夜の盟約! 可憐なる八咫竜の巫女!

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 呉越同舟ごえつどうしゅう


 仲の悪い者同士でも、同じ災難に直面したり、利害が一致したりすれば、互いに力を合わせて、協力することだってある。


 もちろん、敵対しているにも関わらず手を結ぶなんて、よほどの状況でもなければ成立しない、特殊なケースだ。



 例えば、地球規模の大災害に見舞われたりしたならば、思想や理念や国境や人種の壁を超えて、人類は一つになれるのかもしれない。巨大彗星が落ちてくるとか、この星のコアが停止するだとか、理由はなんでもいいけれど、共通の危機に対応するためには、手段を選んでいる余裕がないという場合だ。


 例えば、独力では倒せないような、強大な敵を相手にするとき、人は誰かに頼ろうと考えるのかもしれない。世界そのものを滅ぼそうとするような破滅主義者を前にしては、世界の支配を望む悪党共だって、手を結ぶだろう。


 例えば、もっと単純に、協力を持ちかけておいて、実はその相手を利用しようとする時もある。笑顔の裏にはナイフを忍ばせ、油断した瞬間に寝首を掻くなんて、常套手段もいいところだ。


 なんにせよ、厄介な事態こそが、わだかまりを超えた協力関係を生むこともある。



 ただ問題なのは、そんな美しい関係が生まれたからといって、全てが解決するとは限らないということか。



 船頭多くして船山に上る……、とはよく言ったもので、単純に人が集まれば集まるほどに、その総意をまとめ上げるのは難しい。それが事前に意思のすり合わせもしていない急造の関係だったのなら、尚更だろう。


 危機においても利権を得ようとする者はいるだろうし、そもそも最初から、それが目的で近づくやからだっている。敵がいる間は協力していても、その脅威を取り除いてしまえば、後に残るのは、平和と共に訪れた権利という名のパイの奪い合いだ。


 だがしかし、あくまで個人的な意見だが、俺は別に、それでもいいと思っている。


 策謀さくぼう調略ちょうりゃく、なんのその。

 裏工作でも、足の引っ張り合いでも、ドンと来い。


 船頭が多ければ、船が山にも上るなんて、素敵じゃないか。そんなこと、普通に考えれば到底不可能なのだ。どうせなら、山をも越えて、天高く舞い上がれ。



 混沌とした状況は、同時に俺たちが這い上がるための、好機でもあるのだから。



 これは、俺と、悪の組織と……、同盟の物語だ。



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