第一話
その名はエクス・ナイト・ブレイザー!!
特撮ヒーローの町として名を広めたその町で今、『正義』と『悪』がぶつかろうとしていた。
「『悪』の組織、『エヌウス』とはね。」
長いマフラーを首に回し、地に着くか着かないかという微妙なところまで下ろしている制服に身を包んでいる少女は嘆息混じりに言う。
この前、『とある組織』を壊滅させたばかりというのに、全く難儀な事だ。
ま、特撮的に考えれば、毎年のように『悪』の組織が『地球』を襲ってくるのだから、難儀でも何でもないのだが。
そう考えれば、多くの人がヒーローを求めるのは当然とも言える。
風が靡くように吹き、マフラーが風に舞う。
その風に少女は目を細める。
少女の側に銃などで武装した少女が音もなく舞い降りる。
「流石だね、希お姉さん。」
「遅いと思うけど、エリス?」
「う~ん。それを言っちゃいけないよ。」
銃などを身に付けている少女、エリスはヘルメットに付いている暗視ゴーグルを上げるように触れる。
そんなエリスとは対称的にマフラーの少女、希はかなり身軽であった。
エリスはこれから戦場に向かうんだ、と言っても怪しくはない重武装ではあるが、希は戦場というよりデート行くと言われてもおかしくはない。
それほどまで、おかしいと感じるほどの違和感がある。
「それで、剛達は?」
「『姐さん』がついてるから心配いらないと思うけどね。もうちょい『内側』だね~。」
「うーん、sigalが居ても、不安なんだけど。」
「大丈夫、大丈夫。」
エリスの言葉に希は不安を覚える。
大丈夫だと言われても実の弟である剛の無事を姉の希が心配しないわけがない。
もう一度、希はマフラーを首に回す。
「『マスター』、ご無事で?」
「俺は大丈夫。二人は?」
「ja。ご無事です。」
sigalの言葉に剛は安堵の息を吐く。
ゲームセンターに帰りがけに寄るという高校生なら誰しもがするであろう遊びにゲームセンターに来たというだけなのに、いきなり、襲われるとは。
特撮的に考えれば、現状はピンチに近いと言える。
こちらは二人で外に何人いるのか把握できてはいない。
だが、逆に言えば、外に何人いるのか把握さえできれば良いと言う事になる。
「sigal。分かる?」
「ja。お待ちを。」
そう言うとsigalの瞳に『普通』の人間の瞳ではあり得ない電子の線が走る。
「六、いえ、七名ほどでしょうか。」
「ってなると、七人倒せば良いってわけか。」
「ja。総合的に考えますと、そうなります。」
こちらは確かに二人という劣勢ではある。
しかし、こちらには人の手で生み出された『最高傑作』のsigalがいる。
男として女性に頼るのはどうかと思うが。
その時、誰かが走ってくる。
そちらをsigalが見ると、彼女の短い銀色の髪が広がるように膨らみ、瞳に先程と同じように電子の線が走る。
「待て、待て、うぇい、うぇい!」
制服を所々切っている男子生徒が何かから逃げるように走ってくる。
それが誰なのかを剛が確認すると、sigalに止める様に言う。
「よせ、sigal!!英二だ!」
「止めんな、バカッ!!sigalさん、やっちゃって!!」
「と申しておりますが、『マスター』?彼の言う通りにした方が無難かと。それに、『マスター』に安全が第一ですので。」
と、sigalは剛に冷静に言う。
どういうことだ?と剛が疑問に思っていると、英二の後ろからいかにも戦闘員であるという服装をした者が警棒らしきモノを構えて現れる。
「やっちまえ、sigal!!」
「ja。主の願い、しかと。」
それを見た瞬間、剛はsigalにやれ、と許可を出す。
その瞬間、ベギッ、ゴギッ、と音を出しながらあり得ない方向に身体が折られて、さらに折られ、小さくなったところで、ベギッ、ゴギッ、と丸められる。
「流石、sigalさん。いつ見てもえぐいねッ!!」
「主以外の言葉は分かりかねます。」
「よくやった、sigal。」
「出来て当然の事ですが、有り難く頂戴します、『マスター』。」
英二がよくやった、と言わん張りに親指を立てて、sigalに褒めてるか貶しているのか、分からない言葉をsigalに言う。
だが、sigalはちょっと理解出来ないので、要約してくれ、と誰に向けるでもなくただ言う。
やれやれ、と思いつつも剛は感謝の気持ちをsigalに伝える。
「それで、英明は?」
「あっ?どこ行きやがった、あいつ。アニメ的に考えてやべぇってのが、分からないのか?」
「エロゲ的に考えてもヤバイだろ、普通。俺でさえ、やべぇって分かるのに。姉ちゃん的に言うなら、特撮的に考えて。」
「統合的に判断しまして、ご学友は非常に危ういと判断できますが。如何致しますか、『マスター』?」
「しゃーねーか。」
「マジかよ。引き返せば、即死亡だぜ、アニメ的に考えて。」
互いに互いの意見をぶつけて話し合うがsigalの言う通り、今現在、危険な状況下にもう一人の友人は直面していると判断出来る。
危なくはあるが、もっと危ない事態に友人は直面している。
であるなら、立ち向かうしかあるまい。
今朝、父に渡されたペンダント、首から下げている『トランス・ギア』をぎゅっと握り締める。
「やべぇなこれ。エロゲ的に考えて、デッド間近じゃねぇか。」
剛達がそんなことを話していた頃、一人の学生が暗がりに隠れながら、恐怖に怯えていた。
特撮が好きな姉に鍛えられて『普通』とは言い難い友人に何故、銀髪メイドが付いているのか、という理不尽な現実に泣いた時もあった。
キャキャウフフの展開で弁当を食べているのを見て、爆発しろぉ、と呪った時もあった。
だが、今は違う。
そのハイスペック高校生の剛や剛とは比べようもないほど並程度の運動能力しか持たない英二、彼らを非常に頼りに思っていた。
今だけ、だが。
英二のそこそこバカはともかく、十久札第一高校の切り札、大平希の弟である剛にならテスト対策に勉強を教えてやってもいい、助けてくれればな、と彼ら二人の友人である新塚英明は思っていた。
だけど、あいつにはsigalさんという超級の銀髪メイド、いや、侍女が付いているのだ。
だったら、別に教えなくてもいいか。
リア充、爆発しろ。
などと思っていると、誰かを探すかの様に照らす明かりが見える。
「嘘です、ごめんなさい、爆発はしなくてもいいです、なので、助けてください、お願いします。」
小さい声で英明は天に祈るように言う。
その声が届いたからか、明かりに照らされる。
「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「聞いたな!?」
「おぅ。ったく、古典的な叫びやがって。」
「統合的に判断しまして、お先に参ります、『マスター』。」
英明の叫び声というか、雄叫びというか。
そんな声が剛達の耳に届く。
統合的に考えもしなくても、危ないということは言わなくとも分かる。
なのだが、sigalはそう言うと、ダッ、と地を蹴るように走り出す。
その瞬間、バッ、とスカートが風もないのに舞う。
スカートにどうやって収納していたのか、金属パーツが宙に浮かび、互いに互いを結び付ける様に連結されていき、長い砲身にさらに長い砲身が丸く結ばれていく。
それは銃という火器をより強力な挽き肉製造機と呼ばれる程のとんでもない化物重火器、ガトリングランチャーへと姿を変える。
ロマンという男の魂が揺さぶられそうになるゲテモノをsigalは片手で持ち、走る。
「オゥ・・・・・・・・、ゲテェ・・・・・・・・・・。」
英二がsigalの武器を見て、そんな事を言う。
いや、言いたくなるのは分かるが。
前方で明かりが揺れるのが見える。
「sigalッ!!」
「ja。主の願いを最優先に。殲滅します。」
キュイィィィン、と砲身が回り出す。
「いやな予感すんだけど。」
「sigalッ!!」
よせ、と言う前に、目の前の敵を挽き肉にすべく、砲身から弾丸が撃たれる。
ガガガガッ、と弾丸が打ち出される。
「オゥ・・・・・・・・、ヒデェ・・・・・。」
もう挽き肉になったと英二は嘆きの声を放つ。
そんな英二の肩にポン、と手を置く。
間に合うかと思っていた。
だが、間に合わなかった。
助けようと思いsigalに頼んだら、挽き肉に、見るも無惨な事になるとは。
俺が悪かった。
供養はしてやる。
と剛が思っていると。
「てめぇらっ!!生きてる野郎に、ミンチメーカー撃つたぁ、良い度胸してんじゃねぇか、おぅ!?」
英明が抗議の声を向けているのが聞こえる。
「ja。主の願いを最優先にしたのですが、しない方がよろしかったでしょうか?」
sigalの疑問の声を聞いて、剛は理解した。
剛の願い、友人である英明を助けたいという願いを最優先にしたら、重力操作では英明も巻き添えを受ける危険がある、ならば、遠距離からの攻撃で危険因子を排除しなくてはならない。
だが、手元には挽き肉製造機しかない。
どうしたものか。
うむむむ、そうか、分かったぞ!!
英明に当たる軌道の弾丸を潰して、英明に当たらないようにすれば良いのかっ。
これだったら、問題なしっ。
剛はsigalがどう考えて行動したのか、理解した。
「sigal。グッドワーク。だが、ミンチメーカーはやめて欲しかったな。」
「ja。反省点として記憶いたしました。」
そんな会話をしながら、英明と合流する。
戦闘員の残骸に剛は目を向ける。
「おぅ!?こら、やんのか!?」
「やれ、英二。」
「お?やんのか、ひで?」
「サーセンしたぁ!!調子のって、サーセンッ!!」
英明が若干調子にのってきたので、英二に英明の相手をしてやれ、と剛は言ってやる。
そうすると、英明は即効謝罪をする。
頭は良いが、運動力は低い。
とまぁ、普通に思えば、運動能力が高い英二に英明は劣るのだが、土下座に体勢を変えるまでの間の時間が普通とは考えられない程までに速いので、そんなに劣ってはいないのでは?と感じてしまう。
「如何なされましたか、『マスター』?」
と剛が何かを気にかけた様子で残骸を見ていることをsigalは問うように剛に訊く。
「いや、お前が六、七体くらいいるって言ってたなと思ってな。」
「ja。確かに申しました。」
「英二に英明、二人に襲い掛かろうとした二体。あと、少なくても二体だよな、って思ってな。」
「ja。お時間を頂ければ。」
そう言う剛の言葉を聞いてsigalは一瞬だが、動作を止め、瞳に電子の線が走る。
それが隙を生むこととなる。
新たに二体の戦闘員が現れると、sigalに襲い掛かる。
その時まで土下座のまま動かなかった英明が土下座を解き、慌てふためく。
その英明を無視して、sigalは戦闘員をスクラップにせんとガトリングランチャーの砲身を戦闘員に向け、弾丸が戦闘員達に向かっていく。
ガガガガッ、とスクラップに変わる戦闘員。
sigalはふぅ、と息を吐くが、その後ろに力強いと思わせるような筋肉質の分厚い肉を隆起させたサイの様な怪人がsigalを吹き飛ばすように腕を振るう。
「くっ。」
「ふんっ!!」
筋肉はそれほどないsigalは防御するように片腕を盾にするが、それほどで防御できれば人は機械よりも強力、いや、筋肉を鍛えれば『地球』上で最強となるであろう。
それほどまで差があるのだ。
吹き飛ばされるのは、当たり前であった。
「なんだ、つまらん。これだけとはな。」
ふんす、と怪人は力強く息を吐く。
そして、剛達に目を向ける。
「生きて帰れる、とは思うなよ?ガキども。」
その怪人の言葉を聞いて、剛は首に掛けてある『トランス・ギア』を握り締める。
父が実験のためとは言ってはいた。
だが、『もし』や『万が一』の為に剛に渡してくれたというのはバカでも分かる。
そして、今がその時であるという事も。
「アクセスッ!!」
パリィン、と『トランス・ギア』が割れ、剛の身体を包み込む。
「それはまずいっ!!」
と英二は言うが、英明は何が?と言うように英二を見る。
怪人はぬぅっ、と目を防ぐ。
「?」
誰かの声を聞いた気がして希は足を止め、振り向く。
その希に不審に思い、エリスも足を止める。
「希お姉さん?」
「いえ、誰かに・・・・・・・、剛に呼ばれた気がしてね。あの子は、いないはずなのに。」
そう言うと、首に巻いているマフラーに手を置き、握り締める。
「剛の分まで頑張らないと、あの子もなっちゃうから。だったら、私がその分、頑張ればいい話なのよね。頑張らないと。」
「無茶してると怒られるよ?」
「耳が痛いな~。だけど。」
と希は言葉を切る。
「あの子のヒーローだから、私。」
と言って笑う。
その顔をエリスは見る。
ヒーローとして戦う。
それは大変な苦労があるであろう。
だが、少女は笑う。
大きなプレッシャーが少女に掛かっている事であろう。
だが、誰もなろうとしないヒーローに自ら成ろうとしている。
家族と過ごす日常という平和を守るために。
自分の弟をさせようとする連中の目を逸らさせる為に。
エリスの様な兵器はその為に存在している。
だが、誰かのために、ではなく、国の為に戦っている。
いや、戦わせていると言った方が良いか。
そう思って、エリスを手元に置いたのだろうか。
それはエリスには分からないことだ。
だが、起こりうるもしや万が一といった事態に備えてエリスを、sigalを手元に置くというのは確かなはずだ。
現にsigalはそうした事態に備えて剛の傍にいるのだから。
そうなると、希には付けないのかという疑問が湧くのだが。
多分、必要がないほどに強すぎるからであろう。
たぶん。
きっと。
メイビー。
そうして考えていると、希は前を向く。
「さっき、『助けて』って、助けを求める声が聞こえたから、急ぎますかね。」
そう言って、数歩進んだ時に、建物から誰かが壁を壊して姿を現す。
サイの様な姿の怪人と全身を分厚い装甲で覆った誰かがそこにいた。
その誰かは二人の青年を背に怪人と対峙している。
どこに目があるのか分からない位厚い装甲に覆われている顔からは誰であるのかは理解はできない。
それに、全身が装甲に覆われているので、人であるのかも不明だ。
腕を見れば、間接がある場所はなく、肩と手があるだけだ。
繋がっているようには到底思えない。
それにふわふわと手が宙に浮いている。
人であるとは思えない。
思えないのだが。
「剛?」
それとは離れた普通の、人の姿であるはずの弟の名前を希は呼ぶ。
「なにそれ?なんの冗談?」
希は何故その姿なのかをそれに問う。
それは一瞬、希の方に顔を向け、怪人の方に視線を戻す。
「貴様、ヒーローかっ!?ヒーローはいないはずっ!?何故だ、答えろっ!!」
「ヒーローね。そう言われたら、そうかもしれねぇな。だったら、名乗るとするかっ。」
それは怪人に感謝を言い、名を告げる。
「エクス・ナイト・ブレイザー、エクス・ナイト・ブレイザーだっ!!覚えておけっ!!」
「カッコいい。流石だね。」
「だせぇ。」
エクス・ナイト・ブレイザーの名乗りに、希と青年達は各々の感想を言う。
こうして、十久札町に新たなヒーローが誕生する。
果たして、彼はどんな物語を紡ぐことになるのであろうか。
それは誰にも分からない。
物語は始まったばかり。
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