第八話 その裏側

 私──セシリア=セザーランド──は先程まで、彼──エルナさんの使い魔であるスノウさん──を、全く信頼していなかったし、頼りにも思っていなかった。


 魔力は無い、魔法の知識も無ければ使えもしない。私一人で充分だと──むしろ足手まといだと感じていた。


 マスターの命とはいえ、不満を抱いていた。何故、こんな素人と、しかも竜の撃退に行かねばならないのか、何故私一人に任せてもらえないのか。そう思っていた。


 けれど、今は違う。マスターの判断は正しかった。私一人なら今頃死んでいた。


 作戦は失敗し、竜と対峙することになったからだ。


 しかも、その竜は、岩竜と思われていたが違った。全くの新種で、竜の嫌うハズのお香を焚いても逃げず、むしろ激昂してこちらに襲い掛かってきた。


 正直あの竜が新種であり、こちらに向かって飛んできているとわかった時は生きた心地がせず、震えが止まらなかった。


 そんな私に彼は、自分が囮になるから応援を呼んでこいと、自分は不死だから平気だと、恐れる素振りも無く言い、私を逃がしてくれた。


 ただ、彼にあの竜が岩竜ではなく、全くの新種だと伝えられなかったのが非常に心残りで心配だった。









 そして今、私は彼が心配で心配で、かなり焦っている。日も暮れ始め、辺りは暗くなりつつある。日が完全に落ちてしまえば圧倒的に不利だ。竜は夜目が利く。そうなると後は袋叩きにされるのは目に見えてる。


 彼は不死だから平気と言っていたけれど、それは肉体的な話であって、壊されては治り壊されて治りを繰り返していたら心が壊れてしまいかねない。


 そうなっては手遅れだ。早く、一刻も早く彼を助けなければ……!


 私は自分の無力と情けなさを噛みしめ、更に足に力を入れて、街へと急いだ。


 どうか無事でいて……!































「情けないな。ほら、もっと頑張ってよ」

「グ……グルルル……」


 僕の目の前には情けない姿──翼をもがれ、足はへし折れ、逃げることも出来ず、ただ喉を鳴らし強がっているだけ──の岩竜が転がっていた。


 まあ、それでもこんなもんかな。


「……まあ、生き物にしては強かったよ。じゃあそろそろかな」


 僕は岩竜の方へと歩み寄る。


「グ……こ、これ……ほどとは……」

「なんだ、喋れたんだ。だったら平和的な解決も出来ただろうに。喋るのが遅かったね」

「き……貴様、この言葉がわかるのか……!?」


 岩竜は驚た様な口振りだ。


「わかるって、そりゃ人の言葉を喋ってるんだ。わかるに決まってる」

「!! ……そう……か、そういうことか……フフ、フフフフフ……」

「どういうことか僕には理解出来ないけれど、まあ、君が喋れようが関係ない。先に仕掛けてきたのは君だ。恨むなら相手の実力もわからなかった自分を恨んでね」

「フッ……俺を喰らうか……いいだろう。いずれ、真実を知る時……き、貴様はどうなるか……楽しみにさせて貰おうか……!!」

「お喋りはおしまい。異能が切れる前に死んでもらうね」


 僕は素手で岩竜の心臓を抜き出し、トドメを刺した。

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