第七話 僕の異能
さて、作戦というのは非常にシンプルで、竜族が嫌うお香を焚いて縄張りから追い出す。これが一番簡単かつ、安全に終わらせることができる。ということで僕は指示された場所に、お香をセッティングしている。
「よし、これで準備完了かな」
辺りには何というか……こう、甘いような香りが漂っていてまあ非常に気分が悪くなるような匂いだ。
「何を変な顔をしているんですか?」
「いや、これ、臭くないですか? 甘ったるくてこう……気分が悪くなるような……」
「嗅覚に異常があるかもしれませんね。私はそうは感じませんが」
相変わらず辛辣……ッ! 圧倒的辛辣……ッッ!!!
「まあ貴方の鼻の事情はどうでもいいです。さっさと始めます」
「あ、はい」
そういうとセシリアさんは両手を広げた。
すると、セシリアさんの周りに風が吹き始めた。そうか、セシリアさんは風の魔法を使うのか。なるほど、風を操ってお香の香りを竜のいる方に運んで追い払うってことか。
……って僕必要だったのかな、これ。魔物と対峙するときは二人一組って言っていたけれど、対峙しないし一人でよかったんじゃないのかな。これ絶対僕いらなかったよね。
僕の必要性を考えていると、強めの風が、竜がいるであろう方向にお香を運びながら吹き抜ける。
「これで
「わかりました」
二、三分ほど待っていると、竜であろう影が飛び立つのが見えた。
「これで終わりですね。帰って報告を……」
確かに、影は飛び立った。が、その影は逃げるわけでもなく、こちらに向かって飛んできた。
聞いたことのないぐらい、重く大きな羽ばたく音とともに、その影はどんどんこちらに迫ってくる。
「ちょ、何してるんですか!? 逃げないんですか!?」
「どこに逃げるんですか? 街に逃げてついて来たら大惨事ですよ。ここでやるしかないです。腹をくくってください」
いや、そうだけどさ、流石にあんな大きな生き物は二人じゃ無理でしょ! しかも硬いんでしょ? 岩竜って硬いんでしょ?
「来ましたよ」
「でっか……」
重厚な音、とんでもない風圧と共に目の前に岩竜が降り立った。
「グオオオオオオオオ」
「っ!」
ワイバーン型の、白い、そして大きな竜が目の前に降り立ち、咆哮した。
思わず耳を塞ぐ。うわ、うるさっ!
「で、どうやって戦うんです……?」
「っ……!」
セシリアさんに目をやると、どうやら震えているようだった。きっとそれが普通の反応なんだろう。こんなに大きな――およそ二十メートル――生き物が目の前で
「セシリアさん」
「……ハァ、ハァ、ハァ………っ!!!」
「セシリアさん!!」
「っは、な、何ですか」
「セシリアさんは逃げて下さい。僕は幸い不死だから、時間は稼ぎます」
「何を言って……」
「オオオオオオオオ!」
「岩竜は待ってくれないみたいです、早く!」
「~~っ! 必ず応援を連れて戻ります! それまで無事で……!」
そういうとセシリアさんは街の方へとすごい勢いで走っていった。あれは風の魔法の応用なんだろうか。すっごくかっこよかった。正直うらやましい。
なんて冗談もこの辺にして、僕は目の前の岩竜と対峙する。
「さてと、異能無しで勝てるとは思ってないけれど……どこまでやれるか試してみようかな」
「グオオオオオオオ!」
雄叫びを挙げながら翼についた爪で殴りかかって来た。が、まあ避けられないわけもなく、後ろに下がって避ける。
「っ!?」
が、そのままの勢いで回転し、今度は尻尾が飛んできた。ダメだ、これは避けれないな。
そのまま尻尾に打ち付けられ、体験したことのないスピードで吹き飛ばされそのまま近くの岩に激突した。
「……ててて」
手足は可笑しな――人間の関節から考えればあり得ない方向に曲がり、体のところどころから骨が飛び出ている。これは不死じゃなきゃ即死なんじゃないだろうか。
「オオオオオオ!!」
岩竜は遠くの方で勝利の雄叫びを挙げている。まだ僕は生きてるってのに。
「ふう、治ったか」
一分もしないうちに完治した。これは首が飛んでも一瞬で治りそうだな。
まあそれは後々検証するとして、まずはあの岩竜だ。多分、素の状態じゃ勝てない。尻尾でぶっ飛ばされてわかったけど、相当硬い。殴られた瞬間の質感でわかった。
「仕方ない……か」
僕はポケットからあるものを取り出し、火をつける。
これは、契約時にエルナちゃんに要求したものだ。これがなきゃ僕の異能は発動できないからね。
正直こっちの世界にもあるかわからなかったけど、幸い似たものがあり、効果もあることは実証済みなので問題はない。
大きく吸って――――吐く。
「ふぅー……」
岩竜はまだこちらに気づいていないようだ。僕を吹き飛ばした場所から移動する素振りを見せない。
……何をしてるのかって? そりゃ見ての通りさ。
タバコを吸ってるんだよ。
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