第四話 ギルドってなあに?

 さて、僕とエルナちゃんはレーナさんに連れられてギルドの本部にやって来た。どう表現すればいいのか迷うが、なんというかまあ、大きい建物だと思う。小学生並の感想しか言えてないけど、本当にコメントのしようがない。しいて言うならまあ木造で二階建てだってことぐらいだろうか。


「さあ、ついたぞ。我が国、イルヴァーナ王国のギルドの本部だ」

「わああ! すごい! すごいですよスノウさん! 普通ならギルドメンバーの上位ランカーしか入れないんですよ!?」

「そ、そうなんだ……」


 エルナちゃんのキャラが変わりすぎて未だに慣れていないが、ここに来るまでずっとこの調子だ。ギルドっていうのはそんなに人気な職場なのか?


「しかも! このレーナ=ウスタークさんはイルヴァーナのギルドランキング四位なんですよ! 女性初の一桁ランカーなんですよ! 私、憧れなんですっ!!」

「へ、へえ……そうなんだね。つまりはこの国で四番目に強いって認識でいいのかな?」


 またよくわからんギルドランキングとかいうワードが出てきたぞ……。少し落ち着いて話して欲しいけど……まあ、エルナちゃんが楽しそうだし、いいか。


「そうですよ! しかも女性限定ならこの国一番強いんです!」

「じゃあ、こう……凄い魔法とか使うのかな?」

「違うよスノウ君。私は魔法使いではないんだ」

「え? そうなんですか?」


 僕はてっきりこの世界は魔法使いであふれていて誰でも簡単に使えるものだと思っていたけれど、違うのかな?


「私は剣士だ。魔法は使えないんだ。魔力はあるが、向いてないんだ」

「向き不向きがあるんですね」

「ああ。私たちは皆、生まれたその時にこの世界を見守る女神マギア様より宝珠をもらうんだ。そして十六歳になると同時にそれを召喚の儀で使用するのさ」


 ああ、なるほど。だから召喚は人生で一度しかできないわけか。


「でもレーナさんも使い魔を召喚したってことですよね? じゃあ魔法使いになれるんじゃ……?」

「召喚の儀はね、必ずしも使い魔が召喚されるわけじゃあないんだ。私が召喚したのはこれさ」


 レーナさんはそう言って腰に下げている剣に目線をやった。


「使い魔が召喚されれば魔法使い。それ以外の武器が召喚されれば剣士というわけさ。宝珠は十六年間その人間が魔法使い向きか剣士向きかを見極め、召喚の儀で教えてくれるってわけさ」

「なるほど。でもそれじゃあ魔法使いより不利じゃないですか? 遠くからこう……魔法で攻撃されてたら距離を詰められなくないですか?」

「そこでこの召喚した武器さ。この武器にはね、それぞれ何かしらの能力が宿っていてね、持ち主が魔力を武器に送る事によって発動するんだ」

「ほうほう。じゃあ持ち主以外が使おうとしても能力は発動しないんですね」

「察しがいいな。そういうことだ」


 武器ごとに宿る能力が違うのか……僕のいた世界の異能みたいだな。


「さて、他に質問があれば答えよう」

「あ、じゃあギルドって何ですか?」

「はいはい! 私が説明します!」


 エルナちゃんが元気良く手を挙げ、名乗り出た。こんな積極的な子だったっけ……?


「じゃあ任せた」

「はい!」


 エルナちゃんは、コホン、と軽く咳払いをして説明を始めた。この咳払いは今回の萌えポイントです。


「ギルドとは、魔法使いや剣士が将来所属したい組織No1の冒険者組織です!」


 おお? また冒険者なる聞きなれない単語が出てきたぞ?


「ちなみに冒険者とは、この世界の未開拓、未踏の地域の探索や調査をする人たちの総称です! この世界は広く、まだまだ知られていない土地がたくさんあります! それを、調査し、開拓し、新たな資源を見つけ、そしてまた新たな土地を調査する! そんな冒険者たちをまとめ上げているのがこのギルドという組織なんですよ!!」


 そう言いながらエルナちゃんは背後のギルド本部を両手で精いっぱいアピールした。


「他にも仕事はありますよ! この辺で魔物が現れたときの対処や、一般市民からの依頼や王族からの依頼を受けることもできます! 内容は様々で薬草を集めたり、護衛だったり、色々です!」

「へえ~」


 要するに王族も使う何でも屋って感じの認識でいいのかな。


「ちなみに依頼を達成すれば依頼主から報酬が貰えるぞ。そしてギルドは完全歩合制。所属しているだけじゃあ食っていくことはできないからな」

「なるほど。つまり依頼や未踏地域の調査をして、報酬を受け取って生活しているわけですね」

「そうだな」

「で、ちなみに僕らに手伝わせたい仕事ってなんですか?」


 若干嫌な予感がするんだよな……こう、上手く言えないけど嫌な予感が。帰りたい気がする。いや、僕は帰りたいんだ。帰ろう。サヨナラ!


「仕事の前に私と手合わせだ。他人に聞いただけでは実力がわからないからな! 実力に見合っていればいざ仕事だ」

「だってさ、エルナちゃん。頑張ってね」

「えっ?」

「えっ?」


 レーナさんがこちらに歩いてきた……


「君に言ってるんだ、スノウ君」


レーナさんはにっこりといい笑顔で僕の肩に手を置いた。笑顔素敵でした。笑顔


「え、じゃあエルナちゃんは……?」

「何を言っている。彼女はまだ学生だろう? 保護者の許可無しにウチでは働かせられないよ」

「じゃ、じゃあ何でエルナちゃん来たん? 何でなん?」

「私、一度でいいからギルドの中見てみたくて!」


 なるほどね。なるほどなるほど。そうかそうか、エルナちゃんはそういう奴なんだな。そうかそうか。そうですか。そう……です……か。出会った頃――というか昨日――はこんな子じゃなかったのになあ……。


「……ちなみに拒否権は?」

「私は構わんが主が何と言うかな?」


 一粒の希望を胸に、僕はエルナちゃんの方を向く。頼む! 助けてエルナちゃん!


「だめです」


即答だった。そのセリフ、つまりは何だ、昨日の契約の時の仕返しか? 仕返しなのか? そうかそうか、エルナちゃんはそういう奴なんだな。


「じゃあ行こうかスノウ君。ギルドの地下には闘技場もある。存分に暴れていいぞ?」

「はあ……お手柔らかにお願いします」


 抗えぬ主の命により、僕はこの国の四番目に強い人間と戦うことになった。もう結果見えてるし、やる必要ありますか?


 これは、本当に職場体験ですか?

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