第三話 つまり職場体験
とりあえず、チンピラとエルナちゃんの間に割って入って穏便に済ませよう。
「申し訳ございません、許してやっては貰えないでしょうか」
「あぁん? 何だテメエは!?」
……使い魔、と言いたい所だが、待てよ。確かおっぱい先生
「兄です。妹がご迷惑をお掛けしたようで。どうかお許し下さい」
「ダメだなあ、許せねえなあ」
「お仕置きが必要だ、お前の妹借りてくぜ?」
そう言ってチンピラがエルナちゃんの腕を掴んだ。
これはいけない。すかさずエルナちゃんを掴む腕を掴んだ。
「まあ待ってくださいよ。こちらも穏便に済ませたいんです」
「なんだあ~? 邪魔すんのか~?」
「痛い目見る前にさっさと妹差し出せや!」
チンピラ二人はエルナちゃんから手を放し、腰に着けていた短刀を、もう一人はカットラスの様な剣を構えてこちらを見据える。
やる気マンマンなのは良いけど、ここ街中だよね? 普通に抜刀してもいいの? この世界警察とかいないの? ちょっとガバガバ過ぎない?
「す、スノウさん……」
「大丈夫。契約する時言ったでしょ? 一生君を守るって」
心配そうなエルナちゃんを背に、僕は二人と向き合う様に構える。……異能はまだ使わない。異能無しで、この世界でどこまでやれるか試せるいい機会だ。
「先に抜刀し、吹っ掛けてきたのは貴方達だ。手加減はしませんよ」
「案外、異能無しでも戦えるね」
足元には意識のないチンピラ二人。
「うおおお! いいぞ兄ちゃん! カッコよかったぞ!!」
「武器持った相手二人に素手で勝つとはすげえな兄ちゃん!!」
「やるな! すごかったぞー!!」
いつの間にか集まっていたギャラリーに囲まれていたようで、ドッと沸いていた。恥ずかしいのでやめていただきたい。
「じゃあ行こっか」
「はい!」
エルナちゃんと一緒にその場を後にした。お昼ご飯を食べに行くために。チンピラのその後は知らない。
「おっ、いたいた。あんたが噂の白い人だろう?」
僕とエルナちゃんが当初の目的のオシャレな喫茶店でオシャレにお昼ご飯を食べていると、左の頬に大きな十字傷のついた──人斬り抜刀斎みたいだと思ったのは内緒──女性に話し掛けられた。
「えーと、どちら様ですか?」
「こいつあ驚いたよ……この街でアタシを知らない人が居たとはね。アタシもまだまだって事だね!」
そう言って豪快に笑いだした。いや、本当に誰だろう。有名人なのかな?
「……ねえ、エルナちゃんは知ってる?」
「…………!!」
小声で話し掛けながらエルナちゃんの方をチラ見すると、目玉飛び出ちゃいそうなぐらい大きく見開き、手に持っていた食べかけのサンドイッチを落としながら絶句していた。
そんな僕らを余所に、女性は空いている席に腰を掛けた。
「すいません、疎いもので。僕はスノウです。こちらはエルナ、妹です。貴女は?」
「アタシはレーナ=ウスタークだ。この国のギルド本部を仕切ってるモンだ。よろしく、使い魔のスノウ君」
「……僕が使い魔って知ってたんですね」
「そりゃアタシはギルドの長だからね、面白い情報は速くに回ってくるのさ」
「なるほど。それでウスタークさん、僕を探してた様な口振りでしたが、何かご用ですか?」
「ウスタークだなんてよそよそしいねえ、レーナと呼んでくれ。で、用件だが、良かったら今日一日
……つまり職場体験の勧誘? 何で僕が? というかギルドって何するんだろう?
「ははは、何で自分がって顔してるね。そりゃ決まってるさ。アンタ腕を見込んで、さ!」
「買いかぶりすぎですよ。僕はそんなに強く無いですから」
「それこそ買いかぶりじゃないかい? 聞いたよ? 素手で、しかも魔法も使わずエモノを持った二人相手に圧勝したんだろ?」
それって普通じゃ……? それに仕事内容も良くわからないし断ろう……と、思っていると、
「スノウさん、これは行くべきですよ!!!」
と、さっきまでフリーズしていたエルナちゃんが突然立ち上がり、拳をギュッと握りしめ、凄い勢いでたちあがった。
思わずビクゥ! ってなったよ。キャラ変わりすぎなんだもん。
「主は行く気マンマンだけど……使い魔君は、どうするんだい?」
「まあ、主が行くなら僕も着いて行きますよ」
ということで、仕事内容もわからないままギルドとやらに職場体験に行くことになった。
ちなみにエルナちゃんが落としたサンドイッチは僕がキャッチして美味しく頂きました。
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