第二話 どの世界にもチンピラはいる

 僕が召喚された翌日。エルナちゃんの部屋で寝泊まりすることになっている。


 普通に考えればあり得ないと思うが、僕はあくまでも使い魔で、主の命令には逆らえないらしい。逆らおうとしても体がそれを拒む。


 契約の時に手の甲にしたキスはそういう上下関係を決める役割もあったようだ。


 ちなみにこの学園は昨日おっぱい先生が言っていた通り女子のみの学園で、全寮制となっているらしい。所謂お嬢様学校なそうな。通りで僕のちんちんを見ただけで絶叫するわけだ。


 まあそんな事はさておき、昨日の内に色々調べてわかったことがある。


 僕に宿る異能──もといた世界の不思議パワーとでも言おうか。それは正常に使えた。


 そして昨日おっぱい先生が触れていた不死についてだが、これが思ってた以上に強かった。かすり傷程度ならすぐに治るほどに。


 そしてこの世界には僕のもといた世界の異能とは似て非なる『魔法』が存在する。まあ、契約の時に魔法使いとか言ってたから予想はしてたけど。


 火、水、風、土、の四大元素しだいげんそと呼ばれる四つの属性があり、人によって得意な属性は違うらしい。そしてこの世界には電気の概念がないようで、電気のかわりに魔力がある。


 まあ魔法に関しては僕は使えないし、興味も無いのでその程度の事しか覚えていない。


 そんなどうでもいいことはさておき、だ。僕はこれから街に出かける。今日は学園は休みらしくエルナちゃんが案内してくれるというので、お言葉に甘えて一緒に行くことにした。


 服はもちろん用意して貰った(この世界のファッションセンスはもといた世界とそこまで差は無く、普通にシャツとズボンを貰った)。


「じゅ、準備出来ました!」

「じゃあ行こっか。案内よろしくね」

「はい!」


 そういうわけで、僕とエルナちゃんは街に繰り出した。







「……」


 並んで歩いていてふと気が付いた事がある。


 エルナちゃん、可愛い。普通に可愛い。


 明るい茶髪、ボブカット、少し垂れ気味の目、大きな瞳に長い睫毛。そして目測百四十九センチと小柄な女の子。僕の世界なら超モテモテだろうが……この世界の美的感覚はずれているのだろうか、彼氏はいないらしい。


「どど、どうかしましたか!? 私の顔、何か変でしょうか!?」

「何でしもべに敬語使うのかなーと思ってさ。僕は君のしもべなんだし、普段通り喋り掛けてもいいんだよ?」

「そ、しょれは……それは貴方様の方が年上ですから……」


 貴方様!? とんでもない呼ばれ方だなあ……あ、もしかして。


「僕、名乗って無かったっけ?」

「は、はいぃ……」

「うーん……じゃあエルナちゃんが名付けてよ」

「え、えぇ!! むむ、無理ですよぉ~」

「よっぽど変な名前じゃなきゃ何でもいいよ」

「じゃ、じゃあ……雪の様に白い髪をしてらっしゃいますし……古い言葉で雪を表す『スノウ』さんというのはどうでしょうか?」


 古い言葉で雪ってスノウって言うんだ……


「よし、じゃあスノウで決まりだね! 改めてよろしく」

「はい、よろしくお願いします! スノウさん!」





 その後しばらくエルナちゃんとウィンドショッピングを楽しんだ。


 お昼も近づいてきた頃に、近くにあったオシャレな喫茶店に入る事にした。


「スノウさん! こっちですよ! はやくはやく!」

「はは、しっかり前を見て歩かないと危ないよ~」


 僕とエルナちゃんはなんだかんだすっかり打ち解けていた。僕はまるで妹が出来たようで何だか微笑ましかった……微笑ましかったのだが……


「エルナちゃん、危な……」

「え? 何です……キャッ!」


 止めようとしたが遅かった。エルナちゃんは何かにぶつかり、その場に尻餅をついた。


「いてぇ! いてぇよぉ!!」

「こいつぁてえへんだぁ! 折れちまってるよぉ!!」


 ぶつかった何かは、タチの悪そうなチンピラだった。


 エルナちゃんがつるっ禿ぱげのチンピラにクッソ安い──そう、例えるならば、百均で三つで百円ぐらいで売ってそうなぐらい安い──イチャモンを付けられて、今にも泣いてしまいそうだった。


 僕は思わずタメ息をつく。


 やっぱり、どの世界でもチンピラってのはいるものなのかな。

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