第06説 月下(ゲッカ)の邂逅

 満月の夜、すえやしろが建ち並ぶ境内けいだい奧の信太しのだのもりで待っていたのは黒髪に白い耳と黒い着物に白い尻尾をやした綺麗きれいな女のかただった。よく見ると、夕暮れにすれ違った白髪はくはつの白い着物を着た若い女性に似ていた。その女の方は、こうみずからを紹介した。

『私は人間界でくずと呼ばれ、神様の一種としてあがめられている』と…。

 自分は、ある質問を自称・神様の葛ノ葉さまにぶつけた。

「では、なぜ。何故なぜ、お爺ちゃんを助けてくれなかったのですか?」

 葛ノ葉さまは、月夜空つきよぞらを見上げた後、その月光ゲッコウが反射して暗闇の中で残像のように光っている自らの瞳で、こっちを見つめながら、一言謝罪しゃざいした。

なたの祖父のけんについては本当に申し訳なかった。すでにがんが全身に転移していて、肉体的に神の手でもほどこしようがなかった』

「神様のくせに」

 自分は、つい口走ってしまった。

『“神様の癖に”か…。神様でも治せないことはあるんじゃよ。全ての神様が万能であるとは限らない』

「それなら、何故ナゼ。葛ノ葉さまは、此所ここにいるんですか?」

『この地域の土地をまもる為じゃ…』

「でも、お爺ちゃんは。お爺ちゃんは‥」

 自分は泣きたくないのに自然と泣いてしまう。どうにも涙が止まらなかった。両手で涙をぬぐう中、手に握っていた人型の式神が神隠しのように自然と消えてゆく…。

『お爺ちゃんを護れなくて、ごめんよ。ごめんよ…』

 そう言われながら、あたたかいぬくもりが自然と自分をつつんだ。自分のすすり泣く声だけが、静寂せいじゃくの森に響いていた…。

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