第8話 薔薇、進む時間と


 俺が、病院で暮らし始めてから随分と時間が経った。

俺は11歳になった。

 あの日、出会った少女も成長しているところを見ると、ちゃんと人間だったようだ(変な言い方だし、本当にそうかは分からないが)。

俺の見込み通り美人へと、成長を遂げていっている。

まだ、“可愛い”の範疇だが。


 病院内にも、各地から避難してきた人が集まり廊下や、隣の部屋から昼夜問わず、笑い声が聞こえてくるぐらいだ。

賑やかになるのは、悪いことじゃないんだが正直うるさい。


 そうだ。

良いことついでに報告すると、最近彼女が笑うようになった。

彼女———、あの少女のことだ。

まだ名前が分からないらしいが、俺たちは“ローズ”と呼んでいる。

安易すぎるかもだが、白薔薇に囲まれていたから、そうなった。

最初は本当に、無表情だったが近頃は、行動の端々で笑顔を覗かせるようになった。


 他にも、この前8歳の誕生日を病院の皆から祝福された妹の話だとか、父さんが、階段から落ちて骨折し2か月ギプス付けっぱなしだっただとか、話題はつきない今日この頃だ。

 ただ、不安もある。


 あの、怪物。

あいつが、いつ、また、どこで出てくるかも分からない。

おそらく、他に仲間もいただろう。

あいつらが、今の地球の惨状を作り出したとして間違いはないだろう。

 だが、6年間なんの音沙汰もない。

それが、逆に怖い。

いつでも、対応できるように…まぁ、11歳の俺に何が出来るのかと言いたいが。

 6年前に、使ったあの“能力”もあれから、一度も発動しない。

少女の方も、だ。

まぁ、彼女のが治癒系の能力だとしたら、誰もそこまで大きな怪我をしてないからかもしれないが。

……父さんの骨折以外。

まぁその骨折も、もちろん命には関わっていないし、今はもうピンピンしてる父さんだ。

 

 彼女に、能力のことを聞いたこともあった。

だが、「分からない」の一言で躱された。

嘘ではないようだったから、本当に分からないのだろう。

彼女の知能は年相応…より少しだけいい、と言うところか。

受け答えが多少大人びていたり、難しい言葉を知っていたりするが、頭脳は11歳のものだ。


 そして、大きな変化が————。


「ミグル!ローズ!そろそろ、間に合わなくなっちゃうわよぉ!」

「うんっ!今行くっ!!」


 何に、間に合わなくなるか。

まさか、こんなになった世界にまで、残っていると思わなかったこの施設。

 “学校”だ。

11歳からの簡易学校。

病院の隣にあった、児童館を使って大人たちが子供に勉学を教えているのだ。

 そらそうだ。

俺は、生まれ変わってここにいるから、多少は勉強ができる。

だが、まわりの子供たちは本当にただの子供だ。

だが、こんな世界でも勉強とは。

人間は、どれだけ学ぶのが好きなのだろう。


「ほら!早くおばちゃん達が作ってくれた朝食食べちゃいなさい!」

「はぁい!」


 今日が入学式ということなのだが、仕方ない、か。

………行くか。


 寝ぼけ眼をこするローズの手を引き、俺は朝食が並ぶテーブルへと向かった。

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