第7話 覚醒め、力を


 「お前、いらないよ」


 俺がその言葉を発した瞬間、体が宙に浮かぶ感覚ーー。

視界が、赤い・・・・・・?

一面の深紅の中で、そいつは緩やかに動いている。

体の両側から出た、手とも触手ともとれないモノ。

 それで、斬ったんだな。

父さんを。

 それで、斬ろうとしてるんだな。

俺たちを。


 俺は右手をそいつに向けて伸ばした。

何をすれば良いのか、分かる。

腕を構え、ただ、力いっぱい腕を振るう。


 俺の右手から、眩しいほどの輝きを放つ“線”が伸びた。


 そして、目の前の怪物は、斬れる。

真っ二つになり、ズルズルと、崩れ落ちた。

そして、割れた。

硝子ガラスのように、粉々に。

 破片は空気中に消えてゆく。


 あっけなく、そいつは死んだ。

あの怪物に死というものがあるのか甚だ疑問だが、俺は何故か分かっていた。

そいつは死んだ。


 

 「父さん・・・っ」

倒れ伏している父さんに駆け寄る。

・・・・・・!?

ーーー傷が、消えている?

浅くも、目立っていた傷は全く残ってはいなかった。

「なんで・・・?」

それに答える声があった。

「治した」

言葉少なに、そう言う。

 少女だ。

先刻、白薔薇と共に見つけた少女。


「治した、って、君が・・・か?」

不思議な少女、とはいえ少女は少女だ。

そんな力があるはずは・・・・・・。

 いや、疑問にも思わなかったが、・・・・・・そうだ、先程俺が使った力だって有り得ないものだろう。

「・・・うん」

少女は肯定する。

と、いうことは治癒の能力?

いや、ライトノベルの世界なら有りがちな、対象の時間を巻き戻す能力、かもしれない。

 

 ・・・考えるのは後、だ。

とにかく、このビルを出なければ。

崩れるかもしれないし、さっきの怪物みたいなのがまた来るかもしれない。




  ◆◆◆



 「結局、病院に来ることになるのか」

俺達は近場の病院に移動してきた。

あの後、すぐに父さんが目を覚ましたのだ。

 父さんは何も聞いてはこなかった。

少女のことも、怪物のことも。

疑問は多かっただろうが。

 病院に着くころには、空は山吹色に染まっていた。

荷物の整理に大分時間を喰ってしまったか。


 病院は、無料で治療が受けられるようになっている。

こんな世界だからお金を払える人もいないのだ。

 そのかわり、設備は整っているとは言えない状態だし、予備の備品等もいつキレるか分からない。

 俺達は全員傷はなかったし(かすり傷なども、少女が治してくれた。)、一つの個室を借りて寝泊まりすることになった。


 しばらくして、目覚めた母さんに父さんが全て説明した。

母さんも、俺には何も聞いてこなかった。


 「それで、あなたがその女の子なのね?」

壁際で、俺の横に座っている少女のことだ。

名前はやはり分からないらしい。

 少女は母さんの言葉に首を傾げ、俺を見た。


「でも、名前がないと呼ぶときに不便だよなぁ」

「そうねぇ」

じっ、と2人が俺を見る。

「ミグルが決めてあげればいいんじゃないか?」

「えっ!?」

「そうね、それがいいわよ。いい名前を考えてあげてね?」

 こ、この両親は齢5歳の息子になんて重いものを押し付けるのかな・・・・・・?


 少女の視線が痛い。

また、今度な?と、視線で訴えかける。

「全く、意気地が無いわねぇ。我が息子ながら」

「そんな子に育てた覚えはないぞ?」

 だから、俺はまだピチピチの5歳なんですけど?

2歳の妹がいるくらいの年齢なんですけど?


 「じゃ、ま。よろしくな、少女ちゃん!」

父さんがニパッと笑う。

イケメンだ。我が父さんながら。

この笑顔に母さんは落ちちまったのかな。

「よろしく・・・?」

何故に疑問系・・・・・・?

「よろしくね」

母さんも少女に笑いかけた。

「よろしく?」

 だから、何故疑問系なのか。



 その後、父さんが今日はもう遅いし、皆疲れてるだろうから、と電気を消した。

それぞれのベッドで、眠りこける。

 父さんのいびきが響く部屋の中で、ふと考える。

明らかにおかしいことが起きているのだ。

この世界には。

あの怪物に、俺と、少女が使った力・・・・・・。

 少なくとも、前世ではあり得なかったことだ。

ここは、確かに地球のハズなのだが。

 一体、何が起きている・・・・・・。


「考えても、無駄、か」

諦め、俺も目を閉じた。

流石に疲れていたのか、意識はすぐに落ちていった。











 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る