第4話 邂逅一つ、少女と白薔薇



 「行ってきまーす!!」

幼児期の子供らしく声をかけると、台所の方から母さんの高く、そして優しい返事が返ってきた。

「行ってらっしゃぁい!気を付けてねぇ!」

 

 毎日俺はこうして、外に出る。

地球という星の今を知っておきたいと思ったからだ。

 この街から、昔の面影は消えている。

といっても、イギリスあたりの街並みなんて写真でしか見たことはないが。

この現状を、過去に戻って皆に伝えても取り合ってすらくれないだろう。


 歩いていると、稀に他の人間と出会うことがある。

この国。

英国イギリス

エリア11には俺が鈴木だった頃の5分の1、およそ1200万人のヒトが暮らしている。これでも、まだ残っている方らしい。

生き残った人々は残った食料や、水源で命を繋ぎ止めているらしいが、それもいつまでか…。


 

———今日は少し遠くまで行ってみるか。


 まだ慣れない、小さな体で道路(だったであろう場所)を歩いていく。

地面は激しく起伏し、所々に雑草が生い茂っている。

電波塔のような、建造物が見えてきた直後、俺の脳裏にナニカが届いた。

「ッッ!??」

激しい痛みが頭に走る。

 耳、ではなく脳に直接響く声。

なぜか、分かった。


 眼前にそびえ立つ電波塔(のような建造物)からの“声”だ。


一歩、踏み出した。

両足が勝手に進んでいく。

意識がはっきりしているのに、なぜか抵抗する気はおきない。

それどころか、あそこに行かなければ、なんて使命感まで出てくる。


 まだ、頭の中で木霊する“声”を無視しながら進む。

建造物の前まで到達した。

扉は、押すと簡単に口を開けた。

中は暗いが汚れているのがわかる。

壁をつるが突き破って入ってきていたりと、なかなかデンジャラスなところだ。


 奥へ進むと階段があり、そこを上る。

“声”がより強くなっていく。

そして、俺は、“見た”。


 右側に位置する部屋の中で、それを見た。

周りの汚い雰囲気の中で、そこだけ異質な香りを放っていた。



 部屋の中心に置かれた棺の中で大量の白薔薇に囲まれ眠る少女を。


脳の中で、“声”が一際大きく響く。

「ぐぁっ!!」

走る痛み。

そして、俺は意識を手放した。


 最後に思ったのは、



……あぁ、可愛い、子だな。


そんな、感想だった。

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