鳥男


ひょろひょろと力なく空を支える木立に、幾重にも張り巡らされた蔦がまるで鳥かごのように森を覆っている。昼間だと言うのに薄くらい。白く垂れ下がる蔦の花房が、音もなく、萎れた花びらをまばらに降り積もらせていた。それ以外、静止画のように変化の無い風景が続いている。


「ねぇ、ルカ」


気がつくと隣にチェシャが座っていた。

ルカはあの日以来、底なし沼の泥のようにすっかり沈んでしまい。ただ部屋の中に座り込んで窓の外を眺めて暮らしていた。


「あなたが完全に鳥になら無かった事にはちゃんと訳があるのよ」


この森にはたくさんの同朋がいた。

動物に変えられた人間だ。


ただ、彼らは望んでその姿になっているそうだ。色々な理由から人でいられなくなった。もしくは人でいたくなくなった者が、この怪物の森へ迷い混むの出そうな。


「あなたの心は未だ誰かと繋がっているのよ」


誰かが彼を人の世界に繋ぎ止めているという。

それを確かめることができれば、ルカはまた人の姿に戻れるかもしれれない。


ルカの心に、再びやさしい女(ひと)の影がちらつく。


「誰かいるはずよ。思い出して」

「さぁ、私には分かりません」


その面影を振り払うようにルカは目を伏せた。

ルカのようすからその心情を測るように、チェシャはしばらく見詰め。


「思い出して、きっといるわ」


そう言って彼の膝へいたわるように前足をおいた。

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