第4話 惹かれ合う者たち
結局、ベレトは若干不満気ながらもフレイヤの嫁となることを認めた。
このことは、フレイヤが既に勇者としての戦闘能力を持っていることをベレトが認めたことでもあるが、同時に彼女は魔王の勢力に自らが狙われているため、非戦闘員の多い場所にはいられないという判断もあった。
これには王国の意向もある。流石に、竜の巫女が暗殺されるようなことがあれば、王国そのものが避難されかねない。政治的な意図もあって、ベレトを護れるだけの能力をもったフレイヤの元に嫁がせることになった。
それでベレトが暗殺されたとしても、非難されるのはフレイヤだろう。そういう意図が絡んでいることに、むしろフレイヤの方が嫌悪を示してはいたものの、ベレトと公式に合体(意味深)出来ることを考えれば、それはささいなことだと思うことにした。
ただし、王国が女性同士の結婚を公式に認めることは周囲の反発を招く危険もあるとして、あくまで彼女たちのみの特例とされた。
そのこともあり、ベレト=ディーン=リンドヴルムの名前は、フレイヤ=アイピーエースと結婚しても変わることはない。
ともかく、彼女たちは特例とはいえ正式に夫婦(?)となったのだった。
「さあ、嫁となった以上は、ベリアルに語ったことについて、とくと教えてもらおうか!」
ベレトは無論、フレイヤの嫁にされた(王国の人間はベリアルの力を垣間見て、それだけで恐れをなしていたのだ。ベリアルに対応して見せたフレイヤが頼りにされ、その代償にベレトが差し出されたという方が正しい)程度では、到底フレイヤに対する態度は変えなかった。しかし、フレイヤの態度を見る限り、明らかにその方が喜ばれている気もするのが、ベレトには複雑だったが。
「今から私の居住地で、ベット内での初戦闘(意味深)に臨もうと言う時に、勇ましいなぁ。というか、服脱がなくていいのかい?」
「質問に答えろ! あと、服は嫁が脱がない方が好みなんだろうが!」
それは適当な言葉だったのだが。フレイヤは鷹揚に頷いてみせた。
「それを理解してくれるとは……うん、今夜はとても楽しいバトル(意味深)になりそうだ」
そのフレイヤの態度にじれたベレトが、さらに言葉を発しようとした時である。フレイヤは、落ち着いた表情で語り始めた。
「魔王軍……とでも呼んだ方がいいのかな。連中の狙いが君だということもそうだが……そもそもあの事件は正直、向こう側の戦術があまりに
「それは……って、連中の狙いが私っていうことのどこがおかしい!?」
仮にも王竜・リンドヴルムの巫女にして、神託を聞くことが出来る巫女を狙うことの何がおかしいのか。バカにされていると感じて、ベレトはツッコミをいれたものの、フレイヤは珍しく真剣な表情のままだった。
それでベレトも察する。理解は出来なかったが、別に彼女は冗談で、竜の巫女を狙うことを拙いと表現したわけではないらしい、と。
「まず、君を暗殺に来たベリアルだが……普通に考えて陽動役が居ないのがまずおかしい。陽動もなしにあんなことを行うのは、利点の方が少ない」
「ベリアルは、城の警戒網を掻い潜る能力があったぞ。暗殺するなら、出来るだけ騒ぎを起こしたくなかったんじゃないか?」
ベレトはそういって反論したが、実のところフレイヤの言葉はある程度正しいことだと思える。ベリアルが襲撃に選んだ機会は、別にベレトの警備が薄かったわけではない。単独で侵入出来る利点を考えても、確かに陽動で騒ぎを起こした方が、よほど警備が手薄になるのではないか?
「あれ、単純に君が何処にいるか分かりやすい時を狙っただけなんだろうね。だから、警備が薄い時間帯や場所を選ばなかった……選べなかった、の間違いかもしれないな」
「どういう意味だ……?」
ベレトにはまだピンと来ない。改めて、フレイヤが魔導師の資格を取得出来るだけの頭脳を有している、ということを実感する。
「調査に回せる手駒も手薄なんじゃない? 陽動部隊を消費するのも惜しむようでは……ね」
「なにを言ってるんだ、竜の巫女は人間なら……」
そこまでいって、ベレトは調査が不十分だった理由については見当がついた。
「そうだよ。魔王軍の大半はおそらく異形の物。それゆえ、人間界の出来事を調査させるのに向いた手駒は、貴重なんだろうね。あまり数がいないから、竜の巫女の所在ですら儀式とかでもないと、把握することさえ困難なんだろう」
「……とはいえ、それだけではむこうの戦力不足と判断するには、早計ではないのか?」
「これだけならね」
フレイヤはそう言う以上、他にも根拠があるのだろう。ベレトはもう、反論するのは止めにした。明らかにベレトよりもフレイヤの方が、状況の分析に優れていると判断せざるを得なくなったからだ。
「あと、君を狙う理由だけど……冷静に考えてみなよ。勇者はもう選ばれていたんだ。あれが、選ばれた勇者に使命を託す儀式だったことくらいは、流石に分かっていなかったとは思えない」
「それは確かに。しかし、それが一体……」
「神託を下した巫女を狙う価値が、何処にあるのかな? あるとすれば、魔王ゲーティアの復活を阻止する神託がくだされるかもしれない、といったことくらいだけど……十分な戦力があると仮定すれば、むしろ今更勇者が決まった後の巫女の排除などしない。素直に勇者の方を排除するか、魔王ゲーティアの復活を阻止される前に、魔王を復活させようとするんじゃないかな」
「……」
ベレトは思いつきもしなかったが、確かにそれなら今代の勇者を全く狙わずにこちらを狙ったことにも、一応説明がつく。今代の勇者を倒せるだけの戦力が、今の魔王軍にはないのだとすれば。魔王ゲーティアの封印を解除するための探索、それすら行うのに困るほど戦力がないというのであれば。
「それらが出来ないことが分かりきっているから、魔王ゲーティアの復活を阻止する神託が下ることを恐れている。魔王ゲーティアが復活しさえすれば、魔王とともにいくらかの軍勢が地上に降臨する。」
「言い換えれば、魔王復活に合わせた軍勢を補充しなければ、もはや連中は我々と正面から戦えるだけの戦力すらない……?」
「そう考えれば、陽動に戦力を割かなかった理由も、自明の理だよ。もはや陽動に使うだけの戦力すら、出し惜しむ必要があるとなれば、今代の勇者よりも優先して巫女を狙って、ゲーティアの復活方法を探す時間を是が否でも確保したくもなる。向こうは、ゲーティアの復活が阻止された時点で、人間と戦うだけの戦力が最早足りない」
そういって、フレイヤは底意地の悪い笑みを浮かべて見せた。
「そう考えたら、連中の行動の全てに説明がつく。あのベリアル、そこまで愚かそうには見えなかった。それなのにああいった方法で来たということは、そういうことだと考えたわけだよ。まあ、あの時点では八割型といったところだったけれど。ベリアルにカマをかけて、核心が持てた」
「……」
「納得したかい?」
ベレトは、素直に頷いた。あの攻防の最中、陽動などがなかった違和感や、勇者に感心を持たなかったことなどから、そこまで類推するとは。
あまり認めたくないが、この女好きの女。やはり勇者としての能力は持ちあわているようだ。品格は全く足りないが。
「さて、ではバトル(意味深)を始めようか。講釈を続けていて、いい加減身体が
「せっかく、ちょっとは認めたのに、その途端これかよ! ……もういい、さっさと終わらせてくれ」
「……なんか君、勘違いしてない?」
「……? なんの話だ?」
ベレトは、出来るだけ早く子作りの実験とやらを終わらせて貰いたかったから、恥ずかしいのを我慢してこうして大人しくしていたのだ。どうせ、子作り魔法細胞とかいうのを、自分の秘部に入れられて終わりだろう。それだけでも本当は、顔から火が出るほど恥ずかしいが。
今のベレトは、フレイヤに勇者としての能力だけは認めている。それなら、その程度のことは受け入れるべきだと思っていた。のだが……
「いや、普通に朝までずっと
「……はあ!?」
ベレトは、何を言われたのかよく分からないといった表情を浮かべたが、フレイヤはむしろ楽しそうだった。
「ああ、やっぱり魔法細胞だけで終わりにすると思ってた? いや、まさかそんな、人間の女性をただの研究材料として扱うわけがないじゃない。ましてや、お嫁さんなんだよ? 朝まで愛しあうのが当然じゃないか」
「いや、いいです。普通に魔法細胞で実験材料として扱って下さい」
ベレトは真顔で言った。大体、女同士で身体を重ねあうとか、一体なんの冗談……
「いや、それじゃ私の肉欲が収まらないから。安心して。絶対に気持よくしてあげるから。それくらいの経験値(意味深)は、人生経験で溜めてあるよ」
「ふざけるんじゃ……」
ベレトはそれ以上を口に出すことは出来なかった。フレイヤが無理やり唇を奪ったからである。そうして、舌でこちらの咥内を嫐り続ける。
口から二人の唾液が絡まり合い、糸を引いて流れ落ちていくが、ベレトにはそれを確認するだけの余裕もない。逃げようにも、フレイヤの馬鹿力のせいで逃げることも出来ない。
ようやく、フレイヤがキスを中断する。といっても、ベレトの服を脱がせることに集中したかったからのようだが。
「止めろ、止めて……」
制止の声を上げるが、その制止の声は弱々しい。キスはベレトが思っていたよりずっと気持ちが良くて、これからされる行為に、胸が高鳴っていく。
(私……フレイヤにされること、期待しているの……!?)
そのことに気付いてしまって、羞恥心がさらに強まるが、フレイヤに触れられることに少しも嫌悪感が沸かないことに困惑していたし、なによりそんな状態ではロクに抵抗も出来ない。
それでも、ベレトは意地で少しでも抵抗をしようと試みる。フレイヤが与える快楽に負けて、なすがままなどプライドが許さない。
そんなベレトを、フレイヤはむしろ好ましく愛らしく思い、淫靡な表情で見つめていた。そして、長い夜が幕を開ける……
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