第2話 子作り魔法細胞はあります!

 なぜだか、この場は混乱しているようだった。フレイヤは特に気していない。気になっているのは、主にベレトが夜戦(意味深)でどのように乱れるかとか、そういったことだった。

 王竜・リンドヴルムと交信する資格を有している王家の親族は、たいてい漆黒の髪と瞳で生まれてくる。その瞳にやどる強い意志の光と、豊かとまでは言えないが、服を押し上げているのは明白なだけの双丘。そんな彼女の肉体カラダを始めて見た時からフレイヤは、彼女と夜から朝焼けを見るまで格闘(意味深)し続ける人生を歩みたくなってしまったのだ。

 他人はこれを肉欲と呼ぶのかもしれない。だが私にとって、これはまさしく愛でしかない!

「さて、返答は如何いかん?」

 ベレトは彼女の視線の意味に気付いたのか、先ほどから胸などを視線から守るようにして、顔を赤らめている。その羞恥心の感じ方も、フレイヤからすれば実に可愛いらしい。

 そうだな、彼女と夜戦(意味深)もいいが野戦(意味深)するのもいいかも……いや、彼女の快楽におぼれたうるわしくもはしたない様子を、他の人間に見られるのはいささか気に食わない……

「さっきから、私を見て何を考えているのです!」

「主に、巫女様の夜の乱れ方ですが」

「この人、今ハッキリと下世話なことを言いましたね!」

「ああいや、失敬……貴女と私の愛し合い方についてです」

「言い直せばいいってもんじゃない!」

「それはともかくとしてです。いい加減、結論を出して頂けませんか?」

 フレイヤは、不敵な笑みを浮かべながらベレトを見やる。彼女にはある程度の勝算があったのだ。今のフレイヤをはたから見ている者には勇者として不的確だと判断することは、とても容易たやすいことだろう。

 しかしだ……ベレトは竜の巫女として神託を受けて、今この場にフレイアを召喚しているのである。フレイヤを否定することは、自身が受けた神託を覆すということに繋がる。それは彼女にとって、巫女としての資質そのものを疑われかねない事態にまで発展しかねない。

 つまり、彼女はよほどのことがない限りは、フレイヤの申し出を受け入れる他にないのだ。

「っ……! そ、そうよ、そもそも女同士で結婚だなんて! しかも、子作りなんて不可能よ!」

 それはベレトにとって、渾身のツッコミだったのだろう。だが、悲しいかな。そんなその場の思いつき程度の言葉をくつがえすにたる研究成果は、既に出ているのだ。


「子供を作るための魔法細胞はあります! 後は、貴女と私で試すだけというわけですよ!」


「なん……ですって……?!」

 ベレトは色々な意味で愕然としていた。否定しようとしていた子作りの部分は、こちらには魔法細胞がある。やろうと思えば、その理論に関する論文も提出出来なくはない。しばらく執筆活動に専念する必要が出てくるが。

 結婚に関しても……これは勇者として認められれば、勇者としての特権でなんとでもなる範囲だろう。

 重要なのは、彼女が王家の親族で子孫を残す義務が有る、ということを断る理由に出来なくしたことだ。無論、彼女は王家の親族であっても、王家の直系ではない。血を残す必然性は、あまり高くはないのだ。

 ただ、フレイヤとの結婚を反故ほごにする言い訳としてなら、周囲が同調して助け船に利用することは十分あり得た。それを潰せば、彼女自身に断る有力な理由はなくなってしまう。

 計算通り!(ゲス顔)

「それに、これは王国にとっても有意義な研究なのですよ」

 フレイヤは、最後のひと押しをすることにした。ここまでは大体計算通りだったが、一気に畳み掛けておかないと、あとで邪魔が入る余地がありえる。

「はぁ?! 女同士での子作りの研究が?」

 そういった反応も、計算通りだった。可愛いな、ベレトは。


「誰が、女同士にしか使えない研究だと言いました?」


 その一言は、ベレトにとって致命的な要素だろう。それが染み渡るのをまってから、更に分かりやすいように説明を行う。

「貴女と子作りしたいのは、私の個人的な趣味です……ただ、この魔法細胞は理論上は不妊治療にも使えるんですよ。王家で血筋を残したいのに、なかなか懐妊されないお人も多いのではないでしょうか? 研究が進展すれば、そういった子供が欲しい人々にとって、まさしく救いとなるやもしれない研究なのです」

「確かに……有益な研究でしょう。それは認めます」

 ベレトはうなだれるようにしながら、それでもその言葉の正しさは認めた。事実、王家の中には血筋を残さんがための問題が起こることは十分にありえる。

 女同士にしか使えないなら、まだ断ることが出来たのに……という彼女の心の声が聴こえてくるようだ。

「最後に教えてください。どうして、私なのですか?」

「ああ、それは貴女の肉体カラダを一目見た時から……」

「私の身体目当て! なんて破廉恥な!」

「いえ、貴女を一目見てからの間違いです。本当なんです、信じてください!」

「……こ、こんな人物が勇者だなんて……」

 ベレトは薄っすらと涙を浮かべている。流石に失言だったかもしれない。

「ベレト……貴女を一目見た時から、子供は貴女に産んで欲しい。貴女と合体したいと、ずっと思っていたんです」

「私たちは今日あったばかりですよ、まるで長い間一緒だったみたいな言い方をいない! 第一、合体したいってなんですか!」

 フレイヤも、このベレトの言葉には、珍しく羞恥を感じざるを得なかった。

「そんな……こんな場所で詳細を語らないといけないなんて……でも巫女様がおっしゃるなら。つまり、まず貴女の服を……」

「誰が詳細を語れと言いましたか! 破廉恥だといっているんです!」

 まあ、そんなこんなで二人で意気投合して、合意の元に結婚生活を始めようというときだった。


「ようやく見つけた……! 忌々しき、竜の巫女ども……!」

 二人に割って入る、新たな女性の来訪者の声が響き渡るのだった。

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