女同士で子作りしたい女魔導師が勇者となったら

シムーンだぶるおー

第1話 女同士で子作りしたいんですが

 フレイヤ=アイピーエースは、やがてこの地に降臨するであろう魔王から、王国ひいては世界を救う存在、すなわち勇者になる。



 これは、王国の守護竜『リンドヴルム』の巫女として、神殿で修行中の身であったベレト=ディーン=リンドヴルムが賜った啓示である。

 この神託は、神話時代の『魔王ゲーティア』の復活を暗示させるとともに、それに対抗しうる人間の存在を示唆するものであった。

 かつての神話の惨劇の再来である。であれば、神話のような悲劇を防ぐため、一刻もはやくフレイヤ=アイピーエースを探しだす必要がある。

 リンドヴルム王国は、総力をあげてフレイヤを探そうとした。


 そのはずが、なんか普通に王国の魔導師として登録されていた。


 拍子抜けである。なんでそんなに早く見つかってしまうのか! 勇者を探す大冒険とか、そうして迎えるピンチとか! そういう山場はないのか?! 無論そんなものはない、断じてない。

 まあ、手間が省けたのはありがたい。それゆえ、ベレトを始めとする者たちはフレイヤへ王城へ来るよう召喚命令を出した。

「嫌だよ、研究がまだ進んでいないのに」

 それが彼女の返答であった。これには様々な意味で困惑する者がいた。研究のために世界の危機を投げ出すとか、そういう人間を勇者にしていいのかとか。

 だが、国王は冷静に国難に立ち向かうべく、彼女に対する切り札を持ちだした。

「勇者になってくれた暁には、研究の補助金や援助を約束しよう」

「なぜだろう、急に使命感が湧いてきました! 今から向かいます」

 かくしてフレイヤは、勇者となるべくのこのこと王城へとやってきたのである。『金、金、女』などと、色々問題あることをつぶやきながら。



 本来は国王が歓待するべきだったのかもしれないが、呼び出すさいにフレイヤ自身に若干問題を感じなくもなかったので、まずは竜の巫女として神託をたまわり、同時に王家の親族でもあるベレトが、国王の名代として彼女を見定めることとなった。

 そのベレトがフレイヤを見て困惑したのは、無理からぬことだったかもしれない。なにせ、フレイヤはどう見ても問題だらけの女性だったからである。無論勇者の中には女性もいないわけでもないから、女性というだけでそう判断したのではない。ただ、そういった人物はたいてい女性なりに、勇ましい一面を醸しだしていたはずである。

 しかしこの女……紫色の長髪でありがら光の粒子を振りまこうかというほど艶めいた髪、紫色の瞳はそれに反して知性や意志の光に乏しく、怠惰と情欲に満ち溢れている。

 一応、紫色の髪と瞳は魔力を持たない人間にはあり得ない色である。というよりは、よほど魔力に優れていないとそのような色の髪や瞳にはなりようがない。魔力の強さだけなら、全くの杞憂きゆうではありそうだったが。

 というか、ビレトは自分を見つめる彼女の瞳から妖しくもなまめかしい気配を敏感に感じ取っていた。魔導師の衣装なのだろうローブは、なぜか着崩されて生肌が見えていた。いや、それだけならともかく(?)彼女の場合は、とても豊かな双丘と、それらが織りなす谷間が垣間見えていた。

 それらをフレイヤが気にする様子はまるでない。というか、なんだかベレトへ見せつけているように感じられなくもない。

「私が国王の名代、ベレトでございます。まずは、勇者となられるご決断をされましたこと、まことにありがとうございます。その英断に報いるべく、貴女様が正式に勇者となられた暁には、この国から貴女様への協力を惜しまないことをお約束いたしましょう」

 ベレトはそういったものの、このフレイヤを勇者とすることに危機感を感じていた。なんだか、嫌な予感がする。気のせいだとは思えない……

「では、一つ確認させていただいてもよろしいだろうか?」

 フレイヤがやる気のない挙手をして、その場にいるものたちの注目を集めながら、発言の許可を得ようとしている。一応勇者として迎え入れた以上、断るわけにはいくまい

「なんなりと」

 ベレトはそういったが、なんだかこの女の発言を今すぐ止めたくて仕方がなかった。彼女に見られていると、なんだかゾクゾクする。

「勇者になった暁には、なんでもするといったよね?」

「そのようにはいっておりませんが?」

「しかし、この国で出来る範囲の協力なら、なんでもするといったよね?」

「捏造は止めて頂きたいのですが。なんでも、とは申しておりません」

「だが、そう解釈出来る発言と私は受け取ったが?」

「……内容次第です。そもそも私はあくまで国王の名代ですので。国の根本に関わるようなことには、即答できかねます」

 ふむ……とフレイヤは納得した様子で一呼吸をおいた。やはり今すぐこの女の発言を止めさせるべきだ。少なくとも、人払いをしたほうがいい。

 だが、そのベレトの判断はあまりに遅かった。すでに、手遅れだった。


「私の研究を、君の肉体カラダで手伝ってほしい。それが、私が勇者になるための最低限の条件だ」


(……おい!)

 その発言で、周りの空気が変わる。とはいえ、大部分は困惑している。彼女の発言の意味が分からない者が大半だったからだ。ベレトでさえ、事前に彼女の研究内容を調べなければ、おそらくその言葉の意味を理解出来なかったろう。

 そして、ようやくベレトはいままでの感覚も理解できた。この女、最初からビレトだけを見ていた。ベレトだけを、欲情で濡れた目で見つめていたのだ。今更ながら、羞恥で頭が沸騰ふっとうしそうになる

「いや、これだといささかロマンチックさにかけるな。もう少し、洗練された物言いを選ぶべきでした」

 いや、もういい。もう止めろ、止めてくれ! というベレトの心中など、当然考慮にいれるわけもない。

 フレイヤは叫んだ。王宮の一室の、人垣の中心で。たわけたことを。


「君を私の嫁として迎えたい。君と子作りがしたくて、仕方がないんだ!」

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