「やっぱ俺、〇〇になるわ」

緋威 シン

現実編

第1話「やっぱ俺、“自宅警備員”になるわ」



―自宅―



私は結里花ゆりか


中学校の時から憧れだった兄の通う学校[碧埼学園あおざきがくえん]に進路が内定。


1年という短い時間だけど、憧れだった兄と高校生活を送る事ができる。


そう思っていたのに…。





「・・やっぱ俺、“自宅警備員ニート”になるわ」



「…え?」



「な、なんでいきなりそういう話になるのよ!」



私は驚きのあまり、兄に訊き返した。



「別に、大した理由はない」



​「“なりたい”から、なっただけだ」



なんだ、その下らない理由は…。



「それに、自宅警備員ってさ、名前からしてカッコイイよな?」



「ぜんっぜん!かっこ良くもなんともないわよ!」



「それに“自宅警備員”って、ただの“ニート”だよ?」



「私は今のお兄ちゃんより、前のお兄ちゃんの方が好きだった」



「なのに・・・」



​「なんで自分勝手に物事を決めちゃうのよ!?」



「結里花…」



「私は、前のお兄ちゃんに憧れて…」



​「“難しい”って言われてた碧埼学園受けて、やっと合格してさ」



「これで、私もお兄ちゃんと一緒に、また学校生活が送れると思っていたのに…」



私は泣きながら兄に訴えた。


兄はしばらく黙ったあと、私にこう言った。



「…これは、誰かが決めたものでも、決められたものでもない」



「俺自身が決めた事だ」



「学校で会えなくったって、家族でいられるうちは…」



「いつでも、ここで会えるだろ…?」



私は、呆れ返った。


「‥バカなの?」



「学校で会えなきゃ、意味無いのよ!」



「何の為に‥」



「何の為に、私は…」



「お兄ちゃんと同じ学校選んだと思って…」


私は悲しさと、虚しさと悔しさから、溢れだす涙を堪え切れず、兄の前で泣いた。


「………」



「…ごめんな」



「俺、バカだからさ」



「お前の気持ち、全然わかってやれなかった」



「中学ん時も、ずっと居られる環境が当たり前だと思っていた」



「でも、いざ高校入って、お前が笑ってる顔見れなくなった時、もうあの頃に戻れないんだなって、思ったんだ…」



「正直、俺もお前と同じ気持ちだった」



「一緒に居たいって思ってた」



「でも、今はもう…」



「“自宅警備員ニート”になるって決めたから」



「もうお前と、学校で一緒になることはできない…」



「だから、バカだって言ったのよ…」


​私は掌で涙を拭いながら、兄に言った。



「あぁ、俺はバカだ」



「いや、ただのバカじゃない。大バカ者だ」



「‥こんなお兄ちゃんでも、お前は俺を愛してくれるか?」



​兄は真剣な表情で私に尋ねてきた。



「…無理って、言ったら?」



「そん時は、俺はニートをやめる」



「ニートをやめたら、どうするの?」



「ニートをやめたら…」



「ニートになる」



「もう、意味わっかんないっ!」



「やっぱり、お兄ちゃんなんか‥」



「だいっ、だい、だい大っ‥」





​「大っ嫌いっ!!」




私は兄の前から走り去った。



「お、おい‥」


兄は私の後ろでなにか言ってるけど、私はそれを無視して、部屋に閉じ篭った。


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