4.巨獣<sideソータ&ウルガ>
イギーとシーアと別れ二人は急いで左手へと回り込む。
幸い、最近は雨が降らずにいたので地面は乾き、走りやすい。ウルガの速度はイギーやシーアと比べるといささか劣るが、それでも最高時速50㎞は出るのでとても速い。一般道路を走る車より少し早いくらいだ。これを体が多少違うとはいえ、人型で出しているのはある意味異常だろう。
もちろん、今の緊急事態で多少混乱しているためその速度は出せない。それでも、結構な速度が出ているのでやはりすごいといえるだろう。
しかし、最も恐ろしいのはソータで、今までの生活で培った身体能力だけでウルガについていってるのだ。彼の体は間違いなく普通の人であるはずなのにだ。
さらにいえば、この状況でもやはり本人は焦らない。どこか遠くから自分を見ているような感覚でこの状況を整理しながら走っている。
(山のような体…あの山全体が巨獣の背中とすると…)
ソータの頭の中ではある動物の形が浮かんでいた。それは今でいう
もともと名前というものはある種族が別の種族を指す時に使うものであって、名前などないのだろう。なのでソータは自分の中でこの動物を『巨獣』と呼ぶことにした。
さて、今の問題は戦うのではなく、逃げる方向を探すことだ。下手に刺激すれば、この動物はおそらく周りの生き物を食べるのではないか、ソータはそう思った。
そうでなければ、巨獣はその場で眠っているだけでいいはずだろう。もしかすれば、別の動物が巨獣を刺激したのかもしれないが、どちらにせよ、目にすれば食うのは明らかだ。
たとえ抵抗しようともこの図体だ。その大きな足で踏みに来られれば、自分たちではあっという間に追いつかれて終わりだろう。
気づかれずに後ろに回り込んで逃げる。これ以上の策などありはしなかった。
イギーとシーアのほうも何とか頑張ってくれるだろう。問題はどちらかと言えばこちらで、ウルガは本調子ではないうえにおそらくソータでは力不足だ。ばれれば一瞬で終わりだろう。
そんなことを考えながら、ウルガに注意をしつつソータは、いまだ少しずつ体と思われる山を浮かす巨獣から10mほどの距離を維持しつつ、回り込んでいく。
約5分ほどウルガとともに走り続けていると、足らしきものが見えた。どうやら、自分たちはちょうど足に近い位置にいたらしい。
ソータと同様に足を確認したウルガは動物だと確信でき安心したのか、ソータに提案する。
「ソータ、足を見るためにいったん近づこう」
「りょうかい」
気づかれてはいけないという緊張感を持続しながら、2人は巨獣の足に近づいていく。動物の足とは基本的に進行方向に対して出っ張っている形が多い。これは地面を蹴りだすために必要なものだから、という考えが多い。もし足跡が円の形の動物がいれば、歩きにくさでこけてしまう可能性が高い
もちろん、この巨獣があまり動く必要がないといえば、それまでではあるが…。
2人は少しずつ距離を詰めていく。もしこれで足の向きがウルガ達が進んできた進行方向であれば、おそらくばれる可能性がある。その際は急いで逃げざるを得ない。
緊張が高まる中3mまで近づいた地点で目のいいウルガが足を確認する。ソータには見えないので、ウルガの確認を待つ。
「ん…あれは……」
目をぐっと細めて何とか確認する、足は円柱型に爪のようなものが3本生えており、その向きはソータ達の進行方向と逆になっていた。
それを確認したウルガは安心とばかりに一息つき、ソータに爪のあった方向を指さしで伝える。
「ソータ。爪はあっち側にあったよ」
これでソータ達の進行方向側が後ろだということはわかった。ならば、あまり焦らずに逃げればよいか、ソータはそう思った。
(問題はイギー達側に頭があるということだけど…)
もちろん、イギー達はソータやウルガからしてみれば強い。今でこそ、イギとソータが狩りをしてくれるためシーアは狩りに行くことはないが、彼女がイギーと生きているころはイギーと同じくらいであったらしい。
曰く、イギーがどちらかと言えばパワー型で、シーアは技術型であった。イギーは力で押さえつけることができるが、シーアはそこを力のかけ方の工夫で少ない力で倒す。ある意味では対称的な二人がよくむつみあったものだとウルガとソータは感心している。
そんな話はさておきとして、ウルガとソータはどうするか考える。後ろ側に回り込んでいる以上ソータ達は急いで逃げる必要もない。なので、ここでイギーとシーアが足を確認次第やってくるのを待つのもありだと考えている。
「とりあえず様子見して元の場所に戻ってみる?」
ウルガは急いで離れるよりはいざとなった時のフォローに回れるようにそう提案する。ソータ的にもそれをしたいところだが、自分たちではむしろ足手まといのような気がしている。ウルガも強いには強いが、あの2人には及ばないだろう。もちろん、ソータ自身も含めてだが。
しかし、このまま離れるのも…と考えウルガの提案に乗ることにした。
「じゃあ、走らずに元の距離に戻って歩きなが————」
その時、巨獣が土煙を上げながら、明らかに大きな動きを見せようとする。
それは早いわけではないが、動きの重みがあり、あたれば死ぬであろうことが簡単に想像できた。もちろん、それはソータ達を狙ったものではないもののそのままいれば巻き込まれて死ぬだろう。
「ウルガすぐに下がって!」
「…っ!わかった!」
いきなりの震動で一瞬呆けたウルガにソータが呼びかけで喝を入れる。
二人は急いでその場から離れる。そして、ソータは思考をまとめる。
(今までゆっくりと動いていた巨獣が急に…まさか、イギー達が見つかったか…?)
ソータは嫌な予感に背筋を凍らせながらウルガにイギー達のほうへ行くか確認する。
「ウルガ、イギー達のほうへ行こうと思うがどうする?」
「行くよ。誰も死なずに逃げ切るんだ…!」
即答だった。もとよりソータも自分を育ててもらった恩がある。逃げるわけがなかった。
刻一刻とすぎる時間に焦りながら、2人はイギー達の元へと走る———。
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