3.異変

 ソータという新人類が生まれた地球はそのほとんどが森でおおわれ、酸素濃度が多くなっていった。その結果、山にも草木が生え、砂漠にも木が生え、ほとんどが緑化した惑星へと変わっていった。

 雪山や、南極北極などの雪や氷が地面を占めている辺りにはさすがに無理ではあったものの、それ以外の土、水、日光がそろうところにはいやおうなしに生えた。海の近辺は木が生えない代わりに海藻類や、コケが生える。海の中には海藻類、深海はさすがに生えてはいない模様であった。


 さて、地球がそんな変化をしたり、すれば虎人族に限らず、動物にも様々な変化が訪れる。そう、それが例えば仮想であった動物を作り出すこともありうるのだ…。





 巨大ギギをソータが拳でぶん殴って仕留め、イギーがその晩説教を食らった日から一週間ほど。

 ソータたち一行は再び団体で移動を開始していた。

 

 時期は夏くらい、道中にはウサギによく似ているが、頭に角が生えているいわゆるアルミラージを道中捕まえ、それをウルガに小切にするのを手伝ってもらいながらソータが木を肉に刺して食べ歩けるようにした、いわゆる串を食べながら一行はあたりを歩いていた。

 こうやって食べながらあたりを進んでいくという発想は珍しいものとして3人から感心された。もちろん、ソータの奴は火を通して食べている。


 赤ん坊であった当初は食べやすいものをということで肉をミンチにしたものを水で飲み込まされた。ソータ自身は覚えてないが、よくそれで生きていたな、と大きくなったソータは思う。物心ついた時でさえ、肉の生臭さには辟易としていたので、よく吐かなかったものだと思っている。

 もちろん、肉は生で食えないという話をすると3人は顔を仲良く同時に傾けていたが、火を通すことに別に文句は言わなかった。曰く、好き嫌いはほどほどに、だそうだ。生じゃ食えないのは好き嫌いじゃないのだけれど…と心の中で呟きながらも、焼くことを許してくれたことには感謝しているソータであった。



 ウルガ達一行が歩いているあたりは、日本のように時期によって湿気も気温も天候も変わるところだった。そういうときに一番困るのは実は夏だった。冬だと思った人もいるだろうが、動物たちの様々な変化により、冬にも動物は活動ができるようになった結果、食料となる動物がそこらを歩きやすいということだ。

 では、なぜ夏が一番つらいかというと、飲み水…ではなく雨だ。

 夏の雨はほかの時期の雨よりもひときわつらく、そのおかげで地面がぬかるみ、しまいには滑ることが多い。ウルガ達は爪を使って地面をシューズでいうスパイクと同じように勧めるのだが、それでもだ。

 その感触はまるで水をけってるような感覚らしい。ソータはどちらにせよ、ぬかるむだけで移動がつらいので、その感覚はわからないが。


 その時期も過ぎ、サンサンと照りつける太陽を森の植物たちが吸収し喜ぶ中、ソータ達はあたりを見回し、アルミラージ、通称ウィルプの肉を食べながら次の獲物を探すのだが…


 「んーさっきのウィルプ以降なんもみつかんねぇなぁ」


 「そうだねー前に来た時は昼にギギとウィルプ、夜にはオルフがいて、昼も夜も大忙しだったのにねー」


 イギーが全くの獲物の少なさに文句を言う。そこにウルガも同じ感想を漏らす。

 オルフとは狼のことだ。ただ、このオルフは私たちの浮かべる狼とは少し違って羽が生えている。そのため、その俊敏さと機動力の高さから夜にここを通った定住地をもたない移動系の種族はよく食われることとなっていた。

 もちろん、それは自衛手段を持たない種族の話であり、ウルガ達は逆にオルフを仕留め、おいしくいただいたそうだ。


 たまーに出てくるウィルプを仕留めながら、一行がまっすぐと歩くと急斜面が続く道が目の前にあるところに出た。


 おそらく、山だろう。


 なぜ、おそらくなのかというと、山の斜面にも大量の木が生えており、視界が悪いために上がよく見えず、丘でした、なんて話が少なくないからである。おまけに木から落ちた葉っぱのおかげで地面が分かりづらく、崩れやすい足場などが分かりにくいために、基本は避けて通るのだ。

 もちろん、イギーも山だと考えたようで、


 「ん、右にまわるぞ」


 と、指示を出し、全員で右手に回ろうとする。安全面を考えればこちらのほうが確実なのは歴然だからだ。ソータ含む3人もイギーの指示に異論はなく、そのまま右に回ろうとした。

 しかし、イギーは思う。


 (こんなところに山なんてあったかぁ?まぁ、ただのド忘れかねぇ…)


 昔、近くを通りかかった時は近くに山なんてなかったと思うのだ。しかし、目の前にこうやってある以上、もしかしたら勘違いかもしれないと思い直し、特に気にしなかった。選ぶ行動は特に変わることはないのだ。

 


 そう、これがであれば、それは正解であった。



 突然、地響きが鳴り地面が揺れ、あたり一帯の木々がざわざわざわと音を立てて揺れる。少なからず近くに残っていた動物たちも突然の地揺れにあるものは混乱して動き回り、あるものは茫然と体を起こして呆けている。

 ウルガ達も突然の地揺れですっかり混乱し、あたりをきょろきょろと見回してばかりいるのだが、ソータだけは冷静に頭を両手で覆い、四つん這いになって地面に伏せている。そして、そうした対応を終えてから混乱しているウルガ達に気付き、


 「みんな伏せて!頭上から何か落ちてきたときのために頭は守るんだ!」


 「お、おう、わかった!」


 「わかりました!」


 「わかったよ!」


 大声で指示を出してウルガ達もそれに従う、そのおかげで上から揺れることで落ちてくる枝などに耐える。指示のおかげでひとまず大きなけがをしないだろうことに安心した一同。その中でウルガがソータに疑問を投げかける。


 「ソータはなんで普通に対応できるんだ?初めてだろ?」


 ここら一帯では地震が少なく、頻度は1世紀に2回くらいのものでその強さもあまりない。なので、ここら辺の動物はもちろんウルガ達もこんな地震を体験したことはない。

 その中でソータが冷静にこれに対処したことは変な話であった。

 その質問を受け取ったソータ自身も、なぜ、自分が体験したことのないこの地揺れに対してこんなにも冷静に対応できるのか、そこらへんの一切が分からないままではあったが、こうしたほうがいいという自分の感覚に従った。その結果うまくいっただけの話である。


 「いや、なんとなくこうしたほうがいい気がしてさ。うまくいってよかったよ」


 なのでありのままに伝えておく。ウルガはそれで納得できたわけもなかったが、信頼する家族の一員として、そして、ソータの性格をかんがみてその言葉で納得することとした。

 

 安心した一同、しかし、変化はそれだけでは終わらない。






 。そして、その動きは上へ、すなわち






 重々しい地響きがあたりに響き渡る中、目の前にあった急斜面が徐々に徐々に持ち上がっていく。その結果見えるのは、地面と地面に間ができ、その先が見えるという光景。はっきり言ってこれは異常であった。ソータはもちろんのこと、ウルガ達も見たことがないことが目の前で起こっている。

 地面に伏せながらそれを見ているシーアが再び混乱、しかし、どちらかと言えば茫然とした様子とも受け取れる顔で言う。


 「なんなの…あれ……?」


 地揺れだけでも未知な現象であるのに、これは異常なことだ。彼らの常識からすればありえないことが立て続けに起こっている。

 そんな中で一人冷静に状況を考えている少年がいる。


 ソータだ。


 (普通に考えて、山が浮くわけがない…なら、これは山じゃなくて動物…それも巨大で、ここにはめったにあらわれない…なんでいるかはわからないが、動物ならどこかに足があるはず…)


 そこまで考えてソータは、いまだ地揺れが収まらない森の中、3人に自分のしようとしてることを伏せながら伝える。


 「3人とも、聞いてくれ」


 呼びかけで3人がハッと意識が戻り、ソータのほうへ顔を向ける。


 「俺はこれが何かしらの巨大な動物だと思う。だから二手に別れて右左で走って足を探すんだ。あと、足を探す際に絶対に近づかないで、刺激を与えないで。後、おそらくどこかに顔があるだろうから見られないようにしてね」


 「そんなことして何の意味があるんだ?」


 イギーがソータの指示に疑問を浮かべる。


 「もし、この山が巨大な生物であるなら、こうやって体を浮かせたからにはどこかに動くはずだ。なら、少なくともこの生物の後ろ側に逃げれば下手に死ぬことはないだろう、って話だ」


 ソータは自分の土壇場で考えた案を説明する。もちろん、この状況下でも割と落ち着いている自分をソータは奇妙に感じる。


 ひとまず、3人がその案に乗り、イギーとシーアで右へ、ウルガとソータで左に走ることとした。

 もちろん、目的はあくまで足の確認だが、頭かしっぽどちらかを見た時点ですぐに逃げること。しっぽならそのままこの生物の後ろ側へ、頭ならすぐに反対側へ。また、しっぽがある動物かはわからないので何も発見できなかった場合はこの集合地点へ戻ることとした。


 いまだ地揺れが続く中、ウルガ達もなれないことでふるえているが、このままじっとしてても状況は改善しない。もしかすれば、このまま地面に伏せてれば助かるかもしれないが、動物の本能として、また、ソータの直感が今動かねば終わると告げている。

 


 やるしかない、そう思いながら一同は行動を開始した。

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