2.新人類

 長い長い年月が流れた結果、地球の大陸はほぼすべてがつながった。そこにはかつての国や文化は存在しなくなったために、旧人類の一部が考えた『一星一国ただ一つの国』がそこにはあった。もちろん、動物の中では縄張り意識もあるのだろうが、それはあくまで動物それぞれが思っていることで新しく生まれた少年にはない。


 さて、このうっそうとしたジャングルにただ一人いる新人類の少年、黒い髪に黒い目をしたいわゆる日本人の見た目をした赤ん坊は裸でただ泣いているのだが、この少年はなぜかただ一人であった。


 もともと、動物の違いは進化の過程で分岐する事で生まれる。

 人類でも似たような例がある。例えば、Aというごく普通の一般の人にはできないことが、Bには当然のようにできる。これはBにとって周りの環境から、これができなければいけない、と無意識でも考えた結果得られた進化といえる。つまり、この時点でBはAという普通の人類像から離れ、Bという別の人類の可能性ができるのである。もちろん、これが、その動物の特技か、種類としての技となるかでBという種族が生まれるかは変わる。

 結果的に旧人類は幾度と種の変化の道をたどろうとしたが、その人たちはごく一部という扱いとなり、結果として旧人類の大部分は何も進化することがないまま、その姿を消した。


 話をもどすが、このように進化の過程で別の種類が生まれる以上、なんとなしに新しい種族の一個体ができるわけはないのだ、何らかの家族構成から生まれるためこれは変な話なのだ。

 しかし、その少年は結果的に一人で生まれたために、誰も世話をしてくれない。このままついえる存在であると思われる。




 が、ここにきて、人類ではないが、人類に似た別の動物が姿を現すこととなる。




 ガサガサと森に生える草木を分けてやってきたのは、女性によく似た人型の動物。ただ、彼女は人ではなくあくまで人型であった。ではその違いは何か。


 彼女の耳は横にはなく上に会った。その耳はネコ科の虎を思わせる。


 彼女の手足は五本指ではなかった。その手は地面を強く駆け抜ける虎だった。


 そして、一番目につくのは全身を覆う毛皮だ。黄色と黒の毛皮。ただし、それは背中や足、肩などの後ろだけで前部分には人間のような少し黒いの肌があった。

 胸は小さく、へそがあり、そこら辺に関しては人とは何も違いはなかった。胸には申し訳程度に動物の毛皮が巻かれており、下半身にも同様に毛皮が巻いてあるだけだ。

 黄色の短い髪もあり、黄金色の目もあり、鼻もあり、口もある。しかし、人類ではないのであった。


 また、この女性、というより種族は人より少し長いサイクルで生き、寿命の平均は人が100年とすれば約180年前後だ。なので、この女性は生きた年数は27年くらいだがその見た目的には15歳くらいだった。



 

 さて、彼女がなぜここに来たかといえば、泣き声が聞こえたからだ。獲物ならばしとめに来ようと思ったのだが、どうやら捨て子だということは彼女でも見てわかった。

 しかし、相手は自分とは別の種族。育てるか悩んだが、結果的に彼女はその子供を拾うことにした。


 「がうっ」


 これが新人類の少年、ソータと虎人族の女性、ウルガの出会いであった。





 そして、時は過ぎ。


 ソータは旧人類の使っていた言語の日本語を虎人族も使っていたことにより、意志疎通に変な問題も発生することなく、彼女の種族とともに暮らしていた。


 「ソータ、ギギの肉がまだあるけどたべる?」


 「食べるけど火は通すからね?ウルガ。だから生肉を口に押し付けないで?」


 ウルガが手に乗せた肉をソータの頬に押し付け、ソータがうまく身を引いてそれを受け取る。


 「はっはっは、ソータはひ弱だなぁ?生で食うからうまいのになぁ?」


 「イギーはその場で食べすぎ!ちゃんと持って帰ってよね!」


 渋めの顔をしたウルガと同じ虎人族の男が笑いながらソータを叩いて言うのに対し、ウルガが文句を言う。

 太陽が天高く昇っている頃、ソータは昼食をウルガを含む虎人族と一緒に火を囲みながら食べていた。

 もともと虎人族に定住という概念はなく、もちろん、同族意識などほとんどない。あるのは家族という認識だけだ。同族に会えば、軽く手を振り上げあいさつし、情報を交換したらわかれる程度だ。


 「そうは言ったってお前らと合流する間に時間たっちまうから仕方ねぇだろ?俺はいちばん新鮮な時に食いたいんだから」


 そういって朗らかな笑顔を見せる彼はウルガの父に当たるイギー。種族的な特徴のもろもろは一緒だが、彼の髪はくすんだ金色のツンツンとした髪型で、左目には昔の獲物によってつけられた傷が縦にざっくりと入っている。


 「まぁまぁ、ウルガ。イギーが人の話を聞かないのはいまさらだから落ち着いて、ね?」


 ゆったりと仲裁をしているのはウルガの母にあたるシーア。彼女は茶髪のくせっけのあるショートボブで、目も茶色、その目つきやたたずまいはほんわかとしており彼女が話すと空気が和む。


 「よく考えてよ、シーア!むしろこれだけ言って直さないのは病気だと思うのよ!」


 シーアの仲裁にウルガが文句を言う。その間にもソータは目の前のたき火でその辺にあった木を使ってギギの肉を挟み、火の上にかざして焼いていく。ギギの肉とは昔でいうところの猪だ。進化の過程で同じ道をたどった動物も少なくなく、結果的に同じ動物が生まれているのだが、言語が動物ごとに違うため、猪とはよばない。

 ウルガたちと一緒に過ごしているソータも例にもれず、猪をギギと呼んでいる。


 また、動物は進化の途中で火を恐れないものも生まれた。もちろん、怖がるものもいるが、虎人族は怖がらない例の一つだ。おかげで周りの食文化柄、肉が多いが、ソータは火を通すことができる。いくら、新人類だからと言って火を通さずには食えない。

 程よく焼けたのを確認して木で挟んでいたギギの肉を自分のとこまで持ってくる。焼けたばかりのギギの肉は熱さで直でもてないので、ひとまず、近くにある木の大きな葉っぱの上に乗せ持つ。葉っぱに置くと焼いているときに落ち切らなかった肉汁が葉の上にたまりとてもうまそうだ。そこにもう一枚ほど近くのはっぱを載せて葉っぱ越しに肉を掴み、食べない葉っぱの部分をよけて、ソータはギギの肉にかぶりつく。

 彼は今までも生きていく中で何度もこの肉を食べたが、やはり肉のうまみは素晴らしく、育ち盛りの彼にとってはピッタリであった。


 彼がウルガに拾われてから約16年ほど。年月の数え方など彼らにはないため、何歳になったかなどはないが、結果的にソータは16歳になった。もちろん、彼らと生活する中で彼の身体能力もとても高いものとなっている。



 一家団欒という形で4人が楽しく食事をしていると、近くでガサガサと音が鳴る。

 真っ先に気づいたイギーがそちらに目を向けると、


 「ん、ギギか…ちょっと狩ってくるか。ソータ、手伝え」


 「ん、ふぁぁ、ふくいくぉ」


 手元にあるギギの肉を一気に口の中に放り込み、咀嚼しながらソータがこたえる。ソータは服、いわゆる布巻と同じ要領で作った動物の毛皮製の靴で立ち上がりながら、草むらから急いで離れたギギを追うイギーのもとへ走る。

 全速力で逃げるギギとイギーの速度は同じくらいではあったが、ギギが直角に曲がることができないのに対し、イギーは木々をうまくよけながら、ギギをうまくソータの位置へと誘導する。

 そして、結果的にソータへまっすぐにギギが向かっていく。ギギの方もよけることができないと考えたのか、さらに速度を上げてソータへ向かっていく。


 「ソータ!そっちへ行ったぞ!」


 「ああ!わかってる!」


 ソータはイギーの忠告に答えながら、土煙を挙げながら走ってくるギギを中腰になって待ち構える。高さは大体ソータの腰くらいある大物だ。その迫力は思わず逃げてしまいそうなレベルだ。


 そして、訪れる衝突の瞬間。

 ソータはギギが突進してくる際に後ろに下がりながらギギの頭を左手で押さえ、横に跳ぶ。そうして、うまくギギの側面に着いた瞬間に足を前後に構え、



 ギギの側面に思いっきり右の拳を叩きこむ。



 うまく拳が入ったギギは左前にある大樹に正面衝突して頭を思いっきりぶつけたせいか、ピクリとも動かなくなった。

 もちろん、拳を叩きつけた本人はというと何の怪我もなく無事にのしたのである。


 

 その後、走ってきたイギーが、


 「お、無事しとめたか!じゃあ、さっそくここで食べようぜ!」

 

 などと、笑顔でつまみ食い宣言するのを諌めながら、女性組2人が待っているところまでソータ一人でギギを担ぎながら向かった。

 その道中、イギーがすごく食いたそうに手の爪をガジガジしながらジト目であった。つい10分前にウルガに言われたことなどすでに忘れているのだろう。


 こうして持ち帰ったギギの大きさに女性陣も大はしゃぎしながら、その日の晩飯としてソータが解体し、4人分に分けておいしくいただいた。どうやらそのギギは長いこと生きていた結果、肉がとてもしっかりしていて格別のうまさだったとか。

 もちろん、道中何回もつまみ食いしようとしたイギーの件をこっそり女性陣に伝えると、夜にソータが寝てる間にイギーが怒られていたのをソータは知らない。



 こうして何事もない一日が過ぎていくのであった。

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