第6話:手合せ・前編
麗は手にしたナイフを投擲し、静は拳銃を構え直して銃撃を試みる。ひた走る死の脅威に、二人の賞金稼ぎはそれを素早く躱した。
ナイフを横に躱したグラシアは、それと同時に腰に下げていた得物へと手を伸ばす。愛刀の柄を掴んだ彼は、ナイフの投擲後、躱す方向を読んで接近しようとしてくる麗に対し、逆に一歩踏み込む。その反応に
グラシアとの距離を置いた麗は、近くの机に置いてあった食事用ナイフを掴み取る。そしてそれを、こちらに駆け出そうとしているグラシアめがけて投擲した。一直線に疾走するナイフの切っ先に、グラシアは首を傾げてそれを躱す。顔のすぐ横を通過したナイフはそのまま宙を裂き、背後の壁にダーツのように突き刺さった。
ナイフを躱したグラシアは、そこから一足飛びで麗へ迫りゆく。低空を
再び距離を置き、しかし麗はすぐさま振り返りグラシアを視界に捉える。斬撃・膝・斬撃の三連撃を繰り出したグラシアはそこで一旦動きを小休止させていたが、麗が振り返り、彼女が脳へのダメージから僅かに身体を横にぐらつかせたのを見ると、すぐさま床を蹴って迫っていく。相手がふらついている好機を逃す気はないのか、彼は攻撃の手を緩めない。
そんな彼へ、麗はスリットから別の得物を取り出す。拳銃だ。揺れる視界の中でそれでも銃口を照準すると、迫りくる敵へ対して発砲を敢行する。連続で吐き出される弾丸に、一瞬前に気づいたグラシアは横へ跳び、机と机の間に身を転がして弾丸を躱す。弾丸は空を切って壁に吸い込まれ、真新しい
机の陰に身を潜めたグラシアは、麗が蹴られた部位に手をやりながら立ち上がろうとするのを密かに覗きつつ、次の攻撃に備えた。
そんな中で、銃声は続く。
麗が放ったものではない。別の戦局で行われる戦いにより発生したものだ。
グラシアと麗が
拳銃から銃弾を吐き出す静に、アンガーは床を蹴って横に移動して弾丸を躱す。次々と進んでくる弾を背後に、アンガーは高速で駆け抜けつつ、同時に少しずつ駆ける軌道を直線から弧に変えて静へと迫る構えを見せる。それを悟った静は、銃を構えながら近くの机に置いてあった皿を、乗っけられた料理ごと投擲する。空中で料理を散じさせながら迫る皿をアンガーは躱すと、それで鈍った彼の動きを見て静は銃撃する。料理を目晦ましにして仕留める算段だったのか、静はアンガーを狙撃した。
だがその瞬間、アンガーは突如として走行速度を加速、一気に静へと迫ってくる。銃を撃ちながら、弾丸を掻い潜って迫ってきた彼に、静は瞠目しつつも後ろへ退き、姉同様にスリットからダガーを引き抜いて近距離戦に備える。次々と走る弾丸を避けながら迫るアンガーは、瞬く間に静の間合いへと踏み入ってきた。彼が刃圏に入った瞬間、静はダガーを振り抜く。アンガーの首筋めがけて放たれた斬撃は、不発。彼は静の横手へ回り込むと、拳を握ってモーションに入った。その動きを見た静は、銃とダガーを持つ両腕をガードの回し、攻撃に備える。
直後、鈍痛と衝撃が彼女を襲った。
ガードに突き刺さったアンガーの拳は、防御したにもかかわらずその衝撃を彼女の身へと伝播させる。凄まじい破壊力で、防御のために掲げた両腕は痺れると共に痛みを伝え、同時に彼女の華奢な身体を吹き飛ばす。静の背は後方の机に激突し、そのままバウンドして彼女を前のめりに床へ叩きつける。衝撃に彼女は苦痛の呻きを漏らしつつ、すぐさまアンガーの接近を警戒して顔を上げた。
反応鋭い彼女へ、アンガーは近くの机の上に置いてあるビールジョッキを掴んでから、悠然と近づいていく。他の客が残していったそれに口をつけて
その余裕に満ちた態度に、静は憤激で
そちらでは、無音の凶刃が姉妹の片割れに襲い掛かっているところだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます