第3話:美人姉妹の同業者
注文を頼もうとしたその時、彼らの鼻孔に酒場では異質な香りが届いた。香水の臭いだ。女性のものか、強く男性の理性を刺激するその香りに、二人は
現れたのは、どちらも黒の鮮やかな
彼女らは、アンガーたちの視線に気づくとニコリと笑う。最初から彼らが目的だったかのような視線と立ち振る舞いで、するすると彼らの席のすぐ側までやって来た。
顔を上げる二人に、長髪の方の美女が声を発す。
「こんにちは。賞金稼ぎのアンガー・フレイマーさんと、グラシア・ハートレスさんですよね?」
「おう、そうだぞ。なんだアンタらは?」
鈴のような声の問いに、アンガーは即答する。そこには、何の不審も警戒もなかった。
気さくで闊達なその反応に、かえって相手側は少しばかり戸惑ったようだ。こうもあっさり肯定の返事が返ってくるとは想定していなかったのだろう。多少は
ただ、相手側のもう片方は違った。
「やっぱり! よかった、勘違いかと思ったわ」
短髪の方のもう一人の美女は、手を合わせて喜色を浮かべていた。長髪の美女と比べると、少しだけ幼さを残した童顔である。
「いきなり声を掛けてごめんなさい。こっち界隈では有名人の二人が、たまたま同じ酒場にいるのにびっくりしちゃって」
「同業者か?」
話の内容から、グラシアが鋭く情報を読み取って訊ねる。好意的なアンガーと違い、彼は平静な横目を向けていた。
その反応に気を取り直したのか、長髪の美女が顎を退く。
「えぇ、そうよ。急に声を掛けて驚かせたかしら?」
「いや……。こいつの反応を見てみろ。どう見ても驚いていないぞ」
そう言って、グラシアは目でアンガーを示す。その指示の先で、アンガーは美女二人の姿を上から下まで観察中であった。その目は、多少
グラシアの指摘とアンガーの反応に、美女たちは横目を合わせて笑みを溢す。
「そうみたいね。突然知らない人間が声を掛けても、あまり警戒しないタイプなのね、貴方たち」
「? なんで初対面の相手をいきなり警戒しなければならないんだ?」
相手の言葉に、アンガーは不審そうに
そんなアンガーの様子に、美女たちは笑みを微苦笑に変える。微苦笑であるが、その実なかなか楽しげだ。
「なかなか胆が据わっているのね。まぁそうでもなければ、この
「で、話しかけた用件はなんだ? ただ何となく言葉をかけてみた、というわけじゃないんだろう?」
カップを傾けながら、グラシアは事務的に訊ねる。アンガーと違い、彼は色欲に意識を持っていかれていないようだ。
彼の問いに、長髪の美女の方が顎を引く。
「えぇ、うん。そうね。私は
そこまで言って、二人組は目を合わせる。そのやりとりに、アンガーは目を瞬かせ、グラシアは微かに目を細める。
「同じ世界に生きる者として、いくらか貴方たちに憧れていたの。だからその、一緒に話でもしない? この際、いろいろ聞いてみたい話があって」
「なんだそんなことか。いいぞ。おい店員さん、ここに椅子を二つ持ってきてくれ」
相手の願い出に、アンガーは即座に
そんな二人の反応に、美女二人は顔を合わせて笑みを浮かべ合う。それには、喜色とは微妙に違う含みがあったが、アンガーやグラシアはたまたまそれには気がつくことがなかった。
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