第3話

 放課後、僕は倉木さんがいつも隠れるように教室から出ていくのを知っていたので、僕も隠れるようにして駅へ向かった。彼女の詳しい住所は知らないけれども、電車で同じ方向に向かうことは以前同じ車両で見かけたことがあったので知っていた。


駅に着くと、学校の他の生徒がまだ来ていないことを確かめ、ホームの端っこから彼女が電車に乗り込むのを確認し、僕も同じ電車に乗る。それから、彼女が乗った先頭の方へ、車両から車両へと僕は移動して行く。


先頭車両に着いた。


僕はもう一度、知り合いがいないかどうか確かめ、がらんとした車両の中、倉木さんが座っている座席の方へ向かう。


数秒、僕は考え、躊躇した後、彼女の前にすっと進み出る。


声をかけず、そのまま彼女の斜め前に立ち、つり革をつかんだ。


彼女は気配に気づき、僕をふっ、と見上げた。僕は思わず、僕自身の罪悪感を駆り立て、不快感を思い出させる彼女の顔と表情から目を背ける。彼女は、無言。僕も黙ったまま。そのまま数分我慢しないといけないのだろうかと思い始めていたところ、意外な反応があった。


「室田くん」


彼女は、まったくの無表情で僕の名を呼んだ。そして、続ける。


「わたしと一緒にいると、後で室田くんが困るよ」


僕は彼女の言葉を半ば無視して質問で返す。


「垂れ流しになる、って何が」


「排泄物」


僕は、彼女と、電車が彼女の駅に着くまでの十数分間、人間の根源にかかわるような話をすることになった。

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