君が求める明日

@no-pain-no-gain

第1話はじまり

「死にたい。」

4階建ての校舎の屋上。午後12時20分。

雲ひとつない晴天。


私は1人で考える。

特になにがあったわけではない。

いじめられているわけでもなく

決して多いとは言えないが一緒に

バカやってくれる友達に囲まれて

日々笑っている。

両親もどこにでもいる普通の両親。

むしろ一般より優しいと思う。

一生懸命うちこめるようなものもあり

それをできる環境もある。

でも、時々ふと考える。

ーーーなんか、死んでしまいたい。

   まぁ、チキンな私は死ぬことなんて

   本当にはできないだろうけれど。

   でももしも痛くなくて苦しくなくて

   死ぬ方法があったとしたら。

   私は死を選ぶだろう。


「私が死んだら何か変わるのかな…」


声に出して、恥ずかしさを覚えた。

ーーー1人でなに言ってるんだ…中二病みたい…

「おわり、おわり。かーえろ。」

ひとつ下の階の教室へ歩いて帰る。


授業終了まであと3分。

そろそろノートを片付けて

鞄を背負い走り出す準備をはじめる。

チャイムの音。

先生へのあいさつもそこそこに

スタートダッシュを決める。

更衣室へ向かう途中、同じように走ってきた

チームメイトと目を合わせてにやりと笑う。

更衣室に走りこむとすぐさま着替えに移る。

「やばいよ、○○さんもうきてた。

「うわ、怒られるじゃん。急ご!」

「でもたぶん、○○さん今日部活来ないよ」

「え?そーなの?」

「誰情報?」

「でたwそれすぐ聞くよねw」

「誰かによって信憑性がねw」

「キャプテン情報!」

「じゃあ、信じられるわ。」

「なんで休み?」

「さぁ?」

会話をしながらもそそくさと動く手。

半分は体育館の準備へ、もう半分は部室へ荷物を取りに行く。

一人また一人と更衣室を後にしていく。

最後の一人を残して私も出ようとしていた。

「○○さん、やばいらしいよ。」

「え?」

ぼそっと残された一人が言った。

その時廊下からは挨拶の声。

「「こんにちはっ」」「「っちわ」」

―――やば。先輩来ちゃったよ

「急いで体育館いこ!先輩来たよ!!」

「うん。」

私も体育館へと向かった。

最後の言葉が気になったけれど、それよりも先輩が体育館に来たことの方が

私にとっては重要なことだ。

文句を言われたらたまったもんじゃないし。



「片づけ~」

「「はーい」」

下級生はモップがけをしなければならない。このハードな練習の後のモップ…辛い。

そして先輩も片づけるそぶりは見せるけれども

『何、先輩に片づけさせてるんだよ。気づいてさっさとかわれ。』

という無言の圧力。


「代わります」

「いや、いいよいいよ。」

ここで『そーですか』と引き下がると『いいっていったからってそんなにすぐにひきさがるな』と

理不尽な説教をくらってしまう。

―――それなら最初からかわれよ…というか片づけをする素振りを見せなくていいから。

「もう自分の役割のところは終わらせました。代わらせてください。」

「そう?じゃ、お願い。」

―――疲れるわ…

そんないつもの片づけタイムを珍しく見ていた先生が言う。

「話があるので片づけ終わったら集合」

「「はいっ」」



「話というのは○○のことなんだが。さっき親御さんから連絡が入った。

しばらく入院することになったそうだ。試合も控えて本人もお前たちも思うところが

あると思うがみんなで支えてやろう。話は以上。気を付けて帰るように。」



電車が出発するまであと8分。

田舎の電車は一時間に一本しかない。これを逃すわけにはいかない。

校舎から駅までの道のりを自転車を全速力でこぐ。

―――なんで駐輪場は地下にあるんだ!!!

エレベーターを使っていたら間に合わない。

階段を駆け上がる。あと1分。

「…ぎりぎりセーフ」

「はぁ~しんど」

「汗かいた~」

入り口付近にかばんを置いて壁にもたれかかる。

同じ路線に乗るのは私を入れて三人。

電車に乗ると各々携帯や音楽プレーヤーをかまいだす。

私は動き出した電車の窓から見慣れたいつもの景色に目をやりながら考える。

―――○○さん、大丈夫なのかな。なんかしたほうがいいのかな。

  そもそも、なんで入院?なにも言ってなかったけど昨日までの様子を見る限り怪我ではない。

  試合も近いし、落ち込んでるだろうな。

  まぁ、そのうち退院するか。詳しくはその時聞こう。

  同級生でもないし、私たちが何かする必要はないよね。

そんな風に頭の中で自己完結したら降りる駅についていた。

「おつかれ~」

「ばいばーい」

一人残っているチームメイトに軽く挨拶をして電車を降りる。


「ただいまー、おかえりー」

我が家は晩御飯を終えると各自、部屋に戻ってこもるため私の帰宅時間にはほとんどリビングに人はいない。

ご飯を食べるときは唯一駅まで迎えに来てくれていた母のみが同じ部屋にいる。

「はらへった~」

「おなかすいた、でしょ。」

自分の普段の言動は棚に上げて言葉づかいを注意する母。

―――私の言葉遣いの悪さはあなたを見て育った影響が大きいと思いますけど。

心の中だけで抗議をしておく。

口に出すとめんどくさいことになるからね。

「そういえば、○○さんが入院したんだって?」

「え、なんで知ってるの?」

「保護者会のグループラインでその話がでてたから」

「あ、そーなんだ。詳しくは聞いてないからわかんないけど。なんで入院?」

「なんか病気だって言ってたけど。詳しくはお母さんも聞いてないわ。」

「そーなんだ。まぁまた何かしら情報は入ってくるでしょ?」

「そーだね。わかったらお母さんにも一応おしえてよ?」

「おっけー。」

ご飯を食べることに夢中になりだした私にこれ以上は話を聞かないと判断したのか

母はTVに向きなおした。


「あと10分で出ないと遅刻だよ。」

遅すぎる母のアラーム。

―――なぜもっと早く声をかけてくれないんだ・・・

普段から朝ごはんは食べないし、教科書は学校のロッカーの中、服は制服だし

朝やること言えば顔をあらって、歯を磨いて、練習着と弁当を突っ込んで出るだけなので

実は10分でも余裕で出発できる。女子としてはどうかと思うけれども。

「さ、行こ」

「行こ、じゃないでしょ」

「お願いします。」

いつものやりとり。でもなんだかんだ言いつつもお願いしなくても

エンジンかけて待っててくれるところはほんとにありがたい。

―――ありがとうございます。

母は全然気づいていないけれど、黙って拝むポーズをとって心の中だけでお礼を言う。

「いってきます」

「気を付けて。」

電車に乗りこむ。同じ路線の二人とは、

朝は人が多めでそろって同じところに座ることはできないためバラバラに座る。


長い坂道を駆け上がる。

私たちの乗る路線は始発の時間が他の路線より

30分ほど遅く、自分たちよりも早く

学校に来ている先輩がいるのだ。

そんな先輩から文句がとんでこないよう

毎朝坂道ダッシュで登校している。


○○さんの入院の話を聞いてから一週間がたっていた。

息を切らして上る私たちの目に

○○さんの家の車が映る。

「…はぁ、はぁ、あれ○○さん家じゃない?」

「…あ、本当だ。」

「はぁ、はぁ、はぁ…どこ?」

車から降りてきた○○さん。

―――おぉー、退院したんだ。

いつもの様子と変わりないように見えた。

実を言うとちょっと苦手な○○さん。

でも退院できたことは素直によかったと思う。

―――あとで声かけてみよ。

「とりあえず体育館向かお。」

「だね。」

「うん。」


朝練が始まる前の5分間。

久々にあった○○さんに皆が群がっていた。

「大丈夫?」

「もういいの?」

「ってか、なんで入院してたの?」

「ほんと、よかったねー!」

「待ってたよぉ」

「お騒がせ野郎めーっ(笑)」

「心配したよ。」

○○さんの返答を聞く間もなく皆がそれぞれに話しかける。

「はいはーい。聞きたいことや言いたいことは

皆あるとは思うけれど、朝練始めるよ。半分にわかれてー」

「「はーい」」

それぞれが動き出したのをきっかけに

さっと一言○○さんに声をかけた。

「元気になられてよかったです。また今日から頑張りましょうね。」

「…うん。心配かけてごめんね。」

心なしか浮かない表情だったように見えたが

それ以上何も言うことなく○○さんは反対側のコートへ行ってしまった。


それからさらに一週間が過ぎた。

また、○○さんは学校へ来なくなった。

○○さんが部活に戻ったあの日

試合が近かったこともあり、○○さんの入院の理由などを

聞く余裕が皆になかった。

戻ってきたのだから治ったんだ。と

治ったならもういいや。と思ったのだろう。

かくいう私もそのうちの一人だ。

まさかまた入院するなんて皆が思わなかっただろう。

再度入院することになって皆が

『なぜ?そんなに重い病気なの?』と

気にしだした。


「○○さんってさぁ…やばい病気なのかな。」

「なんの病気なのかな。どこが悪いの?」

「もう戻ってこれないのかな。」

「えー、大丈夫でしょ。検査とかじゃない?」

「でも入院だよ?」

「誰か詳細知らないのかな。」

更衣室で着替えをしながら話すチームメイトたち。

―――あれ、そういえば最初に入院したって先生から聞く前に

  やばいらしいっていってた子がいたような…

そう思ってちらっとその子に目をやった。

田中みどり。たしかこの子は○○さんと

同じ中学校出身のはずだ。

すこしうつむいて黙々と準備をすすめている。

―――みどりに聞いてみようかな。何か知っていそうな気がする。

「先行くよー」

「急いでよー?」

チームメイトたちが出て行った。今しかない。

「ねぇ、この前先生の話を聞く前に

○○さんのこと知ってる風だったけど、何か知ってるの?」

「…」

「知ってるんだったら教えてほしいな。

同じチームの人のことなんだし。やっぱり皆も心配だし。」

「…私も全部を聞いているわけじゃないけど。

実は○○ちゃんとは幼馴染だから。本人から少し話を聞いてて…」

「そうなんだ。だから知ってたんだね。

それで○○さんは何病気なの?大丈夫なの?」

「わかんない。ただ、あんまり楽観視できるようなものではないって

○○ちゃんのお母さんは言ってて…」

「えっ…そうなんだ…」

「うん。」

「なんか、どうしていいかわかんないね。

私たちにはどうすることもできないし…」

「…うん。」

「とりあえず、もういこ。部活始まっちゃう。

今度一緒にお見舞いに行こうよ。それで話聞いてみよ。気になっちゃう。」

「…そうだね。私も行けてないし、ちゃんと状況を知りたい…。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君が求める明日 @no-pain-no-gain

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る