第414話 大阪市浪速区難波中の焼きめしセット(スタミナ中華)

「よい映画だった」


 日曜の朝。平日仕事後の回が当面見当たらなかったため、気になっていた実話怪談の映画を鑑賞すべく難波に出ていた。


 『きさらぎステーション・フェブラリー』として『裏世界ピクニック』にも登場したあの駅を巡る物語である。


 単純に怪談の内容を追うのではなく、それをモチーフとして和風ホラー映画として絶妙な物語になっていた。個人的には、かなり好みの御華詩で大満足である。


 が。


「腹が、減った……」


 映画で心は満たされても、腹は満たされない。


 劇場を後にしなんばパークスの南側にでる。とりあえずオタロード方面を目指すと塩ラーメンの店を通るのだが。


「いや、今はそうじゃない」


 次にソーキそばの店があったのだが。


「お、こんな店が……って、まだ開店していないか」


 早い時間だったのが徒となった。


 そのままオタロードに入るも。


「いや、マシマシではない」


「いや、家系でもない」


 どうしよう、今の私は何腹なんだ?


 そうして、わんだーらんどを覗き、オタロードの西側の店にでたところで。


「お、そういえばこういう店があったな」


 大衆中華を謳う店である。中華のメニューの中に麺もある、という感じだったが、そういえば長い間メニューを観ていなかった。


 店頭のメニューを観ると。


「なんだ、これは?」


 以前は、昔ながらの鶏ガラ醤油の中華そばと、味噌や豚骨などの定番のバリエーションだった気がするのだが、今のバリエーションは。


「スタミナ中華に宮崎辛麺に台湾ラーメン?」


 昔ながらの中華そばはそのままながら、なんで、バリエーションが辛味ラーメン各種になっている?


 これは、面白い。


 そうだ、私の腹はこういうのを求めていたのだ。


 なれば、入ろう。


 店内に入れば、左手がテーブルをアクリル板で一人づつに区切ったカウンター。奥にテーブル席。


 カウンター席に案内されて陣取り、メニューを開く。


 大衆中華の中華そばもいいが、ここは。


「焼きめしセット、スタミナ中華で」


 と注文を通す。麺が選べるタイプのセットはありがたい。


 後は待つばかりとなれば『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』の時間だ。現在は東國編のプルメリアのターン。新しいリリーが来てしまったので倍率はそこそこで粛々と進行中。


 とはいえ、そう時間はかからないだろう。おでかけを仕込んだりストーリーを読んだりで時間を過ごせば、注文の品がやってきた。


「そうそう、こういうのでいいんだよ、こういうので」


 半球状に盛られたシンプルな焼きめし。スタミナ中華は、赤いスープに白菜とキクラゲ、そして、煮玉子と角切りのチャーシュー1枚。


「いただきます」


 まずは、スープを一口。


「うんうん、期待通りの味だ」


 ニンニクと唐辛子の効いた、ピリ辛スープ。白菜を囓れば、シャクっとした食感。クタクタが好きではあるが、こういうのもいい。


 焼きめしをいけば、香ばしい脂の旨みと米がいい塩梅だ。


 麺を啜れば、中細ストレート麺は飾り気無くシンプルな味わいで、スタミナスープに染まってズルズルといただける。


 きくらげは、そのまままるっと入っているので、コリコリの食感をたっぷり楽しめるのが嬉しい。豚は小ぶりながら旨みがしっかり。煮玉子は濃すぎずスープに馴染む味わい。


 ああ、いいぞ。


 大衆中華な空気感と味わい。


 最近忘れていた味わいだ。


 麺と焼きめし。定番のメニューを飾らず味わう。


 心地良く食を楽しみ。


 焼きめしを食らいつくし。


 スープも最後まで飲み干し。


 水を一杯飲んで一息。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて、店を後にした。


「さて、帰るか」


 駅へと足を向ける。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る