第408話 大阪市中央区西心斎橋の辛つけ麺(大盛り、2辛)

「なかなかいいオチだったな」


 ゴールデンウィーク初日。朝一でずっと気になっていた映画を心斎橋でようやく観ることが出来た。


 強大な力を身に付けた終末の戦士が、終末がこないまま放り出され、恋に落ちる、そんな物語。あと、尾崎豊。


 大真面目に馬鹿馬鹿しかったり恥ずかしかったりすることをしているのがよい。漫画的な演出をいい感じに表現している。実写化というとアレルギー示す人が多いが、ここ数年、個人的にはどの実写化作品もそれなりの味があってよいものだった。


 映画を見終えて心が満足しても、


「腹が、減ったな……」


 空腹はどうしようもない。


 この後は西宮に出るので難波駅に向かう。道中で何かを喰おう。


 生憎の雨の中、御堂筋沿いにしばし南下しつつ。


「そういえば、長いこと行ってない店があったな」


 とある店を思い出す。


「確か……」


 御堂筋から西側に入り、普段馴染みのないアメリカ村へ。そのまましばし進めばつけ麺と書いたのぼりが見えてくる。


「お、ここだここだ」


 のぼりの場所が、思っていた店だった。こじんまりしたつけ麺屋である。


 店内を覗けば、幸い席は空いているようだ。


 厨房から張り出したコの字型のカウンターが十席あまりあるだけの店内に入り、入り口横の食券機の前に。


「ここは辛つけ麺……って、大盛り別料金になったのか、なら、それも」


 以前は大盛り無料だったが、色々材料費が上がっているのだから当然のことだろう。


 空いていた角の席に案内され食券を出せば、


「辛さはどうしますか?」


 とたずねられる。三段階。


 以前は3辛にしていたが、


「2辛で」


 無理はしないのである。


 後は待つばかりとなれば『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』の時間である。現在はタワー攻略イベント『い・け・な・い♡ルナンシー先生』が開催中である。真少年が死んじゃう!


 軽く攻略を進めて一息ついたところに、注文の品がやってくる。


「そうそう、こういうのだったなぁ」


 大きな更に盛られた麺は艶やか。海苔が添えられているのが見た目のアクセントか。


 つけ汁は、赤茶色に、水菜が浮いている。あとは、メンマとチャーシューが沈んでいるはずだ。


「いただきます」


 さっそく麺を浸して喰らう。


「おお、小麦の香り」


 最初は麺の風味。


「つけ汁も、基本的なつけ麺の汁の味がベースながら旨みがしっかりあっていいな」


 続いて汁の旨みが来て。


 そして。


「しっかり、辛いな」


 文字通りの旨辛。結構キツイ辛味なのだが、旨みが先に来るのである。


 ずるずるとツルッとした麺をモリモリと喰らう。辛味は食欲もブーストする。具材も混ぜ込みながらどんどんと喰らい。


「そろそろ、これを入れるか」


 席においてある、おろしにんにくだ。


 思い切って匙一杯を放り込めば。


「う~ん、辛味とニンニクの相性、抜群」


 旨みを邪魔せず風味が足されている。後から来る辛味も健在。


 いい感じの味変を楽しんでいれば。


「もう、終わりか」


 大盛りの麺と言えどペロリだ。


 だが、まだ終わりじゃない。


「これがある」


 席の置かれたポット。割りスープだ。


 軽く注げば。


「ほぅ」


 柚子と生姜が入ったスープは、いい塩梅でつけ汁をまろやかに仕立ててくれる。


 ゆっくりと味わって飲み干し。


 最後に水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、難波まで歩くか」


 傘を差し、南へと。

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