第405話 東大阪市長堂の半ちゃん焼飯定食麺大(味噌味 野菜多め こってり)
「春、だなぁ」
昼飯を喰おうと布施に繰り出したのだが、せっかくなので桜で賑わう足代公園まで足を伸ばしていた。
そろそろ葉桜になってきているが、それでも、薄桃色が彩る景色を眺めていると心地よいものだ。
しばし、魅入っていたが。
グゥ、と。
腹の虫が鳴いていた。
「そうだな、花を見てても腹は膨れん」
花より団子、というよりは花を楽しんで、麺、だ。
そう、今日は麺の気分だったのだ。
ということで、足代公園を出て東へ。商店街を抜けてイオンの前で道路を渡らずに右折。少し先の黄色いテントが目的の店だ。
「そこそこ入ってるなぁ」
地元の馴染みの店、という風情の昔ながらの味わいが楽しめる店である。実際、四半世紀以上この場所に存在している店である。
店内へ入ると、「空いている席にどうぞ」ということなので、厨房をL字に囲むカウンターの角席に陣取る。
水を持ってきてくれた店員に、
「半ちゃん焼き飯定食麺大、味は味噌で、野菜多め、こってり、付け合わせはキムチで」
と注文を通す。何気にこの店も詠唱的なものがあるのだ。
後は待つばかりとなれば『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』の時間だ。遂に七周年を迎えたゴ魔乙。現在は記念イベントの五乙女のターン。ロザリーステージを粛々とこなしている。とはいえ、出撃する時間があるか微妙なところ、おでかけを仕込むに留める。
そうして、水を飲んで一息入れていると注文の品がやってくる。
「ああ、こういうのこういうの」
褐色のスープで満たされた丼には、たっぷりのもやしと刻みねぎ。その上にはゴマと味噌が載っている。
焼飯はオーソドックスな佇まい。キムチは付け合わせという風情の小皿。
「いただきます」
まずは、スープを。
「うんうん、これこれ」
豚骨味噌でこってりにしたが、それでも今時の豚骨味噌に比べると優しい味わい。だが、それがいいのだ。本当、昔ながらの味わいというやつだ。
もやしを浸して喰えば、臭みはなく、シャキッとした歯応えと豚骨味噌のハーモニー。麺を引っ張り出そうとすれば、大盛りの細ストレート麺が重量を持って箸に絡んで来る。そのまま頬張ればまた、麺を喰らっているプリミティブな喜びがある。
チャーシューはタレは付いていなくて豚そのものの味が塩気で引き出されるタイプ。これは、麺やスープと一緒に喰らって真価が発揮される。主張しないからこその旨さ。
飽きのこない、ふと喰いたくなる、そういう味だ。だからこそ、長い間この東大阪の地にあり続けるのだろう。まぁ、元を辿れば京都の店の暖簾分けだがそれはそれとして。
焼飯に手を伸ばせば、これまたオーソドックスな味わい。味付けが濃すぎないのが、麺と合わせるのにちょうどいい。
麺を喰らっている。焼飯を喰らっている。ちょっとキムチでアクセント。
ああ、いい昼食だ。
気の向くままに喰らい、褐色のスープだけになった丼にヤンニンジャンを少し入れ、最後は味噌スープとして堪能する。
スープを飲み干し。
水を一杯飲んで一息入れ。
「ごちそうさん」
会計を済ませて店を後にする。
「少し、歩くか」
買い物がてら、布施の町へと。
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