第399話 大阪市西区新町のラーメン(塩とんこつ麺200g野菜増し増しにんにく増しアブラ増し)

「今日は、しっかり喰わねば」


 ここのところ、色々と食事に気を使ってはいたが、気を使い過ぎるのもよくない。単に減らせば栄養失調となるのである。


 バランスが大事だ。


 つまり、軽く済ませ過ぎたあとは。


「ガッツリ喰わねばならんのだ」


 かくして、合唱の練習の帰り、私は西長堀の地へと降り立っていた。


「こっち、だよな?」


 北東の出口から出て、長堀通り沿いを東へしばし歩く。


「たしか、あのコンビニの前で左折、だったな」


 24時間営業になってもかつての営業時間を関するコンビニが道路の対岸に見えたところで、北へと折れる。


 そのまま、しばし歩き。


 右に折れれば、


「お、あったあった」


 赤地に白字の縦長の看板が見える。


 まだ夜の部営業開始まで少し時間があり、店先には、二人ほど先客がいた。


 続きに並んで、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、ヴァン・アレン帯の誕生祭のイベント中だ。リリーの出番がないのでロザリーのステージを周回してほどほどの順位をキープはしている。


「って、APがない、な」


 ここへ向かう道中でステージ周回をこなしてしまったので、出撃するためのリソースがなかったのだ。


「なら、本でも読もう」


 とある素敵な眼鏡さんが一人で映画を観て面倒臭く語ったりする漫画の最新刊で未読の英国魔法少年漫画の映画版が扱われていたのだ。


 エヴァは観たと油断していたが、そちらのネタバレを含む内容を観るには、原作を抑えておかねばなるまい。


 幸い、読み放題に入っている。


 かつて、折り返しまでの巻は読んでいたが、せっかくなので最初の巻から読み始めたのだ。その続きを読み、偉大になれる寮を否定して勇敢なる寮に入ったところで、店が開いた。


 店内入ってすぐの食券機で基本のラーメンの食券を確保し。


「塩とんこつ? 平日限定?」


 見慣れぬ張り紙を気にしつつ、細長い店内のカウンター席へと着く。


 食券を出し、


「麺は200gで」


 と並の300gより量を抑えて注文したところで、


「塩とんこつ、できますか?」


 と尋ねる。


「できますよ」


 ということで、塩とんこつに決定だ。


 後は待つばかりとなったので、魔法学園の続きを読んで幽霊たちの話を思い出していると、


「にんにく入れますか?」


 順番がやってきた。


「にんにく増しで。野菜増し増し」


 そこで、今日の食生活を思い出す。


 脂を全然摂取していない。


 なら。


「アブラ増しで」


 と頼んでもいいだろう。アブラは取りすぎはよくないが、取らなさすぎても色々と潤滑油や保護の役割を果たしたりもしているので、よろしくない。


 だから、増していいのだ。いいのだよ。


 何かに言いわけしていると、まずは小皿で増したアブラがやってくる。


 更に、


「塩用のカラメです」


 と半透明の塩だれの入ったボトルも出してくれる。確かに、席にあるカエシを入れてしまうと、醤油に寄ってしまうので、こういうサービス、ありがたい。


 そうして、いよいよ麺がやってくる。


「おお、いい感じだなぁ」


 丼の上にこんもりと盛られた野菜の山。よりそうは角煮然とした豚の塊二つ。重畳にはアブラの雪が積もり、麓にはニンニクの野が広がる。逆の山肌にはゴマと胡椒がかかっている。この辺りが、塩とんこつ用か。


 さて、どこから喰おうかと思っていると。


「増し増しの野菜です」


 丼がもう一つやってきて、麺の上と同量程度のアブラの乗った野菜が出てくるのだ。


「そうだな、確かに、これは、増しの量だ」


 麺の上には増しの野菜、もう一つの増しは別の丼。このスタイルは食べやすくてよい。


「いただきます」


 まずは、野菜をスープに浸して。


「うんうん、これは、想像以上に旨いな」


 塩だれと野菜にかかった胡椒で塩胡椒風味。スープのとんこつの出汁がまろやかに口内に広がってくる。醤油は外からガツンと攻めて豚の旨みを絞り出す感じだが、塩は豚そのものの味を内側からにじみ出させるように引き出すというか。


 思ったよりも、優しい味だ。※個人の感想です


 そのまま、野菜をモリモリ食えてしまう。


「これは、どんな感じだろう?」


 塩用のカラメを、別の丼に回しかけて喰らえば。


「おお、もう、これはもやしサラダだな」


 アブラの旨みと、カラメ自体にも旨みがあり、ドレッシング感覚で野菜が進む味わいだ。


 カラメで野菜を喰らい、スープで野菜を喰らい。


 ある程度丼に余裕が出たところで、豚とにんにくを沈めて混ぜ込む。


 ニンニクの匂いが加わるが、それでも、やはり、まろやかさは残っている。


 そのまま麺を引っ張り出せば、豚の旨みをしっかりまとっていてズルズルと食が進む。


 豚も、そのものの味わいをしっかりと感じられる。


 旨い。


 塩とんこつ、正解だ。


「さて、ここで更にこってりプラスするか」


 丼の中が空いてきたところに、別皿のアブラを投入する。


 別皿の野菜は、つけ麺ならぬつけ野菜の要領でスープに浸して喰らう。


 メインの丼にも、別皿の野菜にもアブラが乗っていて、更に別皿にも。


 中々のアブラ量だが、大丈夫だ、問題ない。


 今日のトータルなら、大丈夫だ、問題ない。


 一番美味しい食べ方をしているんだ。


 虚空に言いわけしてなんとなろう?


 喰らえばいいのだ。


 麺を野菜を豚を脂を。


 喰らう。


 一味の刺激を加えて、カプサイシンで代謝を促進させるのも忘れず。


 喰らう。


「もう、終わり、か」


 どろどろと脂の浮くスープが残る丼が目の前にあった。


 レンゲでしばしスープを追い駆ければ、とろとろな食感だ。脂の食感だ。


 余韻に浸るようにスープを楽しみ。


 最後に水を一杯飲んで名残を断ち切り。


「ごちそうさん」


 食器を付け台に戻し、おしぼりと袋は食券機下の所定の場所に戻し店を後にする。


「さて、帰るか」


 すっかり重くなった腹を抱え、駅へと足を向ける。

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